試し読み

特集

バリアフリー上映 本格始動はすぐそこ

画像提供:NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター

 2016年4月1日に、ある法律が施行された。「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」。いわゆる「障害者差別解消法」である。

 この法律は、障がいのある人もない人も、共に暮らせる社会を目指して制定されたもの。具体的には、役所や事業者が、障がいのある人に「不当な差別的取扱いをすることを禁止」し、「合理的配慮の提供を求める」という内容だ。正当な理由なくサービスの提供を拒否したり、場所や時間帯などを制限すること、健常者にはつけない条件をつけることなどが禁止される。また、負担の重すぎない範囲で、社会の中にあるバリアを取り除く努力が求められる。罰則規定はないが、社会に対し、全ての人が、障がいの有無で分け隔てられることのないことの無いように求める法律ができた意義は大きい。

 映画業界にもその対応は求められており、障がい者も映画館で問題なく映画を楽しめる環境の実現に向けて着々と準備が進んでいる。

 そもそも、法律の有無にかかわらず、全ての人が楽しめる場を提供することは、娯楽の王様である「映画」にとっては“使命”とも言えるのではないだろうか。

 後述するが、「映画を楽しみたい」という思いは、障がい者も健常者も同じである。さらに、技術の進歩により、本格的に映画館でバリアフリー上映をできる目途もついている。あとは、映画業界全体が積極的に取り組むことで、3D上映や4Dシアターと同様に、「バリアフリー上映」も日常的に利用できる日が訪れるだろう。

 文化通信ジャーナル5月号では、「映画のバリアフリー上映」について現状に迫り、新システムの仕組み、需要の有無、映画業界にとって必要な対応、そして今後のロードマップを取り上げる。

従来は課題多数

「バリアフリー」とは、高齢者や障がい者が、生活をする上で障壁となるものを取り除くことを意味する。

 映画におけるバリアフリー上映とは主に、視覚障がい者に向けた「音声ガイダンス上映」と、聴覚障がい者に向けた「(邦画の)日本語字幕付き上映」を指している。

 音声ガイダンスは、劇中のキャラクターのセリフとセリフの合間に、そのシーンの状況や光景、キャラクターの表情や動きなどを音声解説することで、映像を想像できる工夫がなされている。日本語字幕付き上映は、セリフはもちろん、話者の名前も表示する。さらに、どんな音やBGMが流れているかを文字にすることで、音声をイメージできるようになっている。

 バリアフリー上映そのものは、現在でも限定的に行われている。たとえば、2015年に音声ガイダンスの上映が行われた映画は『杉原千畝 スギハラチウネ』、『愛を積むひと』、『くちびるに歌を』など。その前の2014年は、6本の音声ガイド付き作品が上映された。本数は多くないが、年に数本は上映されている状況だ。日本語字幕付き上映はさらに普及しており、映連の4社(松竹、東宝、東映、KADOKAWA)の配給作品は、約70%に日本語字幕が用意されている。特に東宝は日本語字幕付与率100%と、業界でも先行してバリアフリー上映に積極的な姿勢を見せている。

 ただ、音声ガイダンス、日本語字幕ともに、現状では本格展開させるためには大きな課題があった。

 音声ガイダンスの場合、観客は小型ラジオとイヤホンを使って解説を聴いている。ラジオにFM電波を発信する形のため、上映当日にオペレーターが機材を劇場に持ち込み、映画本編の音と、解説音声が同期していることをチェックする必要がある。日にちや時間が指定されるため、利用者にとっては不便な上、スタッフの人件費がかかってしまう。

 日本語字幕の場合は、邦画に字幕が付いていることで敬遠する人も少なからずおり、上映回数を確保しづらい事情がある。ある映画館では、子供向けアニメーション映画の日本語字幕付き上映回を夜に設け、利用希望者が抗議するという事例もあった。

 いずれも、映画業界側にとっては負担が大きく、利用する側にとっては気軽に足を運べないのが実情だ。

新技術で大きく進歩

 そんな現状の課題を、ある2つの技術が劇的に改善し、数年前から一気にバリアフリー上映の本格展開に目途がついた。

 エヴィクサー株式会社が開発した「音声電子透かし」と「フィンガープリント」である。

 映画のバリアフリー化を目指すNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)が、これらの技術に着目し、バリアフリー上映に利用することを提案したことで、実現に向けて大きく進展してきた。

全文は文化通信ジャーナル2016年5月号に掲載

2016年5月号の目次

購読案内

試し読み一覧