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「第64回カンヌ国際映画祭2011」レポート(5)

【FREE】「第64回カンヌ国際映画祭2011」レポート(5)

2011年05月21日
「朱花の月」の河瀬監督(中央) 「朱花の月」の河瀬監督(中央)

【カンヌ5月19日=映画ライター・岡田光由】

 「萌の朱雀」(97)でカメラドール、「殯の森」(07)でグランプリとカンヌ国際映画祭で順調にキャリアを重ねてきた河瀬直美監督が、いよいよコンペティション部門の最高賞パルムドールを狙う「朱花の月」が5月18日、正式上映された。地元・奈良のデザイナーによるドレスを着た河瀬監督のほか、袴姿のこみずとうた、着物姿の大島葉子、それから明川哲也ら出演者が会場に姿を見せた。

 この「朱花の月」は、奈良・飛鳥地方を舞台に一人の女性と二人の男性が織りなす愛のドラマ。「万葉集で古代の人たちからの声を聞いて物語を書き始めました。飛鳥地方には大昔に卑弥呼がいて、卑弥呼みたいな私がいたらいいなと思い、物語を苦労して紡いだのです」と記者会見で述べた河瀬監督。さらに「どんなに文明が進化しても変わらない人間の営みを描くと共に、いにしえの人たちや自然への感謝と、人間と自然の共生を忘れてはいけない気持ちを映画に込めました」とも。

 また今回は初心に返って監督自らカメラを回しているが「これはハッピーなアクシデントでした。特に今回はクローズアップにこだわりました」と話し、「朱花とは万葉集に出て来る言葉で赤を意味するもの。赤は人間が最初に認識した色であり、一番褪せやすい色でもあるとかで、その赤をポイントに映像を作り上げました。私たちは全てを手にしているかのようだけど、実は滅亡の直前を生きているのではないかと古代の人が教えているように感じます」と胸の内も語った。

 上映後は5分間のスタディングオーベーションを受け、涙ぐむ河瀬監督は「見知らぬ年配のフランス人女性から手を合わされ、映画の真意が伝わったのかなと思って嬉しかった」と作品の手応えをしっかり感じたようだ。

※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。