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課題の「有事のCM対応」はどうなったか……3.11から丸3年

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課題の「有事のCM対応」はどうなったか……3.11から丸3年

2014年03月03日

 3月11日東日本大震災から丸3年を迎えようとしている。被災地ではいまなお深刻な課題が山積し、打開に向けた施策が切望されている。

 一方、放送界において、課題の一つとして「有事のCM対応」が残されたままになっている。大震災などの有事の際、ACジャパンのCMに差し替えてもCM料金が発生することは、契約上の決まりにある。だが、東日本大震災は誰も想像しなかった未曾有な事態にあって、CM自粛が長期化した。広告主側にとっては負担が大きい。今後再びこうした事態が起きた場合も同様の対応でよいのか。広告主側はテレビ局サイドに今後の対応の検討を提案している。広告主の団体である「日本アドバタイザーズ協会」(JAA=アド協)、広告会社の団体の「日本広告業協会」(JAAA=業協)、そして「在京テレビ5局」、この3者で話合いを持つようになるが、大きな進展は見せていない現状にある。

 あらためて、これまでを振り返ると、2011年3月11日、東日本大震災直後から3日間ほど、民放各社はノーCMで「緊急報道編成」した。その後、放送局側はCMを再開して「報道特番編成」を行った。

 震災直後の数日間の「緊急報道編成」は、放送局側の方針・意向でノーCMとしているため、当然CM料金は発生しない。課題となっているのは、その後の「報道特番編成」でのCM取引についてである。CM再開と称するものの、CMはACジャパン(日本公共広告機構)のCMを流した。これは状況を鑑み、広告主の意向で通常CMを流すのを自粛したためだ。だが、ACのCMに差し替えてもCM料金は発生する。放送局は、非常時におけるACのCM差し替えは、原則通常通りの料金請求が出来るようになっているためだ。しかし、東日本大震災は予想をはるかに上回る大参事で、放送局は前例のない長期にわたる報道特番編成を組み、ACのCMが流れ続けた。徐々に通常編成に戻り、通常CMも少しずつ復活するが、3月末頃まではACのCMが多く流れ続けた。

 広告主の中には災害で被害を受け生産中止となった企業も少なくなく、その商品CMを流せずとも支払いは生じるなどその立場は苦しい。減額交渉も行われたが、各社対応は異なり、原則は満額支払いにある。このため、JAAは各広告主のヒアリングを行った後、「有事のテレビCMの対応」を課題に挙げ、放送局側に話し合いを求めた。

 だが、放送局側にしてみると、民放局は広告メディアであると同時に公共メディアとして報道の役割を担っているため、非常時の際の対応に従っているだけだ。放送局側はおよそ3日間の緊急報道によるノーCM放送で、推定で各社15億~20億円の収入を失うだけでなく、大規模報道の取材のため制作費も大きく膨らみ負担が大きいという事情もある。そのため、話し合いはほぼ平行線のまま2年余を経た。

 ただ、その間に、当時ACのCMが溢れ過ぎたことは、社会にストレスを与えたと、3者が共通の認識を持つなどして、話し合いがわずかに進んだ。JAAからの〝広告契約の考え方について〟の検討要請を受けた在京民放テレビ5社は、昨年6月下旬、「重大な事象が発生したことにより、番組内容の変更が発生した場合は各局の判断で何らかの対応をする」と回答した。この判断は、テレビ5社の考えで、5社以外の民放連加盟社の局の判断ではないとした上で、「あくまでも、何か前例がないような事が起きた場合の判断の指針・方向性であり、具体的な詰めは今後の議論にゆだねたい」としている。

 これを受け、JAA(電波委員会)、業協(テレビ小委員会)は、これまで3者で意見交換、検討してきた結果をまとめ、今後の対応を整理するとともに、課題をまとめ今後の議論につなげることとなった。

 JAAと業協が昨夏にとりまとめた検討結果のポイントは次のとおり。

▼「広告会社としての有事への備え」として、広告主と担当広告会社が平時から有事における企業コミュニケーションのあり方、広告表現のあり方を十分に話し合い、検討課題を洗い出しておくこと、そして内容によってはその検討課題を放送局とも共有し事前に検討しておくことにより、有事に慌てることなく適切な対応を行えるように準備しておくことが重要。例えば、お見舞い広告ルールに関し、広告主と担当広告会社が十分検討し、その検討結果をもとに、広告会社は放送局にその表現や運用上のルールを明確化することが可能かどうかの働きかけを行う。

▼「番組およびCM再開のルール」は、放送局の報道機関としての編成権に属する問題であり、また各放送局それぞれの営業的判断が必ずしも同一ではないため、「番組およびCM再開のルール」を事前に統一基準として策定するのは難しいと考える。緊急特別番組のCMの取り扱いも、各放送局の営業判断であり、一律的な対応が困難な個別取引の課題であるが、広告会社は可能な限り広告主の広告活動に支障をきたさぬよう、また不利益にならないよう、それら課題に取り組む。

 また、JAAと業協の両者は、今後の検討課題として、(1)重大な事象の定義は、3者間で必ずしも統一認識に至っていないため、〝何を以て「重大な事象(有事)」と考えるか〟を、今後、意見交換の上、さらに検討を重ねる。(2)有事の際に、それぞれの広告主の広告活動の意向に沿った対応が可能かどうか、広告活動の社会的な有用性、国民社会に与える影響等を考慮しながら、さらなる検討を行っていく、とした。

 ACのCMに代わって、例えば、電気やガスなどのインフラ系広告や、伝言ダイヤル、生命保険など、有事の際に消費生活者に役立つ他社のCMに〝再販〟出来ないか、とする案がある。実際、当時、そうした企業がCMを流したいという要望があったが、CM枠が埋まっていたため、すぐには流せなかった。JAA側ではこうした柔軟な対応を求めたい考えだが、広告契約上の課題や、作業負担、CM放送確認が出来るか、など課題となっている。

 JAAは今年、定時総会翌日の2月28日に記者会見を行い、電波委員長の高橋健三郎常任理事・理事長代行(味の素㈱理事 広告部長)が、2014年度の活動方針の一つに「有事のCM対応」について言及した。「課題とされている『重大事象の定義や対応策』について、今後、在京民放テレビ5局の営業責任者と業協との話し合いで、第2ステップに進めていきたいと強く決意している」と述べ、話し合いの前進を望んだ。また、差し替えCMがACジャパンの広告だけでよいのか。他の方策はないのか。関係者と情報交換しながら生活者にとって意味のある形にしていきれば幸いとも話した。

 そして、近々に今後の進め方について、関係者で話し合う模様だ。


 以上が、これまでのおおよその概況。課題が提示されたままの状況で、ほとんど進展していないのが現状だ。広告主、放送局、双方にとって悩ましいテーマで難しい。CM契約はあくまで〝個別取引の範疇〟にある。しかし放送全体に関わる課題にありながら、話し合いは民放連ではなく、在京テレビ5局としているのが気になるところではある。ただ、二度とあのような大災害が起きないことを祈るばかりである。

(戎 正治)

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