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トップインタビュー:依田巽 ギャガ(株)代表取締役会長兼社長CEO

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トップインタビュー:依田巽 ギャガ(株)代表取締役会長兼社長CEO

2010年07月20日
「文化通信.com」オリジナル・トップインタビュー

新しいビジネス・モデルを作り上げていく




 1986年の創業から25年、独立系映画配給会社として、これまで幾多の荒波を乗り越え、ピンチをチャンスに変えてきたギャガ。昨年9月、社名を「ギャガ株式会社」に変更し、「第三創業」としての新体制をスタートさせた。
 再起を賭け、今年1月に公開した勝負作「オーシャンズ」が興収約25億円の大ヒットとなり、その後も「コララインとボタンの魔女3D」、「オーケストラ!」、「第9地区」(WB共同配給)などスマッシュヒットが続いた。
 そして、今年5月開催のカンヌ国際映画祭では、新たに劇場公開作品5本の権利を取得するなど、原点に戻り、映画配給業を主軸に据えた経営を打ち出している。
 代表取締役会長に加え、昨年9月から社長CEOも兼任し陣頭指揮を執っている依田巽氏に、新生ギャガが志すもの、経営理念、事業展開などについて聞いた―。




熱いパッションを持ち続けられるか

 ―まず、昨年の9月からここまで約10ヵ月を振り返って頂けますか。

依田 基本的には本業を大事にしようという意味で、洋画の輸入配給をきちんとしていこうということと、邦画作品もできる範囲内で関わっていきたいということがベースになっています。その上で、映画というコンテンツから、アニメ、インターネットも含めた多角展開や、新しいビジネス・モデルを作り上げていくことにも種をまきはじめて10ヵ月が経ちました。

 一番大事なのは、やはり社員一人一人がどのように会社の将来に夢を見出し、そして一人一人が熱いパッションを持ち続けられるかということだと思います。やるべきことをきちんとやる、してはいけないことはしない、という行動指針を日ごろから社員に示したいと思い、毎週月曜日の朝礼やその他の機会を通じて、経営理念や経営哲学など、私の思いを常にくり返し話し続けています。その辺が、私の今まで10ヵ月間の最も意を用いてきたところです。

 私どもが扱う作品は、自分たちできちんと責任を持って公開し、そしてそのウィンドウを100%活かし切って、多くのステイクホルダーに対し収益を還元できれば、ベストだと思うのです。とにかく、はずさないと。全社一丸となって、思いを入れたマーケティング活動をしようということです。1人のサクセス・ストーリーでは、会社は維持できません。やはりチーム・スピリットがきちんと維持されて、全員参加のビジネスにしないと、企業は生き残っていけないと思います。この基本的なことを社員全員がきちんと認識し、共有することを、私はこのギャガでやりたかったんです。

 今までの私のビジネス経験から、過去に関わった企業やビジネスでの失敗を反面教師に、やってはいけないことはやらないというのが、大事なビジネスの秘訣だと思っています。どうやったら過去に自分が遭遇した失敗をせずにやれるのか考える――それが結果的に成功に導く、最良の処方箋だと思っています。

 実はギャガの役員になってもう11年目なのですけれど、実際自分で舵を取ってまだ10ヵ月、今まで人様にお任せしてきましたけれども、今は名実ともに代表者という立場で、経営幹部も含めて1人1人の社員に、時には厳しく言うこともあります。全員が思い入れをもって成果を上げれば、その成果をみんなで喜び、分かち合えるということを示したかったので、今年は気持ちの一端として大入り袋も出しました(笑)。とにかく会社が成功すれば、みんなが幸せになれるのだと。その成功体験の積み重ねが大事だと思っています。


 ―「オーシャンズ」が大ヒットしたことは、大きかったのではないですか。

依田 そうですね。やはり「運」「流れ」や「気」といったことが大事ですから、新体制でスタートを切り、全社一丸となってやっていこうという機運が高まってきたところで公開した「オーシャンズ」は絶対に成功できると思っていました。 “成功できる”と確信しなければ、なにも成功しません。全社員が、私のティー ワイ・グループの企業も含めて、みんなでとにかくこの作品をヒットさせようという、チーム・スピリットが最高に盛り上がった作品になりました。今まであったように、ヒットするから宣伝費をかける、というのではないのです。

 私は、もともとIT時代の到来を15年前に予見し、エイベックスでニューメディア準備室を私の直轄で立ち上げたのですけれど、インターネットやモバイル技術の進歩に伴う、ストリーミング、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、ツイッター等のサービスの出現により、メディア環境も劇的に変化していますから、マーケティング・コストのかけ方も変えていくべきだと思っています。かつての発想で、興収を高く狙うために宣伝費をかけても、私はビジネス効率としてはよくないと思っています。大体PL(損益計算書)というのは上から読みますけれども、下から読むという発想で、、通常私は「いくら損するの?」という所からスタートします。
 
 ―昨年9月に新生スタートさせる前までのギャガに“課題”があったとすればどんなところで、そこをどう変え、新しいギャガにしていこうと思われたのでしょうか。

依田 先ほど申し上げたように、「いくら損するの?」というところから私は経営をしています。どんなにいい話があっても、その裏にはたいていトゲがあるのですよ。だからと言って、「映画という文化、映画というコンテンツに思い入れがあるの? メイキング・マネーだけじゃないの?」と言われると、それは違います。私も映画が好きだからやっているわけで、総合芸術と言われる映画文化が持つ、固有の、幅広い文化度の高さに、本当に私は惹かれていますから。しかし、多くの人のサポートと資金を使ってやる以上は、利益を出さなかったら意味がないわけです。劇場興収で赤になるのでしたら、これはもう全く意味のない話。それは私が言うまでもなく業界のみなさん方はよくご存じの話ですけれど。

 「人に任せて、そんなに時間を割かなくてもいいでしょう」と言われたこともありますが、私はそうではなく、自分が思い入れを込め、地に足を着けていかないと、と考えています。私もいろいろな仕事をしていますから、多忙なのですが、ギャガが好きなのです。苦しい時も、厳しい時もありますが、非常にエキサイティングなビジネスですしね。


 ―今年3月に行ったラインナップ発表の時にも、依田さんは「これまでで今が一番働いている時だ」と仰っていましたが、やはりそういうモチベーションをお持ちだということですね。

依田 自分がその気にならなかったら、出来ない仕事ですからね。仕事だと思ってやっていません。若い社員たちもみんなそうで、仕事だと思ってやっている人は、うちにはいないと思います。きちんと休暇を取って、ゆっくりする時はして欲しいということを言っているのですけれど、みんな好きで仕事をしているのですよね。


 ―まだUSEN傘下の頃、一昨年の春、映画の買い付け、製作出資から一度撤退したわけですが、今年5月末、新作5本を新たに買い付けたことを発表されました。改めて買い付け、製作出資に対する方針としては、積極的にやっていこうということなのでしょうか。

依田 ギャガは洋画の輸入配給をベースに25年やって来ましたから、私どもに対する海外の権利元、製作者からの信頼感、期待感は非常に高く、インディペンデントとして適正な、良い映画を選ぶことができる立場にあります。ですからまずは「作品ありき」で、良い作品があれば、きちんと収益のシミュレーションを行った上で、買うべきものは積極的に買い付けていきます。また、邦画については、まだまだ経験不足なビジネス領域であり、一朝一夕にはいかないと思いますが、ぜひとも参入の機会を得たいと思っておりますし、邦画製作の皆様にはどんどんお誘い頂きたいと思います。


 ―カンヌで作品を買われて、買付金額などは一般論としては安くなったのですか。

依田 はっきり言って安くなっていると言えるでしょう。日本の買い付ける量が、昨年、一昨年ぐらいまでは世界でもトップクラスだったのですけれど、昨年は外国映画の買い付け金額のランキングが、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、日本という順だという記事がちょうど今年のカンヌの時期に出ていました。日本は買わないというわけです。あるいはディストリビューション・ディールで持って来てしまうとか。ですから、確かに下がっています。今までが高過ぎたのだと思います。全世界の興収の10%が日本とか、「高くてもいいから買ってしまえ!」「MG(ミニマム・ギャランティ)と同じだけP&A(プリント&宣伝費)をかけてしまえ!」などというのは、それこそバブルですよね。それが全部はげ落ちて、正常化に向かってきたのが2005年ぐらいからです。それまでは買って、資金を回さなければいけない企業があったということですね。

 今は高く買うととてもシミュレーションが成り立たないから、買えない。そうすると権利元にしてみれば「じゃあ、もう作品を預けようかな」という話から、「安くしてあげるから、なんとかやってよ」というレベルになって行く。日本がスペインの次だと言われるとちょっとショックですけれども、2000億円の興行市場があるわけで、これは世界でも2位ですから。そういう意味では、洋画が頑張ればいいということです。


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