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構想20年…。70歳のP.マッカートニーの最新アルバム

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構想20年…。70歳のP.マッカートニーの最新アルバム

2012年02月01日

 「今やらなければ、もう絶対にやらなかった」と言う。

 元ビートルズのポール・マッカートニーが、子供の頃に慣れ親しんできたスタンダード・ナンバーの数々に初チャレンジしたアルバム「キス・オン・ザ・ボトム」を2月8日に発売することになった。

 「ずっと前から温めていた企画だったんだ。ただ、やろうとするとロビー・ウィリアムスとかロッド・スチュワートとか…、いつも誰かに先を越されたんだ(笑)。でも今回のプロデューサーのトミー・リピューマに相談したら、そんなこと気にしないでやろう、って。誰かとのデュエット・アルバムは作りたくなかった。それもトニー・ベネットがやっているしね」。

 ポールは、英ロンドンのハイド・パーク近くにあるヘンぺル・ホテルのB1Fにあるアート・ギャラリーで、アルバムについての思いを語った。

 約5年ぶりのスタジオ・アルバム。構想に20年を費やしたと言うほどの力作である。濃紺のスーツにピンクのシャツで現れたポールは、終始上機嫌だった。

 今年はビートルズがデビューして丁度50年の年。しかも、ポールにとっては「古希」(6月18日)を迎える、いわば “節目の年” でもある。そういった中で満を持して制作されたアルバムが今回の「キス・オン・ザ・ボトム」だった。

 「僕の親の世代が正月に歌っていたようなアメリカの古き良きスタンダード曲を以前からずっとやりたいと思っていたんだよ」。

 ポールは、アルバムについて、そう語ると、その内容については「誰もがカバーする、完全に分かりやすい曲は避けて選曲した。場合によっては、あまり知られないような、もう少し変わった曲が欲しかった。ただ、その時代のいいと思う作品を選んだわけで、アメリカとか…。どの国の作品かは関係がなかった。たまたま、アメリカから素晴らしい作品がたくさん生まれただけ。実りの多い時代だったんだ。だからそうすることにしたんだ。王道からちょっと外れた方向に進むのはいいことだよ」。

 もっともスタンダード・ソングばかりではない。ファンのために「マイ・バレンタイン」と「オンリー・アワ・ハーツ」という2曲の描き下ろし作品もしっかり収録している。

 ポールは、昨年10月9日、婚約していた米国人女性ナンシー・シェベルさん(51)とロンドン市内の公会堂で結婚した。ポールにとっては3度目の結婚である。「マイ・バレンタイン」は、新妻ナンシーとモロッコに旅行中、まさにバレンタイン・デーに書いた曲なんだという。そういった意味ではアルバムの発売日もタイムリーだが、それ以上にポールらしい思い入れも詰め込まれている。

 また、ギターではエリック・クラプトン、ハーモニカではスティービー・ワンダーもレコーディングに参加するなど、ポールと豪華共演も実現した。因みに、ポールとスティービーの共演は1982年3月発表のシングル「エボニー・アンド・アイボリー」以来、実に30年ぶり。「エボニー・アンド・アイボリー」は、ポール・マッカートニー&スティービー・ワンダー名義でリリースされ、全米・全英1位に輝いている。

 「トミー・リピューマが『スティービーはどう?』って提案してくれたんだ。ハーモニカで参加してもらったんだけど、たった20分くらいであの素晴らしいソロを吹き込んだんだ。…とにかく、スティービーはロサンゼルスのスタジオにやってきて、10分ほどトラックを聴いただけですべてを理解していた。そしてマイクのところへ行き、20分もかからずにドラマティックなソロを吹き込んだんだ。このソロを聴いたら誰もが『どうしてこんなことができるの?』と思うだろうけど、その理由はただ一つ、スティービーが天才だからだよ」。

 ところで、東日本大震災から間もなく1年を迎える。震災の直後に「言葉では言い表せないくらい、現在の日本の皆さんのことを痛ましく思っています。私の友人、家族、そして私自身も、全員がこの困難な状況下にいる皆さんに愛と幸せへの祈りを送ります」といったメッセージを届けてきたが今、ポールは、被災地に対して、どう思いを寄せているのか?

 「昨年、地震と津波、そして原発事故の被害に遭われた東北の方々の一刻も早い復旧を、今も心から願っています。新年が皆さんにとって希望に満ちた年になりますように…」

 新作に関するインタビューではリラックスして答えていたポールだったが、震災被災者へのメッセージを尋ねると、表情が一転して真剣になっていた。

 「僕は、(今回のアルバムを)リラックスするものとして楽しんでいる。仕事先から家に帰って、靴を脱いで、ホット・ココアでもワインでも紅茶でもいいけど、お気に入りの飲み物を飲んで、くつろぐのが想像できる。そういうアルバムなんだよ」。

 聞き逃せない1枚になりそうだ。

(渡邉裕二)

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