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大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.4

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大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.4

2010年10月26日

◎トム・クルーズ奮闘も、米映画スターの不在ぶりを実感

 
トム・クルーズとキャメロン・ディアス主演の「ナイト&デイ」が、10月24日現在で、興収16億円を記録した。前回記した“20億円の壁”は超えると見られ、悪い成績ではないが、さてこの興行をどう見たらいいか。

 日本人がもっとも見知っていて広範囲な人気を誇るハリウッド・スター、トム・クルーズとキャメロン・ディアス共演の米製娯楽大作であるが、意外性がなく、落ちつくところに落ちついた成績といった感がある。もちろん、人気者2人の作品であるから、凡百の米スター共演の作品とは一線を画している。しかし、“20億円の壁”とは別の壁が、そこには横たわっている気が、私はしているのである。

 ここで思い出すのが、トム・クルーズが、同じくキャメロン・ディアスと共演した「バニラ・スカイ」という作品(2001年12月公開)。個人的には、高く評価している作品だが、わかりやすい娯楽大作の類いではなかった。この作品の興収が、何と33億2千万円。この成績であっても、事前の予想をかなり裏切ったと記憶している。

 もちろん、その当時はトム・クルーズの絶頂時ではあったと思うが、あの難解な要素のある「バニラ・スカイ」にして、30億円をあっさりと超えていた現実からすれば、問答無用の娯楽大作の「ナイト&デイ」の成績は、いささか物足りないと言っていいのではないか。シネコンが増えた今の興行事情も、9年前とは大きく違っている。

 私はここに、大物米スター共演の米製娯楽大作の限界というか、今日的な興行のありようを痛感する。トム・クルーズにして、かつて当たり前だった30億円を超えるのは、大変な時代になってきたということである。ハリウッドの若手から、“日本での“人気者が出てこない今の現状からすれば、後は推して知るべしということになる。ここ1、2年続いてきた米映画の低調ぶりも、当然背景にあろう。若者の目が、邦画に向いてきた傾向もある。

 かつて日本人は、米映画を憧れの目で眺め、その根幹には光輝くハリウッド・スターが、間違いなく存在していた。その構図が、今や大きく変わりつつある。というか、その変化の兆しを見せて、すでに随分経つのである。本来、その任をトム・クルーズに負わせるのは酷な気もする。スターは、いつの時代であっても、人気の永続性を保つことはできないからだ。

 だから、真に問題となるのは、何故今、ハリウッドから日本人の気持ちを強く捉える若手の人気者が登場しないのか、ということになる。日本人は、より内向きの傾向が強くなったのか。はたまた、憧れめいたものは、韓国へ向かったのか。

 ともかく、誰かが言った言葉を引用するなら、映画は時代を映す鏡でもあろう。ハリウッド・スター不在のこの時代。映画から、映画興行から、まさに今の日本の現状が見えてくるのではないか。
                                                       (大高宏雄)



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