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C&Iエンタテインメント社長、久保田修プロデューサー

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C&Iエンタテインメント社長、久保田修プロデューサー

2012年10月22日

正直何度も諦めかけ、諦めた時もあった

 ―『のぼうの城』ですが、予想以上のスケール感がありました。

久保田
 この時代に製作費10億円の映画を作らせてもらえるのは有難いことで、幹事のTBSさんとアスミック・エースさんに大感謝です。


 ―本来であれば昨年公開でしたが、1年間延期なったことについては。

久保田
 それについては異論はないです。もちろん、これは映画ですよとか、津波ではなくて水攻めですよとか、これは史実に基づいているんですよ、というエクスキューズはいくらでもあるんですけど、ただあれだけ圧倒的な現実を前にしたら、それに対応しないというのは無理ですよね。対応しなきゃいけないと思ったので、そこに関しては異論はないです。


 ―1年延期になっても“鮮度”が落ちていなかったように感じました。

久保田
 元々流行りものではありません。もちろん原作小説が「本屋大賞2位」を獲ってそんなに間が空かないうちに、売上部数が伸びているうちに公開したいとかいう思いはありましたけど、話自体が凄い現代的ですので、1年、2年のタームで鮮度が落ちるものではないし、そもそも完成までに8年かかっていますから(笑)、その間に鮮度が落ちていったのかというとそういう問題でもないですからね。


 ―完成までの8年はどんな年月でしたか。

「のぼうの城」メイン.JPG久保田
 この作品だけをやっていたわけではないのですが、正直何度も諦めかけ、諦めた時もあったんです。それでもやはり最終的に諦め切れなかったのは、馬鹿みたいですけど、やっぱりシナリオが面白かったからなんです。和田竜という才能を世に出さなければいけないのではないかというような変な義務感を持ったのも確かでした。これだけ巨大な才能がアマチュアでいるというのは良くない。世にプレゼンテーションするべきではないか、それはある種プロデューサーの仕事の重要な一部だと思いました。脚本は映画にならないと、ひと目に触れずに終わっていくんです。そういう素晴らしい脚本を何本も知っているので、それだけに何とかしたいという思いはありました。
 それと勇気づけられたのは、2005年の段階で既に野村萬斎さんが出ると言ってくれていたことです。04年から動き出して、05年に萬斎さんまでキャスティングしたのですけど、にっちもさっちもいかなくなり、一回停止状態になって、また再始動させてという流れがあるんですけど、05年の段階で出てくれると言って下さっていたのも支えになりました。もちろん、犬童監督、樋口監督がやりたいと言ってくれているのもありました。


 ―二人監督体制は最初からですか。

久保田
 最初は犬童さんと話し、『メゾン・ド・ヒミコ』(05年)を準備している頃にシナリオを読んでもらいました。そして、あるタイミングで、その頃はまだ原作小説がないので、この映画のスペックを高めるという意味で、樋口さんを投入したらどうだろうかというのは、その頃一緒にやっていたアスミック・エース(当時)の小川(真司)プロデューサー(現ブリッジヘッド代表)が言ってくれて、これは面白いかもしれないと犬童さんに相談したら、それはいいとなったんです。この二人は元々仲良しだったので、05年1月の段階で和田さん、犬童さん、樋口さんで打合せをはじめています。ここまでは具体的に動いていたんだけど、この辺から完全に停滞時期になり、苦肉の策で原作小説を作ってもらうという、まさに奇策に出たのです(笑)。小学館を引っ張ってきて、和田さんを説得しました。ただ、小説が書けるのかという問題がありましたが、本人をやる気にさせるためには、まず小学館を口説いてしまったのです。シナリオを小学館に読んでもらい、約束はできないけど映画にしようと思っているんだと。それで和田さんに「小説にしたら出版してくれると言ってるんだけどやってみないか!」という風に投げたのです。
 良く言えば思惑通りなんですけど、まさかこんなに大ベストセラーになるとは思っていなかった(笑)。ビックリ仰天でした。タイトルを「忍びの城」から「のぼうの城」に変えたということも功を奏したと思います。変な話、仮に映画が出来なくても小説になると残るので、せめて和田竜という人を世に出したということで勘弁してもらおうと思ったのです。そうしたらまわりの環境も変わってきて、TBSの濱名(一哉)さんが声を掛けてくれたのです。


 ―撮影現場で大変だったのはやはり水攻めのシーンですか。

「のぼうの城」サブ.JPG久保田
 時代劇はやはりセットアップするまでに時間がかかります。実撮影時間は意外と短いんですよ。朝の4時くらいから準備しても、撮影できる状態になるのは10時とか11時になってしまい、すぐお昼で、デイシーンだったら頑張って18時過ぎくらいまでですから、撮影出来るのは。『のぼうの城』に限らず、時間とお金が足りないと思わなかったことはないですが、今回もやはりそれは感じました。あと時代劇なので人が多く出るシーンはセットアップに時間がかかります。その中で犬童監督、樋口監督は素晴らしい仕事をしてくれました。
 モンタージュで創っていくという、ある種非常に論理的なモンタージュで映画を語る、まるで1960年代くらいの洋画だったり、大作日本映画のような的確さを感じます。役割分担というよりは、そんなに二人が打合せすることもなく、このシーンに関しては前衛が犬童さん、後衛が樋口さん、このシーンに関しては前衛が樋口さん、後衛が犬童さんというのが決まるんです。それでずっと二人がモニターを見ているという状態でした。スケジュールの関係上どうしても2日間くらいは二手に分かれたことは京都でありましたけど、それ以外はずっと二人でやっていました。


圧倒的な経験と知識に裏打ちされた演出

 ―『るろうに剣心』が新しいジャンルの時代劇ならば、『のぼうの城』は?

久保田
 こちらは、黒澤(明)映画的とかそういうことではなくて、過去の映画の知識を含めた圧倒的な経験と知識に裏打ちされた演出です。そして、シナリオが新しいんですよ。シナリオがそうでないと今作れない。人物造形が新しく、キャラクターが凄く粒だっていいます。語弊を恐れずに言うとアニメ的に粒だっている、非常にキャラクターが分かりやすいことと、主人公ののぼう様という造形は今までにない造形でした。
 総大将なのにいわゆるへなちょこであるという、一番魅力的なのに最後まで不可解であること。彼がどこまで意識してやっていたのかがわからないまま終わっていくというミステリアスな感じ、掴みどころのない感じがちょっと新しいのではないでしょうか。それは一歩間違えれば危険なことでもありますが、野村萬斎という人を得たことで、この掴みどころのない、捉えどころのないのぼう様という人が非常に魅力的にフィルムに現れたということです。面白いんだけど、のぼう様ってよくわからないという感じなんですね、シナリオでは。のぼう様という人はどういう人なのかという状態で撮影入ったというのがあったんですけど、萬斎さんの芝居を観た時に初めてなるほど! のぼう様ってこういう人だったのかと腹に落ちた気がしました。


 ―萬斎さんでなければ演じられなかったのではないかと思えました。

久保田
 難しいですよね。キャスティングする時には田楽踊りの事は僕は全く考えていませんでした。のぼう様みたいな特殊な元々何の能力もないのに人気があるという設定自体が無理目なのに、かつ正直なんだけど、ただ正直なだけではなく、策士の側面もあるというところを含めると、どこまでが彼の意識下で、どこまでが無意識下で行われているのかがわからない。そういう人を映画の場合は生身の人間に演じてもらわなければならない場合に、そう考えると萬斎さんしかいない。独特の存在感があるトリックスターですね。


 ―役柄に合った俳優が脇を固めていたように思います。

「のぼうの城」1.jpg久保田
 本当に死にキャラがいないですよね。和田さんの脚本をまた上手く撮っているんですけど、その辺が犬童、樋口両監督の凄さ。普通だとごちゃごちゃして、あれ誰だっけ?となってしまったり、結局キャラクターがはっきりしなかったりとなってしまうのが、全部わかりますものね。エンターテインメント映画を作る上での、経験と技術としか言いようがないです。
 例えば、傑作『大脱走』(63年)などだって、みんなキャラ立ちしていたじゃないですか。あれが僕にとっての娯楽映画なので、お話も面白いし、アクションも面白いんだけども、登場人物たちが魅力的だというのは、昔のアメリカ映画ってああいう風だったと思うんです。群像だけど、ちゃんと魅力が出ていて、それが本作でやれているのは凄くロートルファンとしては嬉しい。自分たちが少年時代に、ワクワクしたアメリカ映画が持っていたパニック映画であり、アクション映画なんだけども、そこに出ている登場人物たちの人生をちゃんと感じることが出来る魅力的なキャラクターをやれたことは凄く嬉しかったです。今こういう映画はなかなか作れないですよ。
 萬斎さんは自分で「台風の目」と言っていたんですけど、確かに台風の目でそこにはなにもないという。ちょっと不思議な映画なんですよね。この人を中心にしてぐるんぐるん動くんですが、実はこの人は一体何?というのは最後の最後まで掴めないという意味では、実は特殊な映画なんですよね。


 ―8年間かかっただけのものが完成したと?

久保田
 プロデューサーとしての想いは当然ありますが、後はお客さんに委ね、まな板の上の鯉です。手応えというのは難しいですよ。素晴らしいキャスティングですが、いわゆる人気者のキャスティングではないので、その辺の難しさは感じます。観てもらえれば間違いないと思うんですけど、時代劇というだけで敷居が高くなってしまう人もいると思うので、ベストセラー原作といえども予断は許さないですね。
 あと、この話が面白いのは、主人公のほとんどが中年というところがポイント。石田三成軍は若いんですけど、のぼう軍は一人を除いてはみんな中年なんですよね。実は中年ボーイズが頑張る話なので、そういうところが若い人たちにどう受け止めてもらえるのかというのはあります。でも、設定を若くしてしまうと駄目なんです。佐藤浩市さん演じる丹波などは戦の経験がある人じゃないと駄目で、長い時間、丹波と長親=のぼう様が過ごしてきたからこその友情だったりするので、あまり青年がやっても説得力がありません。若い人が「嫌なものは嫌なのじゃ!」と言っても単なる我がままに聞こえてしまう。いい年こいた中年男が子供のようにダダこねて、「ガキか手前は!」と言われる事で人間的な可愛らしさが出てきたりします。


 ―最後に、昨年、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の子会社になりましたが、シナジーは発揮されてきていますか。

久保田
 まだいろいろ模索中だとは思います。徐々に具体的に見えるような形を探っていきたいですね。細かい部分でのやりとりはかなり密にあるんですけど、具体的な成果として、これが相乗効果の結果ですよと言えるものはまだ見いだせていないです。ただ、そんなに遠くない段階で、その結果は現れるのではないかと思っています。(了)
【インタビュー:和田隆】

(C)2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ


『のぼうの城』

製作:「のぼうの城」フィルムパートナーズ
制作:C&Iエンタテインメント、アスミック・エース エンタテインメント
配給:東宝、アスミック・エース

監督:犬童一心、樋口真嗣
脚本:和田竜 小学館「のぼうの城」
主題歌:エレファントカシマシ「ズレてる方がいい」(ユニバーサルシグマ)
キャスト:野村萬斎 榮倉奈々 成宮寛貴 山口智充 上地雄輔 山田孝之 平岳大
西村雅彦 平泉成 夏八木勲 中原丈雄 鈴木保奈美 前田吟 中尾明慶 尾野真千子
芦田愛菜 ピエール瀧 和田聰宏 ちすん 米原幸佑 中村靖日
市村正親 佐藤浩市

11月2日(金)より全国ロードショー。




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