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東宝(株) 市川南取締役が語る!

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東宝(株) 市川南取締役が語る!

2014年02月19日

番組編成をする上では「ヒットしない作品を並べないこと」


和田 目標(予想)を下回る作品というのが減って、しっかり数字を上げられる作品が底上げされるようになったと昨年仰っていましたけれども、それでもまだ中には期待に届かない作品も昨年はあったと思います。そこは市川さんの中でどう分析し、次につなげようと考えているのですか。公開時期のタイミングなどもあったと思いますが。

市川 内容もそうなのでしょうけれど。たまたま最近10億円いくかいかないか、あるいは東宝の発表している成績表も10億円で区切っていますが、もともと10億円いかなくてもいいという作品もありますので、そこが合格ラインかどうかはわかりませんね。


和田 10億円いかなくてもいい企画というのは、その企画が通る段階でどういった要素が強いのですか。例えば、次の新しい才能を伸ばしてみようとか。

DSCF0389.JPG市川 そういう場合もありますし、10億円いかなくても劇場絞って、マニアックなアニメ作品などは違う発想で配給する場合もあります。それぞれ10億円いかない原因は違いますから、作り方の部分、売り方の部分――どこかに原因はあるわけですけれど。それを忘れていくのではなく、1本1本から反省し、その材料を今後に活かしていくということなのだと思います。


和田 10億円いかなくても合格という企画もあるというのは、重要なポイントだと思います。数年後、そこで撮った監督や出演した俳優が、次に20億円稼げるようになっていたりとつながっていたりするわけですね。年間の各作品の成績発表で10億円で切られてしまうと、「あれ、当たらなかったよね」と思われてしまいます。10億円以下のところでもしっかりトライしていたり、次のことを考えて作っていたり、配給したりというのがあるということですね。

市川 ヒットする作品というのはわからないのですよ。『永遠の0』がそうであるように、ヒットするかどうかはわかりません。ただ番組編成をする上で、「ヒットしない作品を並べないこと」なのです。「ヒットする作品を並べる」ことは不可能なので。
 同じ過ちを繰り返さないようにしていくと、難しそうなものを取り除いていって、結果当たるかどうかはわかりませんけれど、当たる確率が高まるということかなと。やはり1本1本が東宝の配給に向いているのかどうかを見極めて、やる以上はヒットするものをやらせていただくというつもりでいます。


和田 ここ10何年、毎年番組編成をする上で心がけてきたこと、その年に合わせて変えてきたことなどのはありますか。

市川 基本は同じでしょうね。東宝の配給する全国で250から300館に向いた作品を選ぶわけですけれど、それに向いた作品はわかりやすいわけです。例えば『謎解きはディナーのあとで』の配給を断る人はいないです。これは誰でもできるのですけれど、そうではなくて、そこに向かない作品を判断する力がついたかもしれませんね。
 それは私がというよりは、東宝の映像本部がということです。あるいは企画を持ち込まれる方も、東宝の選択眼を信頼もしてくださって、そこに向いた企画を持って来てくださるようになったということでしょうか。ですから配給者の私どもの選択眼と、テレビ局さんを始めとする作り手の皆さんの選択眼が、今はうまく同じ方向を向いている気がします。


和田 断り方も、次につながる断り方といいましょうか、表現が微妙かもしれませんけれど、今回は断っても、また次にいい企画を持って来てもらえるような関係作りもしっかりと維持してこられたからこそではないですか。

市川 断られて嬉しい人はいないわけです。ただ、私が映画調整部に来た時に、髙井(英幸・相談役)から言われたことが、断って「ありがとう」と言われるのがこの映画調整部のいい仕事、最高の仕事だということでした。それはなかなかないのですよ。断られたら誰だって嫌ですからね。ただごく稀に、この10何年間で「市川さんに断っていただいて、ありがとうございました」ということはありました(笑)。


和田 それは結果的に他社でやって成功したということですか。

市川 それか、止めると決断できたのかもしれません。

東宝に向いているか向いていないかのジャッジ


和田 市川さんの意見を聞き、そう言ってもらえたことで踏ん切りがついたということですね。

市川 作品を作っている方は、悪い作品と思って作っている人はいないですから。最高の作品だと思って作っているものを我々はお断りするわけですけれど、ただそれは東宝に向いているか向いていないかなのです。単館系でやればヒットもするし、作品の評価も高いものは、無理にそれを300館に広げようとしてキャスティングが変わり、何が変わりというのであれば、やはり単館系でやるべきなのだと思います。そういうわかりやすいジャッジですので、持って来てくださる方も今は東宝に向いたものだけを持って来てくだるようになっている気がします。


和田 一方で、近年東宝映像事業部も独自に小規模な邦画を手がけていますが、部署間で調整をしているのですか。

市川 それはしますよ。映像事業部はコンセプトがはっきりしていて、大がかりな宣伝をしなくともお客さまが集まりやすい映画、つまりAKB48等、音楽もののドキュメンタリーなどはそうですよね。あるいはアイドル主演ものだったり、コア層があるアニメ等です。そういったものを中心にしているので、公開規模も数十館から100館程度の公開です。自ずと映画営業部で配給する作品とはカラーが違った編成になっています。初日の調整だけはしますけれども、あとは独自にやっていて、お互いうまく住み分けていると思います。


和田 作ることに対して、市川さんの方から意見を言ったりするのですか。

市川 映像事業部に向いている作品を紹介したりすることはあります。


和田 映像事業部で小規模な邦画を作って、次に本番線にその才能をピックアップするというようなことも考えていらっしゃいますか。

市川 あり得るとは思いますけれども、そこまでなかなか戦略的にはできない気はします。やはり1本1本きちんと考えていかないと。


和田 そこは大田(圭二・取締役)さんが決められているのですね。

市川 大田がいて、古澤(佳寛)という室長がいますので、彼らを中心にやっています。


和田 インディペンデント系の会社にとってそういう場があり、もしかすると企画が通るかもしれないということになると、違うと思います。1961年から80年代にかけて活動したATG(日本アート・シアター・ギルド)作品のような。

市川 250館から300館の作品ではなくても、東宝で配給できるという意味では、レンジが広がるという役割を果たしていると思います。


和田 注目している若手監督、若手プロデューサーはいらっしゃいますか。

市川 テレビ局さん製作の映画でも石井裕也監督や、入江悠監督とか、次々に新しい世代の監督を東宝配給作品でも起用してきていますので、どんどん増えているのではないでしょうか。プロデューサーも各社若返っていますので、新しい才能が次々に出て来ていると思います。


和田 14年はどんな映画界、どんな年になりそうでしょうか。

市川 映画界全体のことまで考えている余裕はないですけれど(笑)。東宝のことで言いますと、今年はジブリさんの新作もある年なので、引き続き安定した編成のできている年だと思います。この10年を見てみますと、ジブリさんがある年というのはやはりいい年になっているのです。来年以降ジブリ作品の間隔が空くわけです。
 ただ、過去10年で見ていくと、ジブリ作品がない年にも12年には『海猿』『テルマエ・ロマエ』『踊る大捜査線』があったり、09年ですと『ROOKIES』があったり、07年は『HERO』があったり、04年は『世界の中心で、愛をさけぶ』があったり、ジブリ作品以外でのメガヒットが出て来ています。来年以降、ジブリ作品がなくとも、1本か2本メガヒットが出せるような作品を編成できればいいですね。


和田 新たな柱になる作品を編成して、生み出していけるかどうかですね。

市川 スタジオジブリは奇跡的な存在なので、細田守監督のようなメガヒットを狙えるアニメーション、実写の方も『踊る』『海猿』に続くメガヒット作品が出て来ればいいですね。


和田 メガヒットしそうな企画は集まってきていますか。

市川 そんなに先までは決まりません。ただ、各テレビ局さんも映画に対するモチベーションは依然高いので、いい企画が出て来ると信じています。(了)




DSCF0395.JPG
プロフィール

市川 南(いちかわ・みなみ)


平成元年(1989年)学習院大学文学部卒業、東宝株式会社入社。
平成18年(06年)に映画調整部長。
平成23年(11年)に取締役 映画調整担当兼映画企画担当兼映画調整部長。






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