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映画ランドのトータル・データマーケティング「EIGA-LANDING」とは

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映画ランドのトータル・データマーケティング「EIGA-LANDING」とは

2018年09月10日

文化通信ジャーナル2018年9月号に掲載

ジェイソン・ウォン氏.jpg



 映画チケット予約サービスを一般の映画館ユーザーに提供してきた「映画ランド」が、今度は映画業界特化型のサービス導入に本腰を入れ始めた。

 開発に1年あまり、試行錯誤を繰り返して満を持してリリースに漕ぎつけたのが、総合データ・マーケティング・ソリューション「EIGA‐LANDING」。

 これは、映画関連のユーザーデータとマーケティングソリューションを一体的に運用する商品。映画の宣伝プロモーションが、どれだけチケット購入という最終的な成果に結びついたかを検証。宣伝の効率性を高め、興行収入の増加も見込めるという、映画関係者は決して無視できない刺激的な触れ込みだ。


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 先月(2018年8月号)に続き、2カ月連続で実施する映画ランド特集。今回は、ジェイソン・ウォン代表取締役CEO(=写真)の解説を交えながら、映画のプロモーションに新しい風を吹き込もうとする映画ランドの果敢な取り組みに迫りたい。
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「チケット購入・予約」に関する公開データがなく、宣伝効果の検証が難しい

 映画の宣伝は、長期間にわたり行われる。邦画ならば製作宣伝から始まり、タイトルや原作、ストーリー、監督やキャストといった基本的な情報が明かされ、その後も予告編や完成披露、タイアップ、主題歌アーティストなど様々なニュースが段階的に発信されていく。公開が近づくとオンライン・オフライン双方での広告やパブリシティが増え、出演者のテレビ出演などもあり、映画に関する情報が多くの人の目に触れる。このように長い時間と少なからぬ予算をかけてプロモーションを行い、映画館への誘客を図る。

 では、情報に接触した人が、実際どれだけ映画館に足を運ぶのだろうか。第一報に触れた人のうち、映画に関心を持った人が何割いたのか。チケット購入に至った人が何割いたのか。従来はこれを把握するのが難しかった。

 ウォン氏は日々、配給会社や宣伝会社の担当者と話をする中で、根本的だが、とても大きな課題を共有するようになった。それは、興行収入とプロモーションの因果関係が不明確なこと。そして、プロモーションの仮説・検証の仕組みを作れないこと。課題解決に向けて「EIGA‐LANDING」の開発に着手した。



潜在顧客の属性を把握することが難しく、ターゲットに効率的に訴求できない

 宣伝では通常、映画を見るであろう、あるいは見てほしいターゲットを設定し、彼ら彼女らを映画館に取り込むべく宣伝プランを立てる。ここで問われるのは、立脚点であるターゲット想定の精度。主演俳優や作品のジャンルなど過去の経験や感覚で判断されがちで、いわば宣伝マンの勘に頼る部分が大きい。しかし想定が外れると、広告をはじめプロモーションの効率が悪化、映画がヒットする確率は低くなっていく。

 ウォン氏は、「映画宣伝においても、カスタマージャーニーをしっかり構築すべき」と力説する。「カスタマージャーニー」とはマーケティングの用語で、顧客が購入に至るプロセスのこと。顧客がどのように商品やブランドと接点(タッチポイント)をもって認知し、関心を抱いて、購入に至るかという道程を旅(ジャーニー)に例える。

 映画の場合、はじめにターゲットを設定する。これを「スタート」としよう。最終目的は、チケットを購入して映画を鑑賞してもらうこと。これを「ゴール」とすると、スタートとゴールの間には長い距離があり、タッチポイントがたくさん置かれ、ルートも複数ある。第一報から、多くのタッチポイント(ニュース、ポスター、予告編、イベント、広告、パブリシティなど)を通ってゴールに到着した人、つまりチケット購入者は、タッチポイントごとに何を考え、どんな行動をとったのか。従来の映画宣伝では、スタートとゴールを結ぶ中間部分で起きた出来事は見えなかった。


データの活用と可視化により、宣伝の効率化かつ最適化を実現

 映画ランドはこの不可視の部分を、データマーケティングによって見えるようにする。新ソリューション「EIGA‐LANDING」を通じて、宣伝戦略の構築、宣伝プランの設計という初期段階から関与し、広告配信の効果測定、本業のチケット予約・購入履歴はもちろん、鑑賞後の来場者属性の可視化まで、1本の映画を徹頭徹尾サポートする。

 ウォン氏によれば、現状のプロモーションは、たくさんの施策を実施して、ターゲットにいかに情報を多く届けるかに重点を置く。これはメディアミックス、いわば足し算の戦略であり、効率は高くない。効率を上げるには、プロモーションの明確なシナリオを設計し、各タッチポイントに適したメディアで施策を実施するクロスメディアの視点が必要。

 「理想は現状の足し算から、掛け算の戦略に転換すること」と説く。

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ビッグデータ、アドテクとAIを活用した、総合マーケティングソリューション「EIGA‐LANDING」

 「EIGA‐LANDING」は、「映画ランド」サービスの開発・運営を担う映画ランド㈱と、広告やデータソリューションの開発・運用を担うホットモブ・ジャパン㈱という、ウォン氏が代表を務める両社の総合力の結晶だ。

 具体的にみていこう。

 映画ランドはチケット予約を簡易化するアプリで急成長し、現在はWeb版も提供。見る映画を決めてから、映画館の座席表までの距離を大幅に縮める利便性の高さで、映画ファンの支持を獲得してきた。また、今年4月にリリースしたソリューション「予約誘導ツール」は映画の公式サイト内に置かれ、そこでエリアや日付などを選択すると映画ランドの上映スケジュールページに移動し、簡単にチケットを予約できる。映画ランドはチケットをすぐ買いたい人、あるいは近い将来に映画を見ようとしている人の利用が大半。購入は各映画館のWebサイトで行うが、上映スケジュールページで購入の一歩手前の履歴(どの映画を、どのバージョンで、どこの映画館で、いつ見るか)を把握できている。この予約履歴の活用が「EIGA‐LANDING」の基盤をなす機能の1つだ。

 もう1つは、ホットモブ・ジャパンの領域。ビッグデータ、アドテク、AI(人工知能)を活用し、以下のような手順で運用する。

①まず、AIに映画ランドが構築した約6万タイトルの作品データベースを学習させる。

②次に、AIに、世の中にある膨大なコンテンツの中からどのコンテンツが映画に関連するかを学習させる。

③映画関連コンテンツを検索・閲覧したスマートフォンなどのデバイス情報を蓄積する。

④映画関連コンテンツを閲覧したデバイスのデータと映画ランドのデータベースを解析・融合、「映画に関心のある人」のデータを細分化し、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)にデータを蓄積する――。

 ①から④までの工程を繰り返し、「映画に関心のある人」のデータを継続的に蓄積・分析することで、各デバイスを使用する利用者の年齢、性別、趣味、居住地やSNSの利用状況、映画の閲覧履歴や嗜好といった属性がつまびらかになる。


宣伝PDCAの効率化、潜在顧客と来場者属性の可視化を実現

 こうして蓄積した「映画に関心のある人」の細やかなデータを、各作品の宣伝プランを立案する際に放出する。

 Aという作品を宣伝する際、 宣伝チームはまず経験値や市場調査を基にターゲットを設定する。ここで「EIGA‐LANDING」の出番だ。膨大な蓄積データから作品Aに関心を持つ可能性の高いデバイスを抽出。つまり想定ターゲット(潜在顧客)を割り出し、個人を特定できないように加工した上でデバイスのデータを宣伝チームに提供する。長年に渡り映画業界が培ってきた経験値や市場調査のノウハウに、データに基づく判断を加えることで、宣伝プランの精度向上が見込める。

 次に、潜在顧客をリターゲティング(追跡)して広告配信の効果を測定。広告配信のたびに効果測定を行い、顧客の心理や行動を分析する。その過程で、広告効果が良くなければ、ターゲットの見直しやプロモーションの修正も随時行っていく。

 そして最終的に、映画ランドのチケット予約のデバイスデータと照合することで、最初に抽出・提供した潜在顧客とチケット購入者が同一かどうかを確認する。もちろん潜在顧客の全員が購入するわけではないし、潜在顧客に入っていなくても購入する人はいる。何故そのような相違が生まれたのか、結果を検証するのが重要なステップだ。

 ここまでは作品Aの話だが、1つの会社が「EIGA‐LANDING」を継続利用すれば、Aの結果を次作Bに、さらにCにとどんどん活用していける。検証を重ね、データが溜まるほどに、その精度も高まっていく。結果的に、宣伝予算の最適化、宣伝PDCAの効率化を実現できる。

 ウォン氏によれば、この商品の開発は、AIによるビッグデータの蓄積・解析、広告配信のテクノロジー、映画チケット予約など、高レベルの各種機能を自社で保有していることから実現できたという。映画業界で同様の機能をオールインワンで備えたソリューションは存在せず、今まで映画業界が抱えてきた課題を解決しうるものであり、今後の映画業界の発展に貢献できる、と胸を張る。

 映画ランドは、「ITのチカラで、映画館をもっと身近に」というビジョンを掲げる。映画館で映画を見る人を増やしたいというウォン氏の積年の願いが、「EIGA‐LANDING」にも如実に表れている。ネーミングは「EIGA=映画・映画ファン」「LANDING=到達」を合わせた造語であり、「映画ファンに到達し、映画に到達させるソリューション」という意味を込めた。

 ウォン氏は、宣伝マンの経験や勘をベースにした従来型の手法を否定するつもりは毛頭ない。「AIの学習・分析能力は人間の比ではないが、それでもパーフェクトではない」とも述べ、今までの手法に加えて興行的な成功を生み出す新たな手段の1つにしてもらえればとの考えだ。

 正式リリースは9月を予定しているが、8月時点ですでに問い合わせが来ており、手応えを感じている。利用料金を含めた詳細は後日発表するが、大まかには作品ベース、企業ベースの2つの商品プランを用意する。

 「2、3年くらい回せば、潜在顧客の抽出精度はかなり上がる。映画宣伝に役立ち、映画人口の増加に貢献できたらとても嬉しい」。

 配給会社の宣伝部長や、各作品の宣伝プロデューサーからの反響を、ウォン氏は心待ちにしている。


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