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『風の波紋』小林茂監督に聞いた撮影理念

【FREE】『風の波紋』小林茂監督に聞いた撮影理念

2016年03月15日
小林茂監督 小林茂監督

 ドキュメンタリー映画『風の波紋』が19日よりユーロスペ―スほか全国順次公開される。小林茂監督(『わたしの季節』『チョコラ!』)は、豪雪地域・新潟県の越後妻有(えちごつまり)に暮らす人々を5年間かけて追った。その語りは、ナレーションやテロップ等で情報を明確に示すことの多いテレビ番組仕様のドキュメントとは一線を画したスタイルで展開されていく。今現在、日本のドキュメンタリー監督はいかなる指針に沿うのか。そのヒントを探るべく小林監督に、終盤では配給会社東風に同作の魅力について聞いた。

 越後妻有は年々過疎の傾向にあったが、近年では都会からのIターン移住者が増えてきた。小林監督は移住者にもカメラを向けるわけだが、ナレーション等を用いないばかりか、「なぜ移住してきたのか」という根本に迫る質問を投げかけない。「テレビ番組では、ナレーションを入れないインターバルに上限があります。視聴者に情報を与えなければならないからですね。ただ僕の場合はナレーションを入れることで観客に理解してほしくないのです。移住に至るまでには様々な背景があるでしょうから、いくら説明されても真意は分からないでしょう。疑問は疑問のままでいいんじゃないかと」(小林監督)。

 小林監督の撮影理念はあらかじめ用意したテーマ(過疎化等)から被写体を覗かず、被写体をただ映していくというもの。結論は用意されておらず、テーマの受け取り方は観客によって多様化する様に作品全体を演出する。小林監督は「分かったから撮るのではなく分からないから撮るという姿勢」と前置きした上で、「共通点を見つけながら撮ります。村を離れる若者には、『お前も村を離れていくのは当たり前だよな』という様に、情感を持ちながら。その情感が被写体と観客の間の2つの世界を繋げてくれます」と明かした。

 越後妻有の人々は冬になれば、春を迎えられる為に村人総出で雪をかく。震災を受けて壊すべき家、建てるべき家が出れば、仲間が集まる。そこには田舎の新しい共同体の姿が見られ、軽やかでコミカルに表現されている。

 小林監督は「子供でも楽しめる様な、気楽なファンタジー作品のつもりで撮りました」と語った。配給会社の東風は、「大勢で観ることで、より楽しめる映画だと思います。試写会では笑いが起きたり、一緒に歌ったり。ぜひ映画館のスクリーンで。映画館の無い地域でも自主上映会などの上映機会を増やしていきたいなと考えています」とコメントした。

※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。