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ポニキャン「harevutai」稼働率は右肩上がり/佐藤正朗氏、田中洋子氏に聞く

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ポニキャン「harevutai」稼働率は右肩上がり/佐藤正朗氏、田中洋子氏に聞く

2023年10月26日
 ポニーキャニオンが運営する東京・池袋の未来型ライブ劇場「harevutai(ハレヴタイ)」が2019年11月のオープンから間もなく4周年を迎える。オープンと同時にコロナ禍の憂き目にあったが、無観客配信時代を乗り越えて再起動。通常の音楽ライブはもちろん、トークショーや上映会といった各種イベント、企業の商品発表会からファッションショーまで、幅広い用途で使用されており稼働率も好調だという。同劇場の責任者であるポニーキャニオンの経営本部 harevutai推進グループ チーフプロデューサー・佐藤正朗(なおあき)、店長・田中洋子の両氏にharevutaiの現在を聞いた――。(この記事は10月17日付「日刊文化通信速報【音楽版】」に掲載したものです)


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(左から)佐藤正朗氏、田中洋子氏


〝口コミでリピーター続出


 新型コロナウイルスが5類に移行し、少しずつ活気を取り戻しつつあるライブハウスシーン。harevutaiも、これまで蓄積していたエネルギーを爆発させるかのように平日・休日問わず稼働しており、土日祝日に関しては1年先まで問い合わせが殺到しているという盛況ぶりだ。佐藤氏も「社内アーティストのスケジュールを押さえるのも難しい状況」と嬉しい悲鳴をあげる。

 同劇場は「未来型」をテーマに掲げて4年前にオープン。ステージ全面を埋め尽くす4K対応の大型LEDモニターや配信専用回線を4回線確保した配信専用ルームを完備、音響や照明もハイクオリティな設備を誇り、最大キャパ500名を収容する。コロナ禍では20年4月から5月にかけて緊急事態宣言に伴う完全閉館を余儀なくされるなど苦戦を強いられたが、徹底した感染対策はもちろん、ライブ配信にかかる費用を劇場側が全額負担する「配信パック無料キャンペーン」などの施策も積極的に行い、着実に実績と信用を積み重ねてきた。

 そうした企業努力に加えて、さまざまな用途で使用できる利便性の高さ、スタッフの人柄の良さなどが業界内で徐々に評判となり、リピーターが続出。オープン当初はコロナの影響で営業も満足に行えず手探りの状態が続いたというが、現在は人から人へと口コミの力も手伝い、問い合わせも右肩上がりに増えている。圧倒的な顧客満足度の高さで、田中氏も「一度利用して頂いた方のほとんどはリピートで利用してくれています」と自信を覗かせる。

 施設としてはコンサート制作会社出身の佐藤氏ならではのこだわり設計も大きな魅力の一つ。元バンドマンでもある佐藤氏はいちプレイヤー、裏方として、これまでに全国のライブハウスを行脚。harevutaiの企画・設営の際には、自らの経験則に基づくコンサート会場の理想像を追求し、限られたスペースのなかで、ステージを広くする、楽屋のトイレを男女別にする、機材の搬入経路を階段ではなくスロープにするなどのアイデアを出し、これを実現させた。豊富なキャリアに裏付けられた佐藤氏ならではの多角的視点とユーザーに寄り添うおもてなしの精神が利用者に広く受け入れられ、リピーターの獲得に結び付いている形だ。

 音楽ライブではバンド、アイドル、VTuberと利用者のジャンルも多岐にわたっており、そこにビジネスユース系のイベントも加わる。「(利用者の)傾向でいうと毎日日替わりで、良い意味で『これが強い』というのがないですね。今年の夏でいえばドラマやCMの撮影もありましたし、企業系の発表会、最近ではダンスイベントも増えています」(田中氏)。


透過スクリーンの性能が大幅向上


 照明や音響、配信まわりも含め、充実した設備を強みとするharevutaiだが、オープン当初からハード面で売りとなっているのが透過スクリーンだ。ステージ前面に昇降する特殊な半透明スクリーンにCG映像を映し出すことで、従来のライブ会場ではできなかったさまざまな空間演出を可能としており、背景の大型LEDモニターと組み合わせれば可能性も倍増となる。20年8月にTOHOシネマズ池袋と共同で行った映画『天気の子』コラボイベントでは劇中背景をモニターに映し、透過スクリーンには雨のエフェクトを投影。ステージに立った人がまるでアニメの世界に入り込んだような状態で記念写真を撮れるという画期的なイベントで、参加者から好評を博した。オープンした19年当時に透過スクリーンを常設するライブ会場は同劇場のみだったが、最近は業界にも浸透しつつあり、導入を進める会場も出てきたようだ。劇場のビジョンに関して「500人キャパという規模感だからこそ、配信設備を整え日本全国、ひいては世界に発信できるような会場にしたかった」と語る佐藤氏だが、ここでもharevutaiチームの先見性の高さが証明されつつある形となっている。

 設備投資にも力を注いでおり、今年11月の4周年を前にスクリーンおよびプロジェクターを刷新して性能も大幅に向上。7月に同劇場でデビュー記念ライブを行ったポニキャンの新人アイドルグループ「太陽と踊れ、月夜に唄え」のプロデューサー・野島鉄平氏も「輝度と解像度が今まであった機材とは比べ物にならないぐらい上がって映像の没入感が増した」「スクリーン後ろでの照明をつけてのパフォーマンスも可能となり、単純に映像を映すだけではなく、リアルとバーチャルの境界線をなくしたステージングもできるようになって演出の幅が広がった」と手応えを口にしている。現状は演出プランや予算の問題もあり「まだまだ利用者も限られている」(佐藤氏)というが、未来型を謳うharevutaiにとって、今後ますます存在感を増していく舞台装置であることは間違いないだろう。


最も大切にしているものは〝人〟


 もう一点、佐藤・田中の両氏が現在の劇場運営に関して「最も大切にしている」と強調する点が “人” だ。harevutaiではハードが良い分、必然的にステージ演出や機材の利用方法などで確認事項も増え、コミュニケーションが重要となる。佐藤氏は「これまで全国をまわりながら『あそこの会場は箱としては良いけど、人がアレで…』と思うことがよくありました。僕自身そういう会場は避けて、ブッキングしようと思わなかった。harevutaiでは事前の打ち合わせの段階から、いかに相手が求めることを理解して喜んでもらえるかという点を意識していて、そういう意味でも店長を中心に最高のスタッフが揃っていると思います」と自負する。

 コロナ禍ではキャンセル料金や振替日程などをめぐって苦労もあったというが、それを1件1件丁寧に対応して利用者との信頼関係を構築し、その後のリピーター獲得に繋げた陰の立役者が田中氏だった。

 「以前、あるアーティストさんから『犬は人に付き、猫は家に付く。自分は犬なので場所ではなく人で選んでいます』という言葉を掛けて頂いたことがあって、それが嬉しくて今でも励みになっています」。

 harevutaiでは、昨年4月・10月に岩手県・陸前高田市とコラボした「三陸花火大会2022」との中継イベントを実施。今年の春にはポニキャンが運営するディストリビューションサービス・early Reflectionと連携し、それぞれのスタッフがおすすめのアーティストを紹介する定期対バンライブ企画「heaR(ヒアー)」をスタートさせるなど、新しい試みも続々行われているが、今後はVTuberへのアプローチを強化していく方針で、プロジェクトの一環としてすでに近隣のモーションキャプチャースタジオの運営にも乗り出しているという。オープン4周年に向け、さらなる盛り上がりを感じさせるが、佐藤氏は「harevutaiを中心にして、新しい劇場やVTuberのスタジオを増やしていくのが目標」と野心的。「個人的には、いつか自社専用のモーションキャプチャースタジオを作りたいですね。ただ今はありがたいことに、そうしたことを考える余裕がないぐらい忙しくさせてもらっている状態。コンサート会場としては “機材が良くて人も良い” という形が理想なので、引き続きそこを目指して頑張っていきたいです」と充実感を滲(にじ)ませていた。


(取材・文:白井良資)

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