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キネマ旬報社、清水勝之代表取締役社長

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キネマ旬報社、清水勝之代表取締役社長

2012年11月30日

映画館で観る人が何を求めているのか真剣に考える


 ―柏ではフィルム上映もするのでしょうか。

清水
 やります。3スクリーンともデジタル上映の投資はしますが、フィルム映写機も残します。ただ、今後フィルムしかない作品がどれだけ存在するかですよね。フィルムの方をデジタル化していくという対応もしていくので、今は過渡期だと思っています。マーケットを見ながら見定めていかないといけないですね。
 劇場としては鑑賞機会を維持することはできると思いますが、フィルムの保持まではなかなか難しいと思います。これは配給会社さんのご判断になり、我々のものではないので。そういうものは業界をあげて、もう少しコンセンサスをとっていく必要があると思います。そこの活動は私もちゃんとやりたいですね。これは出版でも同じことが言えます。


 ―劇場運営のスタッフは経験者を採用するのですか。

清水2.jpg清水
 編成とマネージメントの部分はキネ旬社内のスタッフです。アルバイトを含めると結構な人員になりますから、アルバイトの方は経験者を採用する予定です。でも、アルバイト以外でも社員の中には学生時代に映画館でバイトしていた者もおります。編成に関しては、むしろ経験していない方がいいのではないかと思っています。
 営業も含めて協力などいろんなお声掛けは頂き、それは非常にありがたいことなんですけど、我々自身で失敗してみないと何が良くて何が悪いかというのはわからないですし、これまでの成功体験に縛られてしまうと思うのです。
 私はこの業界にまだ短いので、社内の議論でも「それは出来ません!」と言われるんです。でも、そこを乗り越えていかなくては駄目だと思うんです。でないと新しいことは出来ません。社員からすると私は無謀なことを言っていると思います。しかし、それは映画業界のことを私がまだ知らないからできることで、そういう発想は常に持っておきたい。物理的にできないのか、ご協力が頂けないのか、それを見定める必要はあります。
 あくまでユーザーオリエンテッド(顧客重視)、彼らが何を求めているのか、それが物理的に可能なのかどうかということを原則論で常に考えていて、物理的にできるのにやれないとなると、業界のしがらみである可能性もあるわけですよね。ただ、配給というこれまでの仕組みが、デジタル化によって大きく変わってきているというのは事実です。


 ―VOD(ビデオ・オン・デマンド)市場の今後についてはどうお考えでしょう。

清水
 VOD市場はホットだと思っています。マーケットはかなり伸びていますね。この1年くらいの間に、どちらかというとカタログ作品が中心ですが、VODは凄く伸びているという意識はあります。
 これによって完全なロングテールのマーケットができると思うんです。新作は難しいですけど、逆にデジタル化してお届けすることによって、そのロングテールにあった商品のラインナップは出来るんじゃないかなという気はしています。ロングテールなのでそんなに爆発的には売れないですが、だからこそオールウィンドウで対応できないかと思っています。つまりフィルムをデジタル化するコスト、ある程度のクオリティを保とうとするとかなりのお金がかかりますよね。それを劇場だけで回収するモデルというのは、凄く大変です。ですから機会があればVODでも提供し、場合によってはブルーレイを出していくことを考えています。


 ―劇場発信だけにこだわらないということですか。

清水
 同時で考えています。新作でなければ同時でもいいのではないでしょうか。劇場を選択せずに安いVODを選択する人もいます。日本は劇場のない地域があるわけです。ましてや約3300スクリーンがある中で、いわゆる柏みたいな編成をするところは多分マイナーだと思うんですよ。そうすると日本全国で200~300スクリーンと、VODやレンタルマーケットがどれくらい競合するのだろうかと考えると、競合というよりは、むしろ同時に発売することによって、マーケティングコストを相対的に転化していくとか、効率的に運営していく方がいいのではないかと考えています。

 もう一つ、劇場運営者が考えなければならないことは、本当にどれだけの人がウィンドウ間の競争を意識しているのだろうかということです。ただ、冷静に考えなければいけないのは、レンタル店で500円~100円、劇場で1200円といっても交通費を払って行っているわけなので、そこの価格差だけでなく、もっと差があるわけですよね。何を求めて劇場に行っているのかということを、劇場運営者はもっと真剣に考えるべきではないかと思います。どれだけの人が、レンタルとVODと劇場をどういう風に比較しているのか。

 我々はもっと、映画館で観るという選択している人が、何を喜んで来ているのかを考えるべき。せっかく来てくれたので、観た映画についてしゃべる機会を提供するとか、鑑賞後にどういうサービスを提供するかを考えていきたい。それがもしかしたら、VODが広まっても劇場が生きていける理由になるのではないかと思っています。


 ―これからクリアしなければいけない課題は?

清水
 ほとんど編成ですね。本当に我々が読者のことをどれだけ知っているのか。知った上でどういう編成が組めるのか。また、その協力をどういう風に仰いでいくのかということが課題です。当たり前のことをやっていると、何もできませんということになりますので、我々はこういうことをやろうとしているんですよと。だからご協力くださいということを、業界の皆さまに発信していくことが大事なんだと思います。
 TOHOシネマズさんが近くにあり、うちの社員もそう言うんです、負けますよと。でも、私は競ってないんです。勝ち負けの相手ではないと思っています。むしろTOHOシネマズさんからうちへどうやったらお客さんが流れて来てくれるか、逆にうちのお客さんをどうやってTOHOシネマズさんに送客すれば、仲間として見て頂けるのか。TOHOシネマズさんで上映されている作品も我々の媒体で告知しているわけですよね。だから両方で観ると楽しいということをもう少し意識していきたいです。


小売業である劇場運営を徹底して研究したい


 ―今年1月にリリースされた映画鑑賞記録に特化した新メディア「KINENOTE」の会員数は、現在どれくらいになったのでしょう。

清水
 お陰さまで1万1200名を超えました。まだまだ少ないですけど、この8月からどこの映画館で観たかという情報記録を加えさせてもらいました。先ほども言ったように、我々のミッションである“多様な映画を鑑賞できる環境づくり”が出来ると、当社も出版社として儲かるだろうという仮説です。ですから柏だけではダメで、他の単独の映画館と商品調達とか企画とかは共有できるはず。なぜかというとマーケットが違うからです。このリソース提供をやりたいと思っています。我々のデータベースをご活用頂ければいいと思っています。

ロゴ大.jpg


 ―全国に同じような拠点を増やしていきたいということですね。

清水
 小売業として本来自分のところのお客さんがどういうものを欲しがっているのかを見るのは凄く大事。そのためにはいろんな投資をしなければいけなくて、顧客データベースの整備とか、会員カードを作っている会社さんもあります。そういうのを整備していくと結構な金額がかかるんです。これをASP(アプリケーション サービス プロバイダ)を使って一か所のデータを分け合う、ちょっとずつ払い合ってみたいなことが出来るといいわけです。KINENOTEでさえ開発に1000万円近くのお金がかかっているので、それを3スクリーンしかない柏だけで回収するのは凄く大変です。ネットワークというと変ですけど、一緒にやれるような、志が同じような映画館が出来れば、もっと配給さんにとってもベネフィット(利益)は高くなります。いろんな商品、作品を提供できる環境が整った方がいいわけなので、メリットを感じてもらえるのではないでしょうか。

 ただ、劇場、小売りとしてお店を作っていくという仕事と同時に、商品供給、ディストリビューション(配給)もやるということは大変です。単独だと厳しいので、いろんな企業さんに一緒にやりましょうという話をしています。劇場運営に関しては、一部サンライズ社さんとご一緒しています。劇場での広告のあり方、マネタイズの方を研究していきましょうと。入場料だけが小売りの売り上げじゃないということです。

 私は将来フラット契約にこだわりたいのは、仕入れリスクを取っていった方が、自分のところの商品選定にもっと感度が働くのではないかなというのがあるんです。逆にリターンも大きい。そうするともっと我々自身が運営を頑張るんじゃないかと思うんです。売り上げ歩合だと入らなくてもしょうがないやという風になってしまう。負担してゼロだったら損してしまおうという危機感を持ってやった方が、凄く頑張れる気がします。フラット契約にするとある程度価格に自由度が出てきます。

 興行で儲けなくても、劇場に集まった人たちに、我々でいうと本を買っていただく選択肢もありますし、普通の興行のように飲食をして頂くというのもありますし、たくさん来たら広告という選択肢もあるでしょう。いろんな収益の取り方がもしかしたらあるのかもしれない。タイアップという形もあると思うんですけど、もう一回、小売業である劇場運営をどうすればいいのかというのを、徹底して研究したいと思っています。(了) 【インタビュー:和田隆】



Profile
清水勝之(しみず・かつゆき)

Simizu-san photo 007.jpg
 1970年3月生まれ(41歳)、大分県出身。
 明治大学商学部卒業後、独立系ベンチャーキャピタル、日本アジア投資に入社。日本国内を含むアジア地域における未公開企業への投資業務に従事。その後、3DCGソフトウェア開発会社イーフロンティアに入社し、出版子会社BNN新社取締役、イーフロンティア専務取締役就任。
 07年同退任後、投資・コンサルティングを行うフラグシップの代表取締役に就任し、ギャガ・クロスメディア・マーケティング(現、キネマ旬報社)のMBOを担当。
 09年10月キネマ旬報社に入社。10年3月に取締役、11年1月に取締役副社長、同年7月に代表取締役社長に就任。






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