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第36回PFFぴあフィルムフェスティバル:荒木啓子ディレクター

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第36回PFFぴあフィルムフェスティバル:荒木啓子ディレクター

2014年09月12日

馬鹿なことをやっている人たちが一番大事


和田 さて、今回の特別企画「羽仁進監督特集」「映画監督への道~私を駆り立てるもの~」と、招待作品部門「素晴らしい特撮の世界」「ようこそワンピース体験へ!」「SF・怪奇映画特集」をプログラムされた理由は。

初恋・地獄篇.jpg荒木 私どもはあくまでも映画を作っている人たち――こんな先の見えない時代に、映画監督なんて仕事があるかどうかもわからないことをわざわざやっているわけですよね。それをやりたいという人たちが生きやすい、あるいはこの場所であれば誰かがちゃんと見てくれるという場所であろうとしているわけです。そういう人たちがさらにお金も時間もないでしょうが、こんな作品を見ていると「あなたの映画はもっと良くなるよ」というものを企画にしているわけです。
 今回「特別企画」と題しているのは、これは監督に話を聞くということが重要だなという企画なのですね。羽仁進監督の特集は、今、海外で羽仁フィーバーが起きているということで、半世紀を経ても、その作品が全く古びることがない、のみならず、今更に新しいということから、是非若い人に体験してもらいたかったのです。※写真は羽仁進監督『初恋・地獄篇』


和田 なかなか見る機会ないですよね。

荒木 一世を風靡した人なのに、忘れられていると言いましょうか、無視されてきていると言いましょうか、かなり驚きました。これを機会に大きな回顧展をやって欲しいと思っているのですけれど。無茶苦茶なことをたくさんやっていますしね。素晴らしい先輩です。馬鹿なことをやっている人たちが一番大事だと改めて思わせてくれる方です。


和田 個人的にもそういう監督がお好きですか。

DSCF1223.JPG荒木 好きというか、失敗を怖がる人たちは、私どもの映画祭には関係がありません。お手本があったり、決まった通りにやることが好きな人は、この映画祭には関係ないという、そんな感じでしょうか。個人的にどんな監督が好きか・・・考えたことがないですが、過去には、ダグラス・サークやミヒャエル・ハネケ、、ロバート・アルトマンや大島渚、若松孝二、クリント・イーストウッド、ジョン・カサヴェテスなどの特集をやってきました。
 特別企画には、もうひとつ、現役の映画監督たちをお招きして、今、映画を作ることをライブでお話しいいただく「映画監督への道~私を駆り立てるもの~」があります。こちらに登場する山下敦弘監督と石井裕也監督は、PFFアワードの応募監督たちにもやはり人気監督で、彼らの目の前ですぐに役に立つことを話してくださることを期待しています。特別企画は、今映画を作っている人たちのために、少しだけお値段も安くしました。
 招待企画はいつも、年に一本しか映画を見ない人にも楽しめることを意図して企画しています。「素晴らしい特撮の世界」は二部構成で6時間もあります。これは、もともと特撮が、映画を豊かにしようと発達してきた技術、そして文化であることに改めて注目しようと始まった企画です。昨年初めて実施して、まだまだ奥は深いなあと再確認しましたので、今年は更に追求してみようかと、そう考えた出演の皆さんにご相談しました。今回は矢口(史靖)監督が『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去(かむさり)なあなあ日常~』(2014年)の特撮について、今までインタビューでも一切語ってこなかったのを、どこをどういう風に撮ったのか全部バラしますというのが、まず第1部の目玉なのです。そのメイキングも見せますし、特撮監督の佛田(洋)さんと細かく全部紹介していきます。矢口&佛田コンビは、『ハッピーフライト』でも組んでいるので、そちらの話も出てくるのではないでしょうか。


和田 日本における「特撮」という言葉の意味をもう一回見直そうということですね。

荒木 はい、それで、休憩を挟んだ第2部は、一般映画に円谷英二さんががっぷり組んだ、クレイジー・キャッツ10周年記念映画『大冒険』の上映に決定しました。その後のトークでは1部での、ナビゲーターの犬童一心監督、ゲストの矢口監督、樋口真嗣監督、佛田特撮監督に加え、黒沢清監督も飛び入りしてくださる予定です。


和田 そういったものがあり、「ようこそワンピース体験へ!」もあると。

荒木 「ワンピース」はもう20周年ということで、けっこう矢口監督、鈴木(卓爾)監督2人の力が入っています。

和田 自主制作映画の原点のようなものですよね。

荒木 そうですね。要するに、自分の訓練は自分でやるしかないと、具体的な方法を編み出したその歴史ですね。

365日映画のことを考えていられるか


矢口史靖×鈴木卓爾.jpg和田 こういうものを撮り続けることが大事であると。

荒木 撮らずにはいられない人しか、映画をやれない時代とも言えますよね。矢口くんも卓爾くんもやりたいことをやるために訓練していると。ただ、もっと上手くなりたい、もっと映画をできるようになりたいと思った時に、そんなに監督には仕事がなく、実験できる場所がないわけで、自分でやりましょうという。あくまでも自分のスキルアップは自分でやらなくてはしょうがないという、その覚悟と言いますか、365日24時間映画のことを考えている人しか、続かないという、厳しい現実です。
※写真は矢口史靖監督と鈴木卓爾監督(左)



和田 それを続けられるかどうかということですね、日本の映画界においては。

荒木 そういう人しかもうクオリティを保てないゆとりのない時代というか、しかし、そういう人はそんなにゴロゴロいるわけはありません。


和田 ずっとPFF入選監督をご覧になってきて、やはりそういう人しか残っていないと思われますか。

荒木 そういう人しか残れない感じはしています。でも、それはどんなクリエイティブの世界も同じではないですかね、落語家にしても、音楽家にしても、漫画にしても、スポーツ選手にしても、365日そのことだけを考えている人たち。話をワンピースに戻しますと、、なんといっても面白いですからね。簡単そうに見えて難しいという。これを見て「あ、簡単そう」と思ってやってみて、絶対に失敗すると思います、普通は。みんなやってみて欲しいと思うのですよね。それで、「もっともっと上手くなるためにはどうすればいいだろう?」と、「もっともっと上手くなりたい!」と思う人が、あらゆるジャンルで増えてもらいたいのです。どこまでも上手くなりたい、いいものを作りたい、そのレベルアップの願いが、欲求が、人間の素晴らしさだと。そんな映画がたくさんある世の中を夢見ているのかもです。


和田 日本映画の可能性、表現の可能性はもっとあると思うのですけれど、今レベルとおっしゃったように、なかなかそこを目指してやれない、場もないと言いますか。

荒木 うーん、結構簡単にやれると思いますよ。確かに、何か異常に人の足を引っぱる社会ですよね。自分より頭のいい人、幸福な人を許さないという、非常に下賤というか、レベルの低い社会になろうとしていますから、それをなんとか打破したいですね。


和田 「SF・怪奇映画特集」については。

ダークスター.jpg荒木 これは私が見たかったのですよ(笑)。実は「ロシア映画秘宝展」という(配給会社の)パンドラが6~7年前にやっていた企画を、非常に行きたかったのに行けなかったのです。その後リバイバルでもう一回やった時も行けませんでした。それで「これは見たいなぁ!」とずっと思っていたのです。あと『THX 1138』と『ダーク・スター』(写真左)はこPFFの歴史上の重要作品です。特に『ダーク・スター』は、PFFが初めて洋画配給を行った作品。その後、『ポリエステル』や『悲情城市』に続く第一歩です。私はその時代にPFFにいなかったからこそ、これはPFFの記念碑的作品として、やりたかったのです。
 しかし、今年の招待作品のポイントは、ちょっと現実を離れたことをやると、映画はもっと簡単に楽しくできるよということです。正面から描くだけでなく、もうちょっと横からやりましょうよ、もうちょっとゆとりを持ちましょうよということなのですね。映画を作るということは本来楽しいのですから。馬鹿でいいと(笑)。名画と言われなくていいと今は。作っている本人は、その時点では、別に名画と言われるようになると思っていないと思いますよ。


和田 今はミニシアターも少なくなってしまって、そういうものを見る場がないですから、改めて一つの場所で見せられるというのはいいですね。

荒木 小ホールですけれど。奇しくも『惑星ソラリス』の主演俳優ドナタス・バニオニスさんが先日亡くなられ、今回、追悼上映になってしまいました。会場には、当時のポスターもいくつか展示されますから、そちらもお楽しみに、です。


和田 今回の映画祭は人の話を聞いて、語り合って、考えようと。

過ぐる日のやまねこ.jpg荒木 そうですね。そのために、毎回映画監督たちに登壇願います。「羽仁進監督特集」は衝撃的です。今いろいろ話題になっていることを、とっくにやっているというのはね。羽仁さんのように、いま80代の人と、30代・40代の人と、映画を作る環境も予算も、何もかもがあまりに違う。それでも共通するところがあるはずで、できるだけ架け橋のような役割を映画祭は担いたいと思います。映画監督同士の出会いの場として、映画祭は今、とても大切なところにいるなと、自分が映画祭に参加するたびに感じます。助監督経験のない監督たちが増えていますし、映画を学ぶには映画を見るしかない、あるいは、その現場を体験してきたかつての助監督や、スタッフに聞くしかない。映画祭で過去の映画を紹介するのは、今、繋げたいからなのです。※写真は鶴岡慧子監督『過ぐる日のやまねこ』


和田 ありがとうございました。24日(水)には第23回PFFスカラシップ作品となる鶴岡慧子監督の『過ぐる日のやまねこ』もプレミア上映されます。PFFから次代の日本映画界担う新たな才能が出て来て、新しい発見、映画の楽しさを観客が再認識してくれることを期待しております。(了)




Profile

荒木啓子(あらき・けいこ)

DSCF1228.JPG雑誌編集、イベント企画、映画&映像の製作・宣伝等を経て、1990年PFF(ぴあフィルムフェスティバル)の一環として開催した「 UK90ブリティッシュフィルムフェスティバル」でモンティ・パイソン特集を担当。その後、国際交流基金アセアン文化センター主催「東南アジア映画祭」ヤングシネマ部門プログラミングディレクターを経て、1992年、PFF初の「総合ディレクター」に就任した。





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