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●LAレポート:ムービーパスは壮大なマッチングアプリ?

【FREE】●LAレポート:ムービーパスは壮大なマッチングアプリ?

2018年11月14日
ムービーパスの画面 ムービーパスの画面

【ロサンゼルス=Mutsumi Lee】

 ムービーパスは、アメリカの映画鑑賞定額サービスです。スマホアプリから申し込み、ムービーパスカードを郵便で受け取ると利用を開始できる仕組み。アプリから予約する場合は、見たい映画をアプリで探し座席を選んでチェックインするとバーコードが表示され、それを見せると入場できます。直接映画館に行って座席を選び、ムービーパスカードを提示してチケットを受け取ることもできます。

 実は2011年にスタートしたサービスですが、プランや価格、顧客ターゲットなどは現在とまったく違うものだったようです。事業として試行錯誤を繰り返した後、現在のCEOミッチ・ローが就任し2017年に大きく話題となったサービスを発表しました。

 『映画館で1日1本鑑賞できて、月額$9・95』。このサービスを発表後、想定外に人気が出すぎてしまい資金難に陥った結果、たった1年で内容を変更せざるを得なくなったムービーパス。今年8月からは『鑑賞本数は月3本まで』という大幅な変更を余儀なくされました。この騒動は今年初め~8月くらいにかけて巻き起こりました。日本の映画館、配給関係の皆さんも、気になる映画定額サービスの行方を興味深くチェックされていたことだと思います。

 ムービーパスの改変は、映画の本数ばかりが話題になっていますが、それだけで定額サービスについて分析しては大変危険。実は壮大なマッチングアプリだという盲点が。

 サービス改変から約2ヶ月半が経ち、ムービーパスユーザーの一人として、改変前後の使い勝手の違いや、利用心理の変化など、リアルなユーザー視点で、現在のレポートをしてみます。そこから見える、ムービーパスの本当の改変事情を探ってみましょう。

【私のユーザータイプ】土日含めても映画を観る時間を割くことは、重要な打ち合わせを入れるのと同じ感覚。どうしても観ておいきたい作品に時間を使いたいタイプ。

【改変前の利用状況】平均月に3本ほどムービーパスで鑑賞。急に時間が空いた時、ムービーパスのアプリをチェックすると、近所のどこかしらで観たい映画が上映されていたから。LAは車社会なので時間も場所もそれほど問わず、さっと映画館に向かえる環境なのも、ムービーパスとの相性の良さを感じていた。

【改変後の利用状況】今現在、1度も利用できていない…。理由は、空いた時間にムービーパスを使える「観たい映画」が殆どないから。さほど興味がない映画に2時間使うなら、Netflixでリサーチすべき作品を観たい。

 このように、サービス改変前後で、私の利用頻度は激変しました。月3本も観ていたのに、今や1本もムービーパスでは観ていません。ここまで大きく変わったのは、ムービーパスが単に映画の本数制限をしただけでなく、映画とユーザーのマッチング条件を大きく変えたからなのです。

 改変後、新作や人気がある映画、混み合う時間帯はムービーパスを使えるスクリーンが大きく減少しました。例えば、同じ映画館で上映している同じ映画が、今日はムービーパスで鑑賞できても、明日以降二度と利用できない可能性があるのです。

 ムービーパスはビッグデータを利用し、スクリーンの稼働状況を分析して、空いている時間や場所、作品などから、どのスクリーンを利用させるか日々割り出して提供しているようです。ユーザーはアプリで本日の上映情報しか見ることができません。明日以降、どこで何の映画が観られるか公開されないのです。

 もともとスクリーンとユーザーのマッチングアプリであったムービーパス、月の利用本数だけでなくマッチング条件もかなり狭くなった、ということなのでしょう。それでも10ドル以下で月3本観られるのは、価格としては明らかにお得ですが、私のライフスタイルとマッチしない限り毎月有効に使い切ることはできそうにありません。映画定額サービスは、ユーザーのライフスタイルと提供サービスがどれだけマッチするか、が大きなカギとなりそうです。しかしライフスタイルは千差万別、ビッグデータを利用してサービスが成り立つ条件を割り出し、さらに運営しながら細かいコントロールが必要になるということなのでしょう。

 また、スクリーン数が少ない地方では成り立ちにくいのも現実。何より毎週新しい映画が次々と公開され「コンテンツの圧倒的な量と質」が必要なのは言うまでもありません。

 ムービーパスに関しては、アプリのメディア化、広告収益の可能性は大いにあると思います。アプリ内でユーザーレビュー、新作情報、上映情報が網羅されたらとても便利。しかし現在は最小限の機能のみで、映画紹介も簡単なあらすじだけ。メディア化のビジネスモデルは想定しているはずなので、今はそこに手を出している場合じゃない、というのが実情なのだろうと推測します。

 ムービーパスと同じような定額サービスを日本で提供するには、様々な前提条件の違いから非常に難しい、というのが私の見解ですが、日本の映画館が活路を見出せるようなビジネスヒントを、引き続きここLAで探って行きたいと思います。


Mutsumi Lee (Lander Inc. 代表/クリエイティブプロデューサー)

 映画やWeb、広告やエンターテインメントなどジャンルレスなコンテンツで顧客とクライアントへの価値創造を行うクリエイティブカンパニーLander Inc. 代表。初映画で菊地凛子主演「ハイヒール」の製作総指揮と配給宣伝を自身で行う。広告ではカンヌライオンズ始め受賞歴多数。

  Lander Inc.の拠点は、東京、パリ、LA。スタッフは日本ほか、ヨーロッパ、アジア、北米各国で暮らすため、世界の動向や最新トレンドを把握しながら独自のマーケティングが可能。また時差を利用した24時間体制でのプロジェクト管理も実現する。Mutsumi自身は、2018年6月よりLAに拠点を移し、USでの映画製作と新事業開拓を行う。女性に新しい働き方のヒントを届けるコミュニティメディアlander laboを今秋からスタート予定。

Landerについて詳しくはこちら:https://lander.jp/

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※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。