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インタビュー:ビクタースタジオ 高田英男スタジオ長

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インタビュー:ビクタースタジオ 高田英男スタジオ長

2012年03月01日
ビクタースタジオ 音へのこだわり 

 ビクタースタジオは、優れた音楽録音作品およびエンジニアを顕彰する「第18回日本プロ音楽録音賞」において昨年(2011年)、第2回から17年連続受賞の快挙を達成。毎年質の高い作品を世に送り出す“作り手”として高い評価を受ける一方、音楽の聴き方が多様化する中、音楽配信の音源を高音質化する技術「netK2」(※1)を開発するなど“送り手”としてもより良い音楽文化の発展に力を入れている。そんな同スタジオの音に対するこだわりについて高田英男スタジオ長(以下;敬称略)に話を聞いた。


高田英男所長_右向き.jpg―ビクタースタジオのこだわりとは?

高田
 一般的にお客様や音楽ファンの皆さんが聴いているのはCD及び配信される圧縮音源ですが、スタジオではCDを作るための音源の基となる「オリジナルマスター音源(※2)」というものを作っています。スタジオでレコーディング、ミックス、マスタリングといった工程により、「CDマスター音源(※3)」を作ります。それをカッティングプレス工場に送りCDが製造されます。デジタル技術の進化により、CDとオリジナルマスター音源とは音質というレベルでは全く違うものなんです。なぜならオリジナルマスター音源は、CDの何倍もの大きなスペック(容量)で作られているからです。

例えば映像というのは、高画質という点でどちらが綺麗か比較してパッと見て違いが分かりやすいですよね。でも音は良いか悪いかではなく、好き嫌いで判断されがちです。それはすごく正しいと思うのですが、我々はプロとしてやっているのだから、自分たちにとって音質の判断基準を明確にしたいというのがあって、その基準がオリジナルマスター及びCDマスター音源になっています。我々がマスター音源の質を向上させ、さらに世の中に提供するCDや配信音源の「質」をマスター音源にいかに近づけるかがスタジオのこだわりになっています。

更に録音制作現場のクリエイト手段としてスタジオの「音響空間」にもこだわっています。どういう響きで音が録れるのか。どういうサウンドが作れるのかなどそれぞれのスタジオに響きに対し個性化をしています。又、最先端の機材と共にビンテージの機材もきちんとメンテナンスしてしっかりと使えるようにし、ハードの差別化も意識しています。

録音メディアも変化し、昔は全部テープでやりとりしていましたが、今はハードディスクを使い音楽制作を行っており、デジタルファイルデータでやりとりしています。スタジオからCDカッティングプレス工場へもセキュリティの非常に高い専用のラインで繋ぎ音源をデータで送っています。アーティストによっては海外でマスタリングしたいという人もいて、こうした海外とのやりとりもネット回線を活用しすべてデータでやっています。完全にテープレスなので非常に効率が良くなりました。

そして、ビクタースタジオのこだわりは「人」です。誰がやるかによって、音の仕上がりは全然違うんですね。エンジニアとして、もちろん技術力は必要なんですが、プロデューサーやミュージシャンに近いスタンスでアーティストと一緒に音楽やサウンドを創りあげていく仕事をすることが必要であり、「機械を使うことが出来ます」というのは手段であって「それを使ってあなたは何が出来ますか」ということが求められています。

マスタリングも「人」がメインです。音楽にはいろんなジャンルがありますよね。クラシック、ジャズ、ロック、ポップス…。昔はオールマイティーな人が素晴らしいといわれていました。ところがいまは細分化して、相当深いところまで求められるので、それぞれのジャンルに精通した、ある意味、スーパースターを育てていくことが必要です。いまビクタースタジオのマスタリングはFLAIRという名称のブランドの下、メインのエンジニアは6人いますが、扱うジャンルはバッティングしていません。それぞれが強い感性と独自の技能を前面に出してやっています。

―人を育てるにあたって大切にしていることや意識していることは?

高田
 ビクタースタジオで音楽制作者の皆さんとの人間関係が創れるチャンスを作ってあげる、そういう環境を作ってあげるということですかね。そういったチャンスや環境の中で、その人がどういうパフォーマンスをすることができるか。それに尽きると思います。あと、成長の速度は人それぞれなので、人を育てるためにはある程度、長い時間でみてあげることが必要だと思います。最初に研修生としてスタジオに入って来た人に関しては、技術よりもコミュニケーション力を大切にします。いま何が起こっているのかよく見ろ、人の話をちゃんと聞けとか。そういうことを意識してもらっています。業界で活躍されているエンジニアは、大変コミュニケーション力が優れていると感じています。

―ビジネス面でトータルソリューションの提案をされていますが、具体的にはどういったものなのでしょうか?

高田 
いまスタジオビジネスだけで勝負するというのは、なかなか難しいんです。  ビクタースタジオは、トータルな機能でいうと、レコーディング、マスタリング、アーカイブ、DVD映像編集~オーサリング(※4)配信エンコード(※5)まで業務機能があり、更にデジタル高音質技術、「netK2」「K2HD」技術の活用と開発も進めています。つまり、音源制作に関するあらゆる作業を提案することができます。これをスタジオを利用して頂くお客様のニーズあわせて、例えばレコーディングとマスタリングを一体になって受けます。もしくは、配信も含めて受けます。あるいは、お客様がすでに持っている音源をK2の高音質技術によって付加価値を創り、ビジネス化するなどの仕事を受けます。

つまり、様々なアーティストや音楽制作関係者の皆様のニーズにあった組み合わせを提案していく。こういう考え方が、これからのビクタースタジオのビジネスの上で、とても重要なことだと考えています。

ただし、それぞれの技術が深いところまでいっていないと、この組み合わせは弱くなってしまうと思うんです。ですから、それぞれがすごく深いところにいてプロで活躍できる技術がしっかりしているのがベースです。

昨年(2011年)6月、デジタルソリューショングループというのをスタジオの組織上、立ち上げ、オーサリングや高音質技術など、今までそれぞれの業務が単独で動いていたものを1本化しました。レコーディングスタジオが設備産業というベースは変わらないのですが、そこだけでのビジネスではなく、設備を使って何が出来るかという提案と、それぞれの事業の組み合わせによって新たな提案が出来るのではないかと思っています。そういう可能性を自分たちで検討し、提案し始めているところです。

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