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キネマ旬報社、清水勝之代表取締役社長

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キネマ旬報社、清水勝之代表取締役社長

2012年11月30日

早春に「TKPシアター柏」をオープン、劇場運営事業に参入


 キネマ旬報社は、貸会議室大手のティーケーピー(TKP)と業務提携し、劇場運営事業に参入することを10月に発表した。最初の事業として、今年3月に閉館した千葉県の柏駅ビル内の旧「柏ステーションシアター」を、東武鉄道からTKPが賃借し、同社が運営を受託。2013年早春に「TKPシアター柏 powered by キネマ旬報(仮称)」としてオープンする。

 映画興行市場は、シネコンの台頭、デジタルシネマへの投資負担で、中小の興行者の徹底が相次ぎ、今年に入ってからもすでに50スクリーン超が閉館を発表。こうした逆風の中、TKPと同社は、同社が発行する映画雑誌「キネマ旬報」、映画ライフログサイト「KINENOTE」などと連動することで、新作だけでなく、上映機会が少ない過去の名作や様々な企画上映・イベントを行うなど、セレクトショップ的な劇場運営を目指すとしている。

 TKPはこれまで、遊休不動産の有効活用の提案として、全国で700室以上の貸会議室事業を展開し、延べ7万社、150万人以上の企業に提供してきた。今回は、その事業の一環として、エンタテインメント施設の活用に初めて取り組む。これによりオフィスビルやホテルなどに加え、アミューズメント施設についての資産有効活用の提案が可能となる一方、遊休商業施設や貸会議室、さらに映画を始めライブなどエンタテインメントの積極活用を推進していくようだ。

 キネマ旬報社の狙いやオープンへ向けた準備、新たに取り組む事業展開と課題などについて、同社代表取締役社長の清水勝之氏に話を聞いた―。




“多様な映画を鑑賞できる環境づくり”が我々のミッション!


 ―なぜ劇場運営事業に参入されるのですか?

Simizu-san photo 005.jpg清水
 元々は我々の「キネマ旬報」定期購読者へ向けた取り組みの一環です。調べたところ読者は、年間劇場鑑賞回数が平均50回を超え、一般と平均化するとかなり高い回数となります。彼らはアート系の作品ばかり観ているというよりは、『踊る大捜査線』などメジャー作品も含めて多様な映画を観ているようです。ですから、シネコンにも当然行かれますし、新文芸坐さんなどのような劇場にも行かれる方々だと我々は分析しています。
 ミニシアターがなくなってくると市場全体の多様性が保てなくなり、我々の読者さんが困ってしまうだろうという思いがあります。シネコンとは違った編成をするような劇場がしっかりと残っていくことが、出版事業にとっても非常に重要なことだと思っています。表紙にする作品が、実は日本全国で30~40スクリーンでしか観られないとすると、本の売り上げにも関わってきます。多様な映画が日本中でできるだけ多くの場所で鑑賞される環境が、キネマ旬報社としても好ましい。我々はシネコンとは全く違う編成をしていく必要があると思っています。


 ―最初の場所として柏を選ばれた理由、経緯を教えてください。

清水
 TKPさんから柏であればとお声掛けがありました。TKPさんが東武鉄道グループのホテル、宴会場の一括受注をされていまして、その関係上、東武さんが映画館もありますがどうですかとお声掛けをされていたようです。まず柏という場所ありきだったんです。我々も調べていくと人口40万人以上の都市で、千葉県でも2番目か3番目に所得が高いところです。
 今年3月に「柏ステーションシアター」が閉館しました。周辺にはTOHOシネマズさんの流山おおたかの森がありますし、SMTさんのMOVIX柏の葉もありますので、もうマーケットがないという見方もあると思いますが、私自身はシネコンと違ったマーケットセグメントを創出したいので、近くにあることがいいと思っています。つまり映画人口がそこにあるという理解なので、むしろ近くにそういう大きなシネコンがあるということは、我々がちょっと編成を変えた映画館をやるにはプラスだと思って判断をしました。


 ―具体的にどのような番組編成をやっていく予定なのですか。

清水
 最初は私どもの読者が喜ぶであろう商品です。それは新作、旧作に関わらずですが、立ち上げ当初は編成が間に合わないので、当然過去の作品にならざるを得ないと思いますけど、私どもの読者に合う商品をまずお届けしたい。
 その次は、私どもの読者と非常に近しいマーケットではないかと思っているのですが、お隣りの高島屋さんに来られる割と富裕層といいますか、年輩の方で時間が自由になる方、こういう層をまずは狙っていきたいと思っています。

 ただ、それ以外はやらないということではなく、やはり駅ですのでいろんな方が来られます。主婦の方、若いOLさんなども来られるので、時間帯に合わせた編成も工夫していきたい。このスクリーンをどこのチェーンで流すかという発想よりも、まず我々の潜在的なマーケットはどういう層で、その人に向けてどういう時間帯で、どういう商品をお届けすればいいかということを考えています。仮説を立てているのは朝の時間帯。高島屋さんに来られる前に一本観ていただくことを考えています。例えば、9時とか朝は少し早い時間にスタートし、2時間観て11時にデパートが開くという、一本観に立ち寄って頂くことができれば、高島屋さんとコラボレーションする可能性もあるかもしれません。逆に夕方は通常よりスタートを遅くさせて頂いて、都内に勤務されているOLさんや会社員の方々が柏に戻られて、あるいは柏に勤務されている方が仕事を終えられて来るような時間帯に合わせた編成が出来ると面白いのではないでしょうか。


映画館というよりは「劇場」として成り立つことが大事


 ―どれくらい潜在顧客がいると想定しているのでしょう。

清水
 まだ見込んではいないんですけど、我々自身もどれくらいいるかで編成を変えていかなければならないでしょう。いま一応来年2月頭にオープンする予定なので、新作は数か月前に編成が決まりますから、オープンから3か月くらいは新作がまわってきません。ですから、その間にトライアルをしていきたいと思っています。

 正直私は映画館が小売業としてしっかりと成り立つことが大事だと思っています。仮に3スクリーンを埋めるだけ映画ファンがいないということがわかったら、それは違うコンテンツを流すことも当然やっていかなければいけません。ODS(非映画コンテンツ)のシネマ歌舞伎やライブ上映などもあるでしょう。柏ですから、例えば柏レイソルのサッカーの試合を観ようとかですね。そういうものを上映していくと、キネマ旬報社は「映画関係の出版社だろう!」と言われるかもしれませんが、まずは小売業としてしっかりと成り立つことが大事。そして、それが成立すれば他の2スクリーンは映画を継続してやっていけます。映画館というよりは「劇場」として成り立つことが大事だと思っていて、トライアルの中でマーケット規模をしっかりと見定めたいと思っています。


 ―10月に「『こどもと映画』を考える」という本を出版されましたが、こども向け映画なども上映して、地域の子供たちを映画ファンとして育てていこうとされているとか。

清水
 
これは映画業界の課題だと思っています。我々もせっかく劇場の編成に関われるのであれば、ある程度そこの部分だけは採算度外視しても、将来のために投資をしたいと思っています。例えば、東武鉄道さんにもお声掛けをしていて、一緒に夏休みの期間は、子供さんをご招待させていただくとか、或いは学校に我々が出かけて行って上映会をしませんかとか、そういう働き掛けは地域のコミュニティに入っていく段階でして行こうと考えています。

 いま編成チームには課題として与えているんですけど、例えば水曜日の午後とか、木曜日の午後とか、曜日、あるいは時間を限定した形で構わないので、子供だけが入れるようなものを調達できないかと。それは配給会社さんのご協力がないと出来ないんですけど、根気強く協力をお願いしていきたい。その時間にはお子さんに合ったような価格帯で、理想から言うと500円玉握りしめて学校帰りに一本観に来てもらいたい。フランスには子供映画館というのがあると聞いています。スクリーン全部をお子さんにというのは厳しいと思いますが、一日、一回とかでいいのでそういう時間帯を作っていきたいですね。配給会社さんには今お願いをしているところですが、我々は新参者なので、実績を見ながら協力していきたいと仰って頂いています。


他の単独の映画館と協業する可能性もある


 ―劇場運営事業参入を発表された後の映画業界の反応はいかがでしたか。

清水
 逆に興行会社さんからは結構お問い合わせを頂いています。ご一緒する可能性はありますかと。後は運営についてもTKPさんに何件か問い合わせが入っています。配給サイドからすると、当然まわりとの関係を見ながら提供できるものがあればしますよと。そういう中で、キネ旬らしい編成をされた方がいいというご意見は頂戴しています。


 ―例えば、キネ旬版「午前十の映画祭」のような、キネ旬ブランドを生かしたものですか。

清水トップ.jpg清水
 作品の調達も含めて今考えています。オープン企画にはなりませんが、しっかりと準備をしていきたい。今回の劇場運営参入は、当社にとっては試験的と言いますか、試みなんです。興行を本業にしている方には失礼に聞こえるかもしれませんね。シネコンは素晴らしいし、功罪で言うと功の部分が大きいと思うんですけど、それによって一般の単独館がなくなってきています。デジタル化には1000万円とか600万円とか投資することになりますから、閉館はデジタル化のせいだという風潮も多少あります。しかし、それに関して私自身は、契機になったことは間違いない事実だと思うんですけど、そこじゃないと思っています。

 これはいろんなところで申し上げているんですけど、大きい資本と小さい資本の小売業がどう戦うか、あるいは差別化するかという問題です。興行界としては恐らく他の業界に学ぶところがあるのではないかと思っています。スーパーとかデパートなどは同一のチェーンでドーンと提供します。そうした時に商品の調達力では絶対に敵わないわけですよね。そこで同じ商品で戦っていたら多分負けてしまう。だとすれば差別化していく必要があり、それは商品なのか、もしくはサービスなのか、或いは両方なのかということを考えていきたい。もし成功モデルを作れたら凄く面白いのではないでしょうか。

 マーケットがかぶらない、他の単独の映画館と協業する可能性もあるのではないかと思っています。大手の配給会社さんのチェーンを外れることは凄く勇気のいることだと思います。いい商品が来なくなる可能性がありますし、大手は大きな負担をして告知をしてくれるわけですよね。そうするとそこのチェーンを外れると、途端に自分たちで告知をしなければならなくなります。我々は弱小ですけどメディアを持っているので、我々の読者に合う商品を、自分たちの媒体を使いながら告知していけば、それは出来ると思います。

 キネマ旬報は全国で売っていますので、同じ時期にやれれば、そういう告知をご一緒することができて、告知のコスト、一館あたりのコストが下がってくるわけです。ですからキネ旬の「ベストテン映画祭」みたいなものは考えています。ただ、これを柏だけでやるのではなくて、いろんなところにお声掛けをして同時にやれたら面白いと思います。その前の準備をしているところです。

 映画館をやることが我々のミッションではなくて、日本中のできるだけ多くの人たちにできるだけ多くの作品をお届けすることが、キネマ旬報社グループのミッションだと思っています。デジタル化によってかけられなくなる作品があるのであれば、そのフィルムをデジタル化することによって、解決していったらどうだろうとも考えています。(つづく)


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