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絶望があるから希望が眩しい―話題の佐村河内守を鑑賞

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絶望があるから希望が眩しい―話題の佐村河内守を鑑賞

2013年04月09日

 2013年春、日本音楽シーンで驚異のヒットが生まれている。佐村河内守作曲『交響曲第1番《HIROSHIMA》』(日本コロムビア)。新譜クラシックが、発売(2011年7月)から1年半を経て、異例のセールスを記録している。

 昨秋頃から話題になっていたが、今年3月31日放送「NHKスペシャル」で特集され完全に火がついた。出荷10万枚を突破。全国のレコードショップに特集コーナーが設けられ、オリコン週間トップ3入り。15万、いや20万枚突破も見据える様相だ。

 全聴力を失いながらも作曲を続ける姿勢から、いつしか“現代のベートーヴェン”と呼ばれるように。その呼び名が適当かどうか、また、障害を売り物にしているのでは? という声もある。ならば、聴きにいこう――。


●2千人が吸い込まれた…

 コンサート、ライブに少なからず足を運んできて思うのは、ジャンルがなんであれ、良いライブは観客にパフォーマンス以外のことを一切考えさせないということ。とにかく夢中にさせてくれるものだ。
 
佐村河内守2.jpg
 2月25日に池袋の東京芸術劇場コンサートホールで行われた、東京での初の『交響曲第1番《HIROSHIMA》』全曲演奏会は、確かにそれだった。会場を満員に埋めた2000人はクラシックのコアファンばかりではなく、開演前はソワソワした感じがあった。しかし、演奏が始まるやいなや、その音に、全員が吸い込まれた。

 大友直人指揮、日本フィルハーモニー交響楽団の演奏による、80分以上に及ぶ長大なシンフォニー。指揮者、演奏者の一挙手一投足に、会場中が息をのんだ。その様子を、佐村河内は、客席でじっと見つめていた。自身が作曲した交響曲は聴こえない。

 やがて会場にあふれた涙は、佐村河内にもはっきりわかっただろう。スタンディングオベーションは、いつまでも止まなかった。壇上で、謙虚に何度も頭を下げる全聾の作曲家に届けとばかりに、惜しみない拍手が贈られた。


●暗く重く混沌…だから眩しい

 80分を超える熱演で、心に迫ってきたのは、圧倒的な“絶望”の表現。つまり、あまり取り上げられない、第1楽章と第2楽章。

 メディアで『交響曲第1番~』が紹介される際、主に第3楽章の安らかな調べがメインで使われ“奇跡のシンフォニー”と強調される。確かに、この希望の旋律だけでも十分価値はある。しかし、べートーヴェン「第九」の歓喜の歌に至るまでがそうであるように、そこに至る“絶望”が深ければ深いほど、希望の光はより眩しい。
  
 HIROSHIMAの運命と絶望を描写した第1楽章と第2楽章。クラシックになじみのない音楽ファンからすると、難解で、聴きやすいとはいえない。暗く、重く、混沌。苦痛にすら感じ、奈落の底に突き落とされた気分になる。


●明日がもっと明るくなるように!

佐村河内守3.jpg
 暗黒のような旋律。それは、不遇の天才・佐村河内の半生を彷彿させる。佐村河内の闇を、指揮者も演奏者も、そして観客も共有し、耐えて、信じて、祈って……そして、おとずれる安らかな光。その眩しさといったらない。

 佐村河内守を聴こう。絶望を聴こう。明日が、もっと、もっと明るくなるように祈りながら――。

 公開中の映画「桜、ふたたびの加奈子」で、佐村河内の弦楽作品が使用されている。劇中音楽のオリジナルを収録したアルバム「シャコンヌ ~佐村河内守 弦楽作品集」が、日本コロムビアより発売中。

 話題を呼んだNHKスペシャル「魂の旋律~音を失った作曲家」が、NHK総合で4月13日(土)午後3時5分~54分に再放送。

 8月18日(日)には、神奈川のミューズ川崎シンフォニーホールで、「交響曲第1番《HIROSHIMA》」全曲再演、「4声ポリフォニー合唱曲《レクイエム・ヒロシマ》弦楽合奏版」世界初演が実現する。




佐村河内守る.jpg

佐村河内守(さむらごうち・まもる) 
1963年9月21日~

 被爆者を両親として広島に生まれる。4歳から母親よりピアノの英才教育を受け、10歳でベートーヴェンやバッハを弾きこなし「もう教えることはない」と母親から告げられ、以降、作曲家を志望。中高生時代は音楽求道に邁進し、楽式論、和声法、対位法、楽器法、管弦楽法などを独学。17歳のとき、原因不明の偏頭痛や聴覚障害を発症。高校卒業後は、現代音楽の作曲法を嫌って音楽大学には進まず、独学で作曲を学ぶ。
 1988年、ロック歌手として誘いを受けたが、弟の不慮の事故死を理由に辞退。聴力の低下を隠しながらの困難な生活が続く中、映画『秋桜』、ゲーム『バイオハザード』等の音楽を手掛ける。1999年、ゲームソフト『鬼武者』の音楽「交響組曲ライジング・サン」で脚光を浴びるが、この作品に着手する直前に完全に聴力を失い全聾となっていた。抑鬱神経症、不安神経症、常にボイラー室に閉じ込められているかのような轟音が頭に鳴り止まない頭鳴症、耳鳴り発作、重度の腱鞘炎などに苦しみつつ、絶対音感を頼りに作曲を続ける。
 2000年、それまでに書き上げた12番までの交響曲を全て破棄し、全聾以降あえて一から新たに交響曲の作曲を開始。同年から障害児のための施設にてボランティアでピアノを教える。この施設の女児の一人は、交響曲第1番の作曲にあたり佐村河内に霊感を与え、この作品の被献呈者となった。2003年秋、『交響曲第1番《HIROSHIMA》』を完成。(日本コロムビア特設サイトより)





(取材・文/高崎正樹)

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