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インタビュー:日本レコード協会 畑陽一郎理事

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インタビュー:日本レコード協会 畑陽一郎理事

2013年05月27日
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日本レコード協会(RIAJ)

専門機関を立ち上げ

違法アップロード対策を更に強化


 昨年(2012年)10月1日から、市販の音楽や映像が違法にアップロードされていると知りながら、それらをダウンロードする行為が刑罰(2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこの両方が科される)の対象となった。しかし、ネット上には、いまだ違法にアップロードされた音楽、映像やそれらをダウンロードできるツール、サービスが数多く存在する。そういった中、日本レコード協会は、違法配信対策をさらに強化するため、今年4月1日「著作権保護・促進センター」(略称:CPPC)を新たに立ち上げた。同センターの目的や違法配信の現状などについて同協会の畑陽一郎理事(法務部・管理部担当)兼情報技術部部長に話を聞いた。


違法ダウンロードに対しては法改正の効果も
違法アップロードは…

―――今回新たに立ち上げられた「CPPC」とは?【画像】日本レコード協会 畑陽一郎理事 白枠付き.jpg

畑理事(以下、畑 ※敬称略) 日本レコード協会が4月1日に発足した「著作権保護・促進センター」で、英語名称「Copyright Protection and Promotion Center」の略称です。

―――どのような経緯で立ち上げられたのですか?

 日本レコード協会の平成25年度の重点施策のひとつに違法配信対策の強化を掲げています。具体的には、違法配信に対する削除要請などの強化、悪質な違法行為者に対する刑事・民事対応の強化などです。

ご存じの通り、昨年10月に私的違法ダウンロード罰則化が盛り込まれた改正著作権法が施行されました。同法施行後にP2Pファイル共有ソフトの接続ノード数が減少するという抑止効果や、またアンケート調査結果で改正法の認知が50%~70%に及ぶなど、違法ダウンロードに関しては法改正による効果が現れてきています。

その一方で、違法アップロードの状況は改善されていません。2012年度当協会は30万件以上の削除要請を送りましたが、これは前年度(2011年度)を上回っており、近年増加傾向にあります。そのため、これまで一部署のひとつの事業として行ってきた違法対策業務をより強化する必要から、専任のスタッフを配置した専門機関として今回CPPCを立ち上げ、違法アップロード対策をより特化して行うこととしました。

主に削除要請作業を強化

―――「CPPC」では主にどのようなことをされるのですか?

 これまで当協会会員社から委任を受け、その会員社が権利を持つ音楽やビデオクリップなどが動画サイトなどに違法にアップロードされていた場合に、動画サイトの事業者などに対して、違法配信されている音楽などのファイルの削除要請を送っていました。

この作業を今回から強化して行います。具体的には、動画サイトやストレージサイトなどに、権利者に無断でアップロードされている音楽などの違法ファイルの探索と、その削除要請作業です。それ以外には、最近ではスマートフォン(スマホ)のアプリを利用した違法配信なども見受けられるため、スマホアプリへの対応も行なっていきたいと考えています。

―――スマホによる違法行為は増えていますか?
 
 2010年8月の当協会調査によると、権利者に無断でダウンロードされた音楽などのファイル数は、年間で推計43.6億ファイルでした。法改正後、この数が増えているのか減っているのかは現在調査中ですが、当時は今ほどスマホやタブレットが利用されている状況ではありませんでしたので、これだけスマホが普及した現在ではスマホを利用した違法配信は確実に増えていると考えられます。

スマホユーザーの間で人気の高いアプリに、たとえば違法にアップロードされた音楽の中でダウンロードできるものを検索してくれる無料のアプリなどがあり人気を博しています。こういったアプリは、ユーザーの違法利用を促すことにつながるため、アプリの提供者等などに対してアプリの取り下げなどを求めていきます。

―――ユーザーが安心して正規のものを購入できるようにするには?
 
 正規配信を安心して購入できる環境づくりも、違法配信対策の一環として必要なことだと考えています。スマホに限らずタブレット向けのアプリ、P2P、ストレージサイトなど違法にアップロードされた音楽などを利用する方法は無数に存在しています。その中で、たとえばスマホアプリの場合で言えば、違法な利用を助長してしまうようなアプリが容易に入手できるという状況があります。こうしたアプリで何気なく音楽などを楽しんでいるうちに、違法行為に手を染めてしまう場合もあることを何らかの方法でユーザーに訴えて、違法な利用に至らないよう啓発をしていく必要があると考えています。

―――「CPPC」の名称にある<保護>と<促進>というのは、具体的にはどのようなことを指すのですか?

 <保護>とは、著作物の保護にあたり、権利侵害行為の抑止や違法アップロードされた音楽などの削除要請等が含まれます。また(現時点での)<促進>とは、違法利用を減少させる事により、正規コンテンツの流通<促進>に導くことを目的とする事から命名しています。

―――違法配信の現状をどのように捉えていますか?

 昨年10月の法改正後、違法配信の実態調査結果が出ていないので何ともいえませんが、違法アップロード行為自体は減少しているとは思えません。インターネットの普及、通信環境の変化、多機能端末の普及、それに伴うツールやアプリなどの出現で誰でも簡単に違法行為を行える状況や環境になってきています。このため罪の意識無く、気軽にアップロードしてしまう傾向が顕著になってきており、そのような行為の積み重ねが、さらに違法行為の蔓延を招くという悪循環に陥っていると思います。

特に、近年パソコンに近い機能を持つスマホの登場により事態は深刻化し、違法行為が蔓延するスピードも増してきていると思います。1999年のナップスター出現以来、音楽配信市場は違法配信との戦いですが、これは今後も続く終わりなき戦いだと考えています。

違法アップロードをしても仕方がない
という雰囲気を作り出していくこと

―――「CPPC」の目標は?

 違法行為の撲滅であることに間違いありませんが、まずは着実に事業を軌道に乗せること。日々専任のスタッフが監視等行い削除要請を送っています。“違法アップロードをしない・できない・しても仕方がない”という雰囲気を作り出すことです。

違法アップロードをする人には、罪の意識なく行為に至る人たちと確信犯で行なっている人たちがいます。罪の意識なく行為に至る人たちに対しては、違法にアップロードされた音楽などが今より広範囲のサイトで且つ素早く削除されていれば、そのような行為がいけないことだと分かってもらえるはずです。このような状況を作り出すことにより「違法アップロードはいけない」「違法アップロードをしても意味が無い」という意識をもち、それが行動に繋がれば、違法アップロード対策の効果があったと言えるのではないかと考えています。

確信犯で行なっている人たちは、反復継続して違法行為を行なっているという特徴がありますが、彼らが違法アップロードした音楽などの削除要請をこちらでも反復継続して行うことが必要であると考えています。それでも違法アップロードをやめない悪質な違法行為者に対しては、更にその次のステップとして、警察との連携による刑事告訴や損害賠償請求などの民事上の対応などの法的措置を講じていきます。

違法アップロードを根絶することが「CPPC」に課された使命ですが、他方で音楽業界としては、違法利用してきたユーザーを正規配信の利用につなげるという別の課題があります。適法で使いやすく魅力的なサービスをあわせて提供していかなければなりません。この対策は当協会だけではなく、レコード会社や配信事業者などと一緒になって取り組む必要があります。

―――日本レコード協会が目指す健全な音楽配信市場とは?

 音楽の創造サイクルが成り立つビジネススキームが確立されている市場であることだと考えます。パッケージ市場もピーク時より5割程度に落ち込んだとはいえ、昨年14年ぶりの回復をみせるなど好調な動きがみられました。

残念ながら音楽配信はこれまで牽引してきたモバイル市場が縮小傾向にあるため売上は減少していますが、聴き放題サービスや高音質(ハイレゾ)配信などユーザーが音楽を楽しむ手法の選択肢が広がりつつあります。

日本においてはもちろんパッケージが主流であることに変わりはありませんが、音楽配信市場においてもパッケージのようなレコード産業の収益の基盤になるような市場に成長してほしいと考えています。(了)

(インタビュー/文・構成:中原卓彦)

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