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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.149】
「小さいおうち」、“山田洋次”で涙するとは

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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.149】
「小さいおうち」、“山田洋次”で涙するとは

2014年01月29日
 このコラム、ちょっと空いてしまって、失礼しました。弁解はせず、さて過ぎ行く1月だが、前回呆れた感じで記した東宝の威力は続いている。大方、「永遠の0」の興行が引っ張っているわけだが、驚くなかれ、早くも興収60億円である。これで、70億円突破は確実となって、80億円さえうかがう。「永遠の0」は「もう、いいよ」という人も多かろうが、興行(です)のいいことはどんどん書くのが私の主義。ここで、止めますが。

 今週、気になったことを書く。1月25日、新宿ピカデリーに赴き、「小さいおうち」を見に行ったときのことだ。狙いを定めた上映開始時間は、12時台。まず空いているだろうとの憶測である。ただ、いつものように広いロビーに着くや、やけに年配者が多いのだ。そのあとすぐに「小さいおうち」の上映を告げるアナウンスがあり、目立つ年配者たちが入口に殺到した。

 多くの年配者の大部分が、「小さいおうち」のスクリーン1に流れたのだ。なかに入ると、8割方埋まっていた。いい感じだな。「東京家族」(最終興収18億2千万円)くらいは、いけるかな。映画終了後の観客の満足感も、まずまずの印象をもった。

 結果、「小さいおうち」のスタート成績は、動員11万2823人・1億2281万1700円だった。これは驚くなかれ、「東京家族」の58・6%だったのである。新宿ピカデリーのあの光景は、いったい何だったのか。その時間帯特有の“入り”だったということが、まず考えられる。前にも指摘したように、新宿ピカデリーは日本一のシネコンである。全国的に今一つの成績であっても、ここだけは別格的な集客となることが、比較的ある。

 さてここで言っておきたいのは、前記の成績のことではない。山田洋次監督というネーミングが果たす集客バリューのことである。私は新宿ピカデリーにおいて、今の日本の映画監督のなかでは、それが抜きん出ていることを改めて実感させられたのである。全体の興収の大小ではない。彼の映画が、ある層には確実に届いていることの映画館における実感めいたものである。もちろん、その動員が、もっと膨らめばいいというのは当然ではあるが。

 新藤兼人、若松孝二、大島渚監督亡きあと、日本の映画界で巨匠と言われる監督は、本当に数えるくらいしかいなくなった。その一人、82歳の山田監督が今、最前線で映画を作り続け、その映画が観客に届いていることのとてつもなさに思いを馳せる。再度言うが、これは全体の興収の大小ではない。

 ラスト、エンディングロールに“山田洋次”と出て、私は涙があふれるという奇態な経験をした。監督の名前で、涙することなどあり得るだろうか。その現実が、この2014年の1月25日に起こったのだ。「小さいおうち」の興行面における問題点は当然あるのであるが、私はまずもって、このとてつもなさを肝に銘じつつ、新宿ピカデリーをあとにしたのである。

(大高宏雄)

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