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バリアフリー本格導入へ!『舞妓はレディ』上映

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バリアフリー本格導入へ!『舞妓はレディ』上映

2014年11月10日

 第27回東京国際映画祭開催期間中の10月24日、周防正行監督作品『舞妓はレディ』がバリアフリー上映された。

 会場はこの春にオープンしたTOHOシネマズ日本橋。当日訪れた客は、字幕が表示されるメガネを装着するか、イヤホンで音声ガイドを聴きながら映画を楽しんだ。会場には手話を使って会話をしている聴覚障がい者や、盲導犬を連れた視覚障がい者、バリアフリー上映に興味を持つ映画関係者らが多数詰めかけ、今回の企画への関心の高さが窺えた。

 貸し出された字幕表示用のメガネは、エプソン発売のモベリオ(両眼型)とオリンパス発売のメグ(片眼型)の2種。加えて、音声ガイドを聴けるiPodが配られた。いずれも、『貞子3D』スマ4D上映の時に使われた電子透かし技術(本編音声に信号が含まれている)により、WiFiも電波も不要だ。

バリアフリー上映.jpg
左がモベリオ、右はiPod


 上映が始まると、傍目には普段と変わらない場内の様子だが、メガネをつけるとレンズに字幕が表示され、iPodからはスクリーンに映るキャラクターたちの動きや表情、情景などを細かく説明する音声が流れてきた。ちなみに、手持ちのiPoneなどでも、専用のアプリ(UDキャスト)をインストールすれば音声ガイドを聴くことができる。

 東京国際映画祭でバリアフリー上映を行なうのは今年で4回目だが、この電子透かし技術が使われたのは今年で2回目。いよいよ、映画館への本格導入が始まろうとしている――。



劇的に改善するポテンシャルがある

松森氏
松森氏1.jpg
 上映後には「映画の未来」と題されたシンポジウムが行われ、周防正行監督、映連の華頂尚隆事務局長、ユニバーサルデザインアドバイザーの松森果林の各氏が登場した。司会は、音声ガイドの台本を制作した松田高加子氏が務めた。

 松森氏は高校時代までに聴力を失い、今はNHK「ワンポイント手話」のMCを務めるなど、聞こえる世界、聞こえない世界の両方を知る立場からバリアフリーの実現に向けて精力的に活動している。『舞妓はレディ』は片眼型のメガネをつけて鑑賞し、その感想を問われると、「私は映画を観るのが趣味だが、邦画は字幕がないので年に1回観るか観ないか。でも『舞妓はレディ』で日本の伝統文化を学べた。方言の面白さもハッキリわかったし、三味線や雨の音まで(字幕で)表現されていたので、音の存在を感じた」と念願の日本映画鑑賞に満足感を漂わせた。一方で「体勢を変えると字幕の位置がずれてしまうので、その調整は難しかった。2時間装着していると重みも感じてくるので、もっと軽くなるといいなと思う」と課題を述べたが、全体的には「思いのほか違和感なく観ることができた。映画館だけでなく、テレビや美術館、駅やテーマパークにも活用できそう」と新しい技術の導入に期待を寄せた。

華頂氏
華頂氏.jpg
 映連の華頂氏は、映画製作者側の視点でバリアフリー上映の現状を次の通り語った。「映連の4社(松竹・東宝・東映・KADOKAWA)の作品の、聴覚障がい者のための字幕の付与率は年々高まり、ようやく70%まで向上した。100%にならない理由は様々だが、例えばアニメーションの場合、公開間際に完成することが多いので、字幕データを作れないことが多い。一方、視覚障がい者のための音声データは、残念ながら付与率が低い。字幕を付与した上映素材は、北海道から沖縄まで順にローテーションで皆さんに楽しんでもらっている。音声ガイドは、実施日に当該映画館にボランティアの方が行って、FM電波を送信する機器を取り付けて上映している。指定された日時に、指定された劇場に行かないと楽しめない」。しかし、この電子透かし技術を使えばそういった制限がなく、「閉塞感のある鑑賞環境を劇的に改善するポテンシャルがある」とした。


どんな人にも観てもらえる努力を絶対する

周防監督
周防監督.jpg
 この日は音声ガイドを利用して鑑賞したという周防監督は「常々、お客さんを選ばない映画を作りたいと思っていた。それは、どんな趣味で、どんな生き方をしていた人にも、という意味があったが、このような試みを体験することで、本当の意味でお客さんを選ばない映画(を作りたい)ということに改めて気づかされた」と話した。また、今回は全編目をつぶって音声ガイドに集中して鑑賞したことを明かし、「新たな発見があった。僕は全カットを自分の意志で作って、常にイメージとしてあるのに、(音声ガイドを使うことで)違うイメージが浮かぶ。これはすごく驚き。地球上で『舞妓はレディ』を観た人の中で、それぞれの『舞妓はレディ』が生まれる。感動的なこと」とクリエイター側の視点でバリアフリー上映の魅力の意外な側面を述べた。また、「こういう形で、どんな人にでも観てもらえるという環境ができるなら、そのための努力を絶対する。表現者とはそういうもの。自分が作ったものをより多くの人にどうやって届けるかは、いつも考えていること」とし、今後はバリアフリー上映も想定した映画作りをしていく考えをにおわせた。

 客席からも感想が寄せられ、視覚障がい者の女性は「新システムに感動した。今までは決められた作品、劇場、時間でしか映画を観られなかったが、これからは観たい映画が観たい時に楽しめるようになる」と話し、同じく視覚障がい者の男性も「ミュージカルシーンは通常、音楽を聴くことに集中するが、音声ガイドにより周辺の情報で彩られ、音楽がより鮮明になっていった」と好意的に受け止めている様子だった。


来年1年間で試験導入

左から松森、周防、華頂の各氏
登壇者.jpg
 一方、華頂氏は本格導入に向けて課題もあるとし、「(携帯端末を使うと)液晶画面が発する光が他の客の迷惑になる可能性がある。それと、そういった機器を持ち込むことで、映画を盗撮していると疑われるデメリットも内在している」と指摘。ルール順守、認識の深まりの必要性を説いた。さらに、民間企業単独による取り組みは経済的に限界があるとし、「経産省、文化庁、厚生労働省には助成も含めて支援頂きたい」と訴えかけた。今後は、来年1年間で試験導入を行ない、問題点を洗い出していくという。

 最後に松森氏は「日本人として、もっと日本映画を楽しみたい。字幕表示も、まるで台本を読んでいるようなので、もっと表現の余地がある。例えば、楽しいシーンは字幕が踊ったりキラキラしたりとか…。今、国内には2000万人もの難聴者がいるとされている。今は健康でも、年をとって聞こえづらくなってしまう可能性もある。そんな時、映画を諦めることのないように、映画業界全体があらゆるお客さんを大切に考えてほしいと思う」と話し、周防監督は「松森さんの『字幕が踊る』は凄いと思った。そういうアイデアをどんどん出してもらって、それをどう実現していくかということを頑張る。せっかくの素晴らしい新システムを掴んだのだから、これを実りあるものにしていきたい」と力強い口調で締めくくった。


取材・文/構成: 平池 由典



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