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『カミングアウト』犬童一利監督

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『カミングアウト』犬童一利監督

2014年11月28日
監督とプロデュースを手掛ける若き才能!

映画『カミングアウト』
映画『カミングアウト』  

 11月29日(土)より渋谷のユーロスペースで公開の長編初監督作品『カミングアウト』に加え、プロデュース作品『ヲ乃ガワ―WONOGAWA―』(11月1日公開)と『紅破れ』(11月15日公開)が、11月に続けて公開となった28歳の新鋭監督・犬童一利。 「たまたま公開時期が重なった」というが、『カミングアウト』を撮ろうと思った理由、作品の見所、そして2作品をプロデュースすることになった経緯、さらに今年8月に撮影を行った『死んだ目をした少年』(15年2月21日公開)のプロデュースに続き、監督最新作『早乙女四姉妹』の撮影も11月に行った。新しい才能の誕生を予感させる犬童監督に話を聞いた―




 ―まず監督作品『カミングアウト』について。この作品を撮ろうと思った動機を聞かせください。

 犬童監督 同性愛がテーマなのでそちらに注目されがちなのですが、もともとは「自分自身と向き合う」ということを描こうと思って、行き着いたのが同性愛のカミングアウトでした。
 自分が初めて長編映画を撮ろうとした時に、日本で今の20代中後半ぐらいが作る意味というのを考え、今の日本を切り取りたいなと思いました。周りに今の日本についていろいろ聞いたり、自分が思っていることとか考えたら、ネガティブなことばかりだったのです。
 ただ、何かそれを変えようとして動いている人は、僕の周りには全然いなかったのです。よくないなと思っているけれど、別に自分の実生活には影響がない。サラリーマンでお金をもらって普通に暮らせるし、そこそこ幸せという。でも、満足しているわけではない―というのがありました。
 日本はとても裕福な国だと思うのです。何かあっても、いつか誰かが何とかしてくれるだろう、不況もいつか良くなるだろうというような、変な希望を持ってしまっているなと。それが不健全と感じ、自分とちゃんと向き合うということを描こうと思ったのです。
 いろいろ考えて、行き着いたのが同性愛者の「カミングアウト」でした。カミングアウトというのは、まず自分自身と向き合った上での話になると思いますので。それが作品自体を作ろうと思った動機ですね。

 ―とはいえ、商業映画として成立させるためには、製作に入るまでにいろいろと大変だったのではないですか。

 犬童監督 はい。まず完全にゼロの状態でした。僕の周りには同性愛者のオープンな人間というのは25歳ぐらいの時まで一人もいなくて、一人だけ前作の『SRS ♂ありきたりなふたり♀』(2012年)を撮った時にゲイのアーティストの知り合いができ、最初に彼にまず話を聞き、企画の相談をしました。
 まずはお金がないと撮れないですから、お金の部分とそういう取材も兼ねて、ゲイ・イベントとか新宿二丁目とか行ったり、ウェブで著名なゲイのブロガーや活動家の方々に片っ端から連絡を取って、ひたすら会いました。
 また、ちょうど去年のゴールデンウィークに、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)関連の7つの団体が主体となり、1週間で50程のイベントが開催される「Tokyo Rainbow Week」という大きな企画が始まりまして、そこで沢山の人と知り合うことができました。
 そして、企画の動き出しの最初のきっかけは、とある障害者支援のNPOです。このNPOは僕が前に働いていたUSENのお客さまでして、USENにいる時から映画をやるというのは伝えていて、その後も仲良くさせてもらっていたのですが、その方が最初にスポンサーになってくれると言ってくださったのです。それから、LGBT関連のスポンサーとして有名なアルファロメオさんにもお力を借りることができました。去年の「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」のオープニング・パーティにマーケティング本部長のイタリア人女性が来ていたので、企画書を出して「お願いします!」と言ったら、次の日に代理店から連絡が来て協力してくれることになりました。他にも様々な協力者や支援者の方々がいて、そういう流れで少しずつ制作費も見えてきて、なんとか去年の10月にクランクインをすることができました。

 ―かなりローバジェットの作品だったようですが、撮影は実質何日間だったのですか。

 犬童監督 1週間ちょっとです。当時の新宿二丁目の振興会の会長にもご協力いただきました。でも、クランクインして2日目に10年に一度の台風が来て、撮影期間中にもう1回台風に見舞われました(笑)。

 ―海外を見ると、そういったテーマを撮っている監督さんは、当事者の方が多かったりしますよね。いわゆるストレートな犬童監督が、こういうテーマを撮る難しさというのはあったのですか。

 犬童監督 やはり決定的なのは、当事者の気持ちというところに僕はなり切れないので、生の声を聞くしかないと思っていました。非常に沢山の方々に協力を頂きまして、とある人に取材を申し込んだ時は、その人のパートナーさんがちょうど母親にカミングアウトを考えているタイミングで、パートナーの人も一緒に取材に来てくれたりしたこともありました。

 ―脚本作りや映画として描くにあたって、悩んだ部分というのはありましたか


自分とちゃんと向き合うこと


 犬童監督 描き方はやはり大変でした。というのも、こういうテーマの作品というのは、みんなある種尖ったものを期待しているといいますか、ちょっと異質なものを期待している部分があると感じてまして…。
 ただ、生のみんなの声を聞いていると、単にハッピーエンドとかバッドエンドには振り切れないというか、そうはならないなというのが実際だったのです。親に言って、すぐ受け入れてもらえて―もちろんそういう事例もあるのですけれど、やはりそんな簡単なものではありません。
 そういうこともあって、リアルにこだわりたかったというのは、取材をするにつれて増えて来ました。元々のテーマが自分と向き合うことなのですけれど、取材していくうちに、あまりに周りを知らなすぎる―僕を含めてそうだったのですが、知っていけば知っていくほど、知らない世界とか知らなかった自分自身が浮き彫りにされ、いかに自分がステレオタイプに見てしまっているというのが、もの凄くわかってきたのです。ですから、まずは本当にLGBTについて知る―知った上でないと何もないと思いましたので。それは非常に大きな二つ目のテーマとして、取材する中で出て来ました。

 ―そういうものを映画という媒体を使って、もっと今の社会に問いかけたいというのがあったということですか。

 犬童監督 そうですね。きれい事になりますけれど、この映画でLGBTの現状が少しでも良くなればいいなと。同性愛を始めとしたLGBTは、マジョリティに抑圧される部分や、法整備なども日本ではほとんどされていません。アメリカに20~30年遅れています。そういう見えないものが見えて来ました。

 ―犬童監督の中で、マイノリティに対しての何か特別な思いというのが、重なる部分があったのでしょうか。

 犬童監督 それはないですね。結果的にという感じです。「マイノリティ」という言い方をしたら、いくらでもいると思うのです。ただ、例えば障害者の方とか、セクシャル・マイノリティとか、部落の問題とか、人種的な問題でのマイノリティというのは、僕の周りにはオープンな方は特にいなかったので、そういうところに関してのアンテナは特になかったです。
 ただ、一番変わったのは、もちろんセクシャル・マイノリティに関してなのですけれど、ことセクシャリティというのは一つの部分で、他のところのマイノリティと言いますか、なにかフラットに物事が見られるようになったと思います。
 セクシャル・マイノリティ出発なのですけれど、価値観で言うといい意味で人間の本質の方を見られるようになったのかなというのは、自分としても感じています。実際に映画祭で見てくださった方がそういう部分―「これはLGBTだけのことじゃないですよね」と言ってくださったりもしましたので、自分の価値観の変化という部分で言うと、LGBTだけではない部分にも当てはまるというのはうれしい言葉でしたね。

 ―ローバジェットの映画製作は大変だったのではないですか。

 犬童監督 大変でした・・・皆さんの本当に多大なるご協力があってこそ実現できたもので、ロケ地はほぼ無償、人件費も、いつもお世話になっているスタッフやキャストの方々に本当に安いギャラで協力してもらいました。自分の家や前にルームシェアしていた家も使ったりと、本当に総力戦でしたね。




『カミングアウト』作品概要

出演:髙橋直人、岡村優、夏緒、高山侑子、秋山浩介(TooT Aki)、歌川たいじ、一ノ瀬文香、美漸ーBizen

製作:横川康次
プロデューサー:林和哉
撮影・編集:曽根剛
録音:南川淳
助監督:若松直人
制作:最上勝司
美術:永野桃子
ヘアメイク:堀奈津子
題字:ジャスティス森本
主題歌:『応援の唄』 ききまたく
協賛:NPO法人自立支援センターむく、Alfa Romeo、TENGA
制作:REIZ INTERNATIONAL、LILY FILM
配給:REIZ INTERNATIONAL
宣伝:ボダパカ
製作:『カミングアウト』製作委員会





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