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アカツキがインド市場に挑戦、事業責任者の河村悠生氏に聞く

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アカツキがインド市場に挑戦、事業責任者の河村悠生氏に聞く

2021年10月19日
 ゲーム事業を主軸としながら、近年はIPプロデュースにも着手している「株式会社アカツキ」が、インドでの事業拡大に挑戦する。2018年から現地の有望な新興企業の数々に出資し、地盤固めを行ってきたが、今年7月には子会社「Akatsuki India Private Limited」を現地に設立し、いよいよ本格的にインド事業に乗り出す構えだ。

 日本のIP展開はいまだ限られているインド。アカツキは、人口13億人を超えるこの魅力的なマーケットを切り拓き、日本の作品が進出するアシスト役となれるのか。インド事業を担当する河村悠生氏(=下写真)に聞いた――。


アカツキ 河村氏.jpg
アカツキ 河村氏


アニメにも投資する

――インドのお話を伺う前に、まずはアカツキの事業について伺えますか。

河村 アカツキは2010年に出来た会社で、ゲームの開発から始まりました。ガラケーからスタートしましたが、スマートフォンアプリとしてのゲームの波が2011年、2012年ぐらいから来たのに合わせ、アプリのゲームに業態を変え、そこからずっと成長してきた会社です。2016年にマザーズに上場し、2017年から東証一部にいます。

――人気IPのスマホゲームを手掛けていますよね。

河村 第3者のIPをお借りし、RPGを作ることを得意としています。その中で、我々もエンターテインメントの会社として、より多くの人に色々なコンテンツ、エンタメを届けたいという思いから、ここ1~2年で、大きくアニメにも投資をしようという話になりました。ゲームとアニメの消費者はオーバーラップが大きく、同じユーザーに対して、今度はアニメというコンテンツを提供していこうと。グローバルを見ても、ネットフリックスがゲームを始めることを発表するなど、映像とゲームはかなり親和性が高いので、我々も同じような土俵で戦っていこうという形になっています。

――ゲームの会社がアニメを製作するケースが増えています。

河村 国内市場をターゲットの中心とする会社が多いですが、アカツキはグローバルで突き抜けることをミッションに掲げています。どこのグローバルか?と言われれば、欧米、中国、東南アジアなど色々ありますが、ゲームに関しては引き続き欧米を中心にやっていきます。一方で、アニメについては「インド」をフォーカスマーケットとして取り組んでいます。


インドは子どもの数が違う

――なぜインドなのですか。

河村 いくつか理由があります。1つは、マーケットがものすごく大きいからです。人口は13億人ですし、アニメを見るであろう子供たちがとても多いのです。いま日本は一学年の人数が約80万人と言われていますが、インドは一学年2500万人もいるんです。オーストラリアと同じ人口が毎年生まれています。日本とはケタが2つ違います。

――30歳未満が大半だそうですね。

河村 人口の半分以上が30歳未満です。非常に若くて、人口ピラミッドも綺麗な形をしています。また、所得も伸びているので、むこう10年、15年で考えれば中国に匹敵すると言われており、この大きな市場が魅力的です。また、インドに進出する2つ目の理由として、日本のコンテンツがほとんど行っていないのです。

――ドラえもん、クレヨンしんちゃん、忍者ハットリくんなどは人気があると聞きますが。

河村 確かに数作品は現地で認知がとれており、国民的な人気になっているものもあります。ただ、実際は日本にたくさんあるコンテンツのほとんどは行っていないですし、まだまだ持っていけるポテンシャルがあると思います。日本の文化が受け入れられる土壌があるのはわかっており、特にキッズ作品には可能性を感じています。
 インドでは、絶対的にコンテンツの数が足りていません。ディズニーや、イギリス発の「ペッパピッグ」など、色々な欧米の子ども向け作品がインドに参入してはいるのですが、なにせ1学年2500万人ほどいるので、コンテンツの供給量が圧倒的に不足しています。みんな何か見たくて仕方ないのですが、見るものがないのです。

――インド国内のコンテンツはないのですか。

河村 まだないです。すぐクオリティの高い作品、特に子供向けのアニメが作れるかというと、やはり時間がかかります。1つ2つメジャーな作品は出てきていますが、まだまだです。

――なぜ日本のIPはインドに進出できていないと考えますか。

河村 優先順位の問題ではないでしょうか。従来は国内市場がターゲットだったと思いますし、海外進出する上でも、適した人材の数は多くはありません。その限られた人材をどの地域に投入するかと言えば、まずはやはり1~2年でマネタイズが見えるアメリカ、ヨーロッパ、中国などに集中するのではないかと思います。インドは色々大変で、我々も1~2年で大きく稼げるとは思っていません。10年ぐらいの時間軸で取り組まなければいけないマーケットです。そう考えると、優先順位は下がると思うのです。ただ、我々がインドに子会社を作る話を日本のIPホルダーにさせて頂くと、皆さんとても喜んでくださいます、インドにポテンシャルは感じていても、社内の事情やリソースの問題で参入できなかったと。そこを日本の会社の我々が「手となり足となりやります」とお伝えすると、皆さん乗り気になってくださいます。

 インドに進出する最後の理由は、アカツキがインドをよく知っているからです。事業を始めたのは今年からですが、インド市場には2018年の夏から入っていまして、まず投資を始めたのです。アカツキは会社の中にファンド(「AETファンド」)を持っており、そのファンドからインドのメディア・エンタメに関わるスタートアップに投資してきました。この3年で20社以上に出資し、エンタメ業界へのネットワークもできましたし、モバイルデバイス上でインドの子供たちや消費者がどういう形でコンテンツを消費しているのか、どういう形でマネタイズしているのかがよくわかっています。

 これらの状況を総合した結果、日本のキッズアニメのコンテンツをインドの子供たちに紹介し、今までのようにテレビで流す方法だけでなく、モバイル上で色々消費できる形で提供できれば、かなり大きくマネタイズができて、その収益を日本のIPホルダーに還元できるのではないかと思います。キッズ向けのIPホルダーは、日本の少子化には頭を悩ませていますし、反対にインドでは子どもの数は多いけど、コンテンツが足りていない。うまく組み合わせれば、お互いウィンウィンになれる状況ですし、その架け橋をアカツキが担えればと思っています。インドの大使館や日本の経産省、インド側の関係機関とも話をすると、日印関係は良好なものの、今まではほとんど製造業での関係性しかなかったため、彼らとしてももうちょっとその幅を広げたいそうです。そのひとつがコンテンツ、ソフト産業。ここで密接な関わり方ができると、さらに日印関係が強くなると。2022年はちょうど日印国交樹立70周年なので、それを機により強い関係値を作りたいそうです。そういう意味では、このビジネスがうまくいけば、民間同士としても、国同士としても、みんなハッピーになれるのではないかと思います。


現地のスタートアップに投資

――インドに進出する足掛かりとして、現地のスタートアップに投資されたとのことですが、そのファンドの規模はどのくらいですか。

河村 発表しているものですと5000万ドルです。50億円強ですね。それを、半分はアメリカ、半分はインドに振り分けています。

――「AET(アカツキ・エンターテイメント・テクノロジー)ファンド」という名称ですが、どのような内容のファンドですか。

河村 立ち上げたのは2017年の終わりで、海外向けの純投資のファンドです。純粋に、ファイナンシャルリターンを稼ぐファンドで、投資先のアメリカとインドのうち、アメリカはアメリカ人の担当者がロサンゼルスでやっており、インドは私が担当しています。先ほど申し上げた通り、インドはマーケットが大きいので、今後大きく経済的なリターンを生めると見込んでいます。これまでに、現地のゲーム会社や、ライブストリーミングを使った会社、メディア系の会社、Eコマースの会社などに投資をしてきました。ファンドだけでもある程度儲かっているのですが、その業務をやる過程で、日本のコンテンツをマネタイズするポテンシャルの高さを感じたのです。私は引き続きファンド業務も続けるので、子会社の事業と二足のわらじを履くことになります。

――インドの投資先を見ると、ゲーム系のほかに、教育系や健康系にも投資されていますね。

河村 はい。特に教育系、エドテック(教育×テクノロジー)に投資をしていまして、まだ発表していませんが、最近投資した数社も全てエドテックです。子供向けのビジネスを行うためにリサーチをしていると、やはり教育系にはポテンシャルがあると思います。投資先の教育系スタートアップは、モバイルデバイスを使い、ビデオやライブストリーミングを使った情操教育、受験勉強などに力を入れており、相当伸びています。インドは勉強ができれば人生一発逆転が可能な国なのです。実際にグーグルやマイクロソフトの代表がインド人であるように、良いロールモデルが世界中におり、自分も勉強して成功すればああいう人間になれると、みんな一生懸命に勉強します。そうすると、親が教育にお金を使うわけです。ということは、ビジネスとしてもちゃんと成り立ちます。そこで、教育系にもかなり力を入れています。

――投資する会社の基準は何ですか。

河村 我々は“アーリーステージ”と呼ばれる、創業して間もない段階で投資をするのですが、その時の判断基準で大事にしているのは、ファウンダー(創業者)の資質です。まだまだ売上がたっていない状況で投資をするので、ファウンダーのバックグラウンドやビジョン、これまでの実績、やろうしている事業とのフィット、そして自分との相性。そのあたりを総合的に判断して、このファウンダーに賭けていいのかということを判断しています。

――成功した投資先はどこですか。

河村 ひとつは「ダウトナット」です。教育系のスタートアップで、教科書や参考書にある問題の解説ビデオを提供しています。最近は日本でも始まっていますが、いまインドの子供たちは、スマホのカメラで問題文を撮り、それをアップロードすると、解法ビデオが送られてくる。これを「ダウトナット」は2~3年前から始めていて、大当たりしています。


続きは、「文化通信ジャーナル2021年10月号」に掲載。

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取材・文 平池由典



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