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『シン・ウルトラマン』後の一手、円谷プロダクション 塚越隆行代表取締役会長兼CEOに聞く

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『シン・ウルトラマン』後の一手、円谷プロダクション 塚越隆行代表取締役会長兼CEOに聞く

2022年07月06日
円谷プロダクション・塚越会長CEO.jpg
塚越会長CEO


 庵野秀明が企画・脚本・総監修、樋口真嗣が監督を務めた映画『シン・ウルトラマン』が5月13日に公開され、大ヒットを記録した。ウルトラマンシリーズの映画はこれまで興収10億円を超えた例が無かったが、今作は公開から4日間であっさりクリア。6月19日時点で38億円を超え、ウルトラマンの人気を新たなステージに引き上げた。

 製作した円谷プロダクションにとって、ターニングポイントとなる作品できっちりと答えを出した意義は非常に大きい。これからウルトラマンシリーズを国内外でダイナミックに展開していく方針の同社にとって、『シン・ウルトラマン』はその皮切りとも言える存在だからだ。

 同作の製作の旗振り役となったのが、塚越隆行代表取締役会長兼CEO(=写真)。2017年8月の入社時(社長就任)から足かけ5年のロングプロジェクトだけに、塚越氏にとっても『シン・ウルトラマン』は肝入りだが、その成功に浮かれることなく、視線はすでにその先を向く。『シン・ウルトラマン』後に、いったい何が始まるのか。円谷プロの次なる一手を聞いた――。


コア、ライト層の双方から高評価

──まずは、『シン・ウルトラマン』の大ヒットについて、感想を伺えますか

塚越 本当に喜んでいます。5年前に庵野さんに相談した際、大人を中心に、より多くの一般の人に見てもらいたいという話から始まったものですから、その目標がかなり達成できているのではないかと思います。一方で、ウルトラマンを大好きな人たちにも楽しんで頂けている。ライトなファンと、コアなファンの双方から良い評価を頂けているのがとても嬉しいです。

──庵野さんに依頼した経緯はどのようなものだったのでしょうか。

塚越 僕が(前職の)ディズニーにいた時に、スタジオジブリの鈴木(敏夫)プロデューサーから庵野さんをご紹介頂きました。そして、庵野さんが監督された『式日』のDVDをディストリビューションさせてもらいました。その時、鈴木さんから「塚ちゃん、絶対将来イイことあるよ」と言われたんです。その後は、ゴルフや食事をご一緒する機会も頂きました。そして、2017年8月に円谷プロに入社した頃に、庵野さんとお話しさせてもらい、その年の11~12月頃に具体的にオファーしました。
 ただ、円谷プロが映画を作るという考えは、僕が入社する前からあり、親会社であるフィールズの代表取締役会長の山本(英俊)さんがいくつか企画をお持ちでした。そんな折に僕が入り、山本さんと相談する中で「庵野さんにお願いしたい」という話になりました。実は山本さんも庵野さんとは親しく、庵野さんとウルトラマンでご一緒するという話は前にもあったそうです。ただ、具体的に進めるとなると、僕のような担当者が必要だったのではないでしょうか。あれから5年経ち、ようやく公開できたというのがこれまでのいきさつです。

──コロナの影響により、公開が1年延期されました。その間もかなりポスプロに時間をかけたそうですね。

塚越 ラッシュを見るたびに面白くなっていきました。特に、最後のラッシュから初号にいたるまでの変化には驚きました。これは庵野さんの力が大きいですね。庵野さんはご多忙なので、当初は「企画・脚本」のみで作品に携わる予定でした。ところが、いたるところで様々な作業に関わってくださり、仕上げもかなりの時間を割いて付き合ってくださいました。そのおかげで、僕が見た最後のラッシュから飛躍的な進化を遂げ、初号がさらに完成度が高まっていました。円谷プロにとって「監修」という言葉はすごく重みのあるクレジットで、庵野さんには総監修というクレジットを作品のエンドにも付けさせてもらいました。

──映画の公式アートワーク書籍「デザインワークス」の中に収録されている庵野さんの手記には、塚越さんが3部作でオファーされたと書かれていました。

塚越 その通りです。内緒のつもりでしたが(笑)、世に出てしまったので、もういいかと思って皆さんにもそうお伝えしています。ただ、庵野さんは他作品も抱えており、大変お忙しい状況だと思うので、まずはしっかりと時間をあけて、彼の創作意欲が沸き上がった時に、改めてお話ししたいと思っています。すでに、元となるアイデア・企画はありますからね。企画当時から現在は世の中も大きく変わってきているので、それも含めて庵野さんと相談しながら、次回作については考えたいと思います。

──庵野さんさえ良ければ、塚越さんとしては進めたい考えですか。

塚越 そうですね。非常に大事なプロジェクトです。

──今回の『シン・ウルトラマン』は、今後のウルトラマンの展開において、どのような位置づけになったと思いますか。

塚越 僕が円谷プロに入った5年前から考えていることが2つあります。1つは、既存のファンの皆さんを裏切らない。もっともっとウルトラマンを愛してくれるお客さんを増やしたい。もう一つは、よりライトなお客さんも含めた、一般の方々に受け入れて頂ける作品群の開発が大事だと思っています。ウルトラマンが持っている力は、さらに多くの皆さんに前向きなメッセージを伝えられるはずです。円谷プロの全ての活動は、この2つのどちらか、または両方を兼ねた意図を持っています。例えば、2年に1回開催しているツブコン(TSUBURAYA CONVENTION)は、ファンの皆さんに深掘りして喜んで頂く企画です。そして今回の『シン・ウルトラマン』の場合は、ライトなファンと、熱心なファンの両方を満足させたい、非常に難しいチャレンジでしたが、庵野さんは実現してくれたと思います。

──この作品を起点に新たな展開が期待できそうです。

塚越 弊社はプロダクションなので、映像を作るのが一つの仕事ですが、ほかに商品部門、イベント部門、オウンドメディア等を持っています。それぞれが有機的に動くことで、お客さんにウルトラマンをより深く身近に感じてもらい、好きになってもらえる会社になりたいと思っています。例えばお子さんなら、テレビでウルトラマンを見て、ソフビ人形で遊んでもらい、夏になればイベントに参加してキャラクターと会って──といったことが一連のエンタメとして楽しんでもらえる世界観にしたいです。そのためには、まずは作品です。『シン・ウルトラマン』のようにオールターゲットでドンと行くものと、セグメント別に狙っていく作品。それがフォーマットによって流れていくという形になると思います。


ネットフリックス映画は超大作

──気になる『シン・ウルトラマン』以降の作品で、ポイントとなるのではどれでしょうか。

塚越 話せる範囲で言いますと、ネットフリックスの長編CGアニメーション映画『Ultraman(原題)』があります。まだ配信開始日は発表していませんが、これはキッズ・ファミリーに向けた作品になると思います。ネットフリックスとILMで制作しており、かなりの高バジェットで展開していきます。日本のIPでこれだけの規模の製作費をかけた作品は、これまでに例がないと思います。

──こういった海外との共同プロジェクトの場合は、作品の方向性はどちらが主導権を持つのですか。

塚越 日本です。IPを持っているというのは本当に強いんです。ただ、海外のクリエイターたちはもちろん自分でやりたいことがありますから、そこはせめぎ合いですね。『Ultraman(原題)』のシャノン・ティンドル監督は非常に優れていて、ヒットしたストップモーション映画『KUBO クボ 二本の弦の秘密』が彼の最初の企画(原案でクレジット)です。お父さんの影響でウルトラマンに造詣が深く、日本のことが大好きです。初めて会った時、彼は「ウルトラマンのラフカディオ・ハーン(※日本文化を世界に広めたギリシャ出身の作家、日本名は小泉八雲)のようになりたい」と言ってきて、よくそんなことを知ってるなと驚いたものです。いまはうちの制作担当と膝詰めで話をしながら進めているところです。


日米からグローバル向け作品

──マーベルコミックスでウルトラマン(「ザ・ライズ・オブ・ウルトラマン」)が連載されていますよね。ウルトラマンの肩にスパイダーマンが乗ったコラボアートも公開されていますが、今後、マーベルスタジオの映画にウルトラマンが登場する可能性はありますか。

塚越 それは絶対にありません。世界観が違いますし、アベンジャーズの一員ではなく、ウルトラマンはウルトラマンであるべきです。もしあるとすれば、ウルトラマンの世界にチラッとマーベルのヒーローが登場する可能性はあるかもしれません。スパイダーマンとのコラボアートは宣伝目的だったので、それならばということでOKを出しました。

──では、北米での展開は、先ほどお話に出たネットフリックスの『Ultraman(原題)』がポイントになってきますね。

塚越 北米に留まらず、グローバルでのキッズ・ファミリー向け展開のスタートがこの作品になると思います。あと、これとは別に、グローバルに展開するオールターゲットの作品も(アメリカ起点で)いま企画中です。
 一方で、日本から発信される作品としては、テレビ東京系で放送され、うちがプロダクションしているTVシリーズがありますよね。これのサイマル配信がグローバルにどんどん広がっていくので、キッズ・ファミリー向け戦略の中心となります。それに合わせて、日本発のオールターゲット向けの作品群も今後世に出てきますが、それが『シン・ウルトラマン』から始まったと思ってください。

続きは、「文化通信ジャーナル2022年7月号」に掲載。

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取材・文 平池由典

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