ネットフリックスがアニメ事業の成長を説明、5年間で視聴時間が3倍に
2025年09月03日
ネットフリックスは8月6日、アニメの取り組みについて一部メディアに説明する「アニメラウンドテーブル」を東京・港区の同社オフィスで開催。コンテンツ部門バイス・プレジデントの坂本和隆氏と、アニメコンテンツ部門ディレクターの山野裕史氏が出席した。
※この記事は「日刊文化通信速報【映画版】」2025年8月22日付で掲載したものです。
ネットフリックスにおける2024年のアニメの総視聴数は10億ビュー(総視聴時間を作品の上映時間で割った数値)を超え、総視聴時間は2019年からの5年間で3倍に急増。会員の50%以上にあたる約3億人がアニメを視聴するようになっている。坂本氏は「アニメは私たちのグローバル戦略の中核を担う最重要カテゴリーとなっている」と話し、「かつてはニッチな存在と思われていたかもしれないが、今や堂々のメインカルチャーとして世界に確固たる地位を築いている」とアニメ人気の拡大を強調。特に米国、ブラジル、メキシコでの成長は目覚ましく、フランスやドイツ、イタリアでも安定した人気を誇っている。さらにアフリカ全土でも関心が着実に高まっており、アジアでも韓国や東南アジア、インド、インドネシアなどで存在感が高まっているという。
坂本氏(左)と山野氏(右)
実際に、同社が7月に発表した2025年上半期の視聴数ランキングでは、「SAKAMOTO DAYS」が日本アニメでは過去最高位の33位(2400万ビュー)を獲得。また、昨年はグローバルの週間トップ10(非英語作品)にアニメ作品が30タイトル、計70回も登場。これはランキングを発表開始した2021年対比で、作品数にして2倍以上、登場回数は4倍におよぶ。「NARUTO」はこれまでの累計視聴数が4800万ビュー、「ONE PIECE」は3000万ビュー、『火垂るの墓』をはじめとしたスタジオジブリ作品も合計4000万ビューを超えるなど、着実に世界中で視聴数を伸ばしている。アニメの視聴数増に伴い、日本コンテンツは非英語圏の作品として世界で2番目に多く視聴されるようになっている。
なぜこれほど日本アニメが世界に浸透したのか。坂本氏が「もともとそういったパワーを持っていたと思う」と話すと、山野氏は「(ネットフリックスによる)正規の流通で、みんなが同じタイミングで、同じ作品を楽しめる環境ができたことも大きかった」とコメント。さらに山野氏はローカライズの効果にも触れ、「よくそこまでやるなと思ったが、吹替や字幕だけでなく、アニメ本編の冒頭に出るタイトルロゴまでローカライズするなど、限りなく視聴のハードルを下げて届けていることで、これまでアニメはキッズ向けと考えていた人や、(普段は)実写を見ている人にも、レコメンドなどを機に良い出会いを作ることができた」と語った。海外の人からは「行間、セリフ、演出、言い回しなどが面白くてアニメを見ているので、こっち(海外)に寄せないで、(日本人が)自分で面白いものを作ってほしい」と言われたエピソードなども披露し、「(視聴や言語の)障壁が下がったことで、(日本アニメの)発見につながったのでは」と分析した。ちなみに、同社では現在アニメ作品を最大33言語で提供しており、米国、ブラジル、メキシコの視聴者は約80%が吹替版を利用しているという。視覚障がいのある人に向けて音声ガイドも作成しており、『火垂るの墓』の日本語版音声ガイドでは安田章大(SUPER EIGHT)がナレーションを務めたことも話題となった。
配信するアニメ作品のラインナップについては「基本的に何かを変えることはなく、(日本でのサービス開始後)この10年間定常的に力を入れてきた」(坂本氏)としつつ、オリジナル作品に関しては「最初の段階ではより多く作っていながら、今の戦略ではより企画段階から選定し、より開発に力を入れて一つ一つフォーカスしながら作っている段階。プライオリティを下げることは一切なく、パートナーシップのスタジオと連携して制作に向き合っている」(坂本氏)と、当初より厳選して作品製作を行っていることを説明した。日本アニメの調達方法にも変化があり、「もともとアニメの調達は各地域のバイヤーがそれぞれ担当していたが、アニメについて知識が深くない人もいたので、ある日を境に(調達は)日本にセントラライズ(一元化)した。アニメのどこが面白いのか、この部分を世界にこう届けたいんだといったメッセージ性も含めて社内に共有することもでき、連携がスムーズに進んだ」(山野氏)と、日本人の感性で選ぶ作品が世界で受け入れられている現状も明かした。
アニメ人気の伸長に伴い、マーチャンダイジングをはじめとした派生ビジネスの拡大も見込む。当初は少人数だったネットフリックスの商品化チームも、現在は世界でスタッフ100人を超える規模に拡大して強化を図る。一例として、同社が海外での独占配信を行う「SAKAMOTO DAYS」は、海外での商品化も同社が手掛けている。元殺し屋のコンビニ(坂本商店)店員を描く同作の設定にちなみ、リアルな空間で「坂本商店」を再現するなど、作品の世界観を深く体験できる取り組みを行ったという。今後もオリジナル作品を中心に商品化に力を入れていく考えだ。
プレゼンの最後に坂本氏は「最近、バラエティの記事で『ネットフリックスはアニメのホームである』というフレーズを目にし、胸が熱くなった。これからはさらに、アニメがメインカルチャーとして広がるように、パートナーの皆さんと共に盛り上げていきたい」と抱負を述べた。
取材 平池由典