閲覧中のページ:トップ > 文化通信バラエティ > エンタメ・トピックス >

『汝、星のごとく』藤井道人監督の手法、東宝・今井翔大プロデューサーに聞く

エンタメ・トピックス

最新記事

『汝、星のごとく』藤井道人監督の手法、東宝・今井翔大プロデューサーに聞く

2026年10月09日
 東宝配給『汝、星のごとく』が10月9日(金)に公開される。横浜流星と広瀬すずのW主演により、15年にもわたる切ない愛と選択の物語が描かれる。3万人に向けて行った完成披露試写では号泣の口コミが続出。初号試写では、原作者の凪良ゆうも涙が止まらなかったという感動作だ。

 メガホンをとったのは藤井道人監督。『余命10年』や『青春18×2 君へと続く道』など、恋愛を題材とした作品でもヒット作を輩出してきた藤井監督だが、集大成とも言える今作は新たな代表作入りを予感させる。東宝の今井翔大プロデューサーに、藤井監督の独創性に富んだ制作手法を聞いた――。


 原作は、凪良ゆうが2022年に発表した同名恋愛小説(講談社文庫刊)だ。シリーズ累計発行部数180万部を突破する人気作で、映像化権のコンペでは10数社が名乗りを挙げる争奪戦となった。刊行直後に読んだという今井氏も、映画化を熱望。「ラブストーリーではありますが、描かれているのは人生の選択についてです。僕自身、もともと医学部でしたが、医者にならずに映画の世界を選んだ人間なので、覚悟を持った選択の尊さを描いたこの作品に背中を押された感覚もありました。これはぜひ映画にしたいと思いました」と原作小説の魅力を語る。ちょうど同じ頃、凪良ゆう原作の映画『流浪の月』に出演経験のある横浜流星も、藤井監督と共に今作の映画化を構想していたことから、タッグを組んでコンペに臨むことに。その結果、激戦を勝ち抜き晴れて映画化権を獲得した。


『汝、星のごとく』の東宝・今井翔大プロデューサー.jpg
東宝の今井翔大プロデューサー


 脚本執筆は、「きのう何食べた?」や連続テレビ小説「おかえりモネ」などを手掛け、2027年の大河ドラマ「逆賊の幕臣」も決まっている安達奈緒子にオファー。今作には女性視点が必要との考えに加え、男女の恋愛はもとより、一筋縄では行かない親子関係といった濃厚な人間関係を映像化するうえでは、安達に託すのが最適と判断。経験豊富な西野智也プロデューサー(東宝)と共に、藤井監督のフィードバックも得ながら、原作の機微を脚本に落とし込んでいった。

 一方で、15年にわたる壮大な物語を2時間前後の映画に収めるのは容易ではなく、相応の工夫が必要となる。ここで藤井監督が大胆な一手を講じたという。「当初は、描くところをしっかり描き、その間は“点描”で描くことを想定して本づくりを進めていました。ところが撮影中に、藤井監督から『点描をやめたい』と提案があったのです」。

 映画における“点描”とは、小さなカットを重ねることで時間の経過を簡潔に描く手法だ。『余命10年』や『ヤクザと家族 The Family』をはじめ、長い年月を描く映画を多数手掛けてきた藤井監督にとって、点描は持ち味の一つでもある。「『汝、星のごとく』は、藤井監督にとって30代最後に撮影する作品になりました。40代から、また監督として一つ上のステージを目指したいという時に、あえて自分の得意技である点描を封じてみたいという考えがあったそうです」。

 監督の新たな挑戦を「すごく面白い」と思ったという今井氏だが、一方で点描による説明を省くことは、原作に比べ余白の多い映画になることを意味する。「これは作り手としては怖いんです。でも、お客さんの想像力に委ねようと。思い切ってそう決断しました」。原作では、17歳で出会った主人公の櫂と暁海の人生が、交互に、数年おきに描かれ、互いの心情や環境の変化が繊細に綴られている。一方の映画では年代を大きくまたぎ、大胆に「三章」に再構築。そして、この三章構成が藤井監督の独創力を加速させることなる。

 「主人公2人が瀬戸内の島で過ごす高校時代を描く第1章は、藤井監督と撮影監督の今村圭祐さんが自主映画を作っていた頃に使用していたデジタル一眼レフカメラの『EOD 7D』で撮影しました。それから時代が変わり、櫂が東京で暮らし成功を収める第2章は、監督のキャリアを支えてきた最新のデジタルカメラである『ALEXA』で撮影。そして最後のパートは、『港のひかり』で木村大作キャメラマンから学んだ35ミリフィルムで撮影しました」。

 約15年前から監督としてのキャリアをスタートさせた藤井監督は、同じく15年の年月を描く『汝、星のごとく』に藤井組の歩みを重ね合わせ、自身が使う機材の変遷を今回の撮影に投影しながら、劇中の時代背景や主人公2人の関係性の変化を巧みに映像に浮かび上がらせたのだ。

 藤井監督の三章構成へのこだわりは“音”にもおよぶ。今作では、第1章を音像をあえて狭くしてステレオライクに、第2章を5・1chサラウンドとしての広がりを表現、第3章は一度アナログ卓に戻しデジタルの音色を和らげることで、音の面でも撮影機材や劇中の世界観と齟齬がないよう徹底した。

 東宝も、藤井監督が存分に力を発揮できるように全面的にバックアップ。35ミリフィルムでの撮影は、製作費をコントロールしながら実現にこぎつけた。今井氏は「インディーズで頭角を現したクリエイターが、メジャー作品を手掛けるようになると、やりたいことがやれなくなったり、商業的な面を無視できなくなるケースも多いと思います。自主制作からインディーズで才能を開花させてきた藤井監督には、今回初めて東宝幹事作品を撮って頂くことになりました。この作品は櫂と暁海が15年間を掛けてクリエイターとしての居場所を見つけていく物語でもあるので、同じように長年走り続けてきた藤井監督・藤井組の居場所になれたらと、できる限り寄り添って制作しました」と伴走しながら走り切った撮影時を振り返る。


原作をリスペクト、撮影時も細かく出版社に確認

 良い作品を作るためにこだわり抜く藤井監督の印象的なエピソードについて、今井氏は「ほかにもたくさんあります」と回想。一例として、原作への強いリスペクトが挙げられるという。「撮影している時も、監督は原作小説をお守りのように常に持ち歩いていました。いざ撮影の瞬間になり、そこで初めてわかることもあるんです。その際に『今すぐ講談社さんに聞いてほしい』と細かく確認するケースが何度もあり、原作への姿勢が本当に素晴らしい方だなと思いました。講談社さんのライツ・編集の皆様には本当に助けられました」。

 そういった原作に対する真摯な姿勢をもって撮影に臨む一方で、キャラクターの表情や感情を最初から単一的にとらえず、俳優から様々な面を引き出そうとするのも藤井監督の特長だ。「これは監督によってスタンスが違うと思いますが。脚本の一行、二行を表現する時に、一つの感情のみを見い出す方と、そこにいくつもの感情を見い出して役者さんの色々な表情を引き出そうとする監督がいますが、藤井監督は間違いなく後者です。違う表情もあり得るんじゃないか、こういう感情の移り変わりもあるんじゃないか、と色々と深く分析しながら撮影されるので、藤井監督の作品は映画としての情報量がものすごく豊かになります。これはキャストやスタッフの努力の結晶でもありますが、とにかく素晴らしいなと思います」。

“情報量の豊かさ”という点では、本編の撮影以外の場面でも藤井組独自のスタイルが垣間見えたという。「この作品は愛媛県の今治で撮影しましたが、その土地の匂いを作品に込めたいという意向で、スタッフが自律的に現地の実景を撮影したりフィールドレコーディングしたりとやっていました」。仕上げの際にきっと必要になるとの想定のもと、ランダムに様々な風景や音を収めた。今井氏は「ものすごい時間、カメラを回しています。もちろん全てを本編に反映することはできないので一部は宣伝に使用させてもらったり…。本当に豊かな映画作りができたなと思います」と充実感を滲ませ、「今治の美しい自然と、藤井組の皆さんの熱い想いがこもった集大成の作品だと思うので、ぜひ多くの方に見て頂けたらと思います」とアピールする。

 完成した作品の評判は上々だ。3万人に向けて行った完成披露試写では、前述の通り多くの観客から号泣の口コミが相次いだという。また、「初号試写に原作者の凪良ゆう先生もいらっしゃったのですが、上映後に先生がなかなか(試写室のある)二階から降りてこられない。どうしたのかな…と思ったのですが、箱ティッシュと共に降りてこられました。ずっと泣かれていたようです。作品に対し厳しい目線をお持ちの先生から高く評価して頂いたのがやはり一番嬉しかったですね」と原作者からのお墨付きも得られており、今井氏も自信を持って世に送り出す考えだ。



 (取材 平池由典)

過去のタイトル一覧

2026年

2月│ 3月│ 4月│ 6月│ 7月│ 9月│ 10月

2025年

3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月

2024年

3月│ 4月│ 6月│ 7月

2023年

2月│ 3月│ 10月

2022年

3月│ 5月│ 7月│ 8月│ 12月

2021年

2月│ 3月│ 10月

2020年

10月│ 11月│ 12月

2019年

2月│ 4月│ 5月│ 7月│ 8月│ 10月│ 11月

2018年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2017年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2016年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2015年

3月│ 4月│ 6月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2014年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月

2013年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2012年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2011年

2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2010年

1月│ 2月│ 4月│ 6月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2009年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月

2008年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2007年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月

2006年

1月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月