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人材育成キーマンに聞く! ndjcスーパーバイザー桝井省志氏

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人材育成キーマンに聞く! ndjcスーパーバイザー桝井省志氏

2010年10月26日
 次の時代を担う映画作家を国を挙げて発掘・育成する「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」。今年5年目を迎え、同プロジェクトを率いるスーパーバイザーは、過去3年務めた(株)オフィス・シロウズ代表・佐々木史朗氏から、(株)アルタミラピクチャーズ代表取締役・桝井省志氏にバトンタッチされた。数々のヒット映画を世に放ってきた名プロデューサーは、どのように人材育成を進めていくのだろうか。話を聞いた――。



ndjcロゴ.JPG「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」とは…

 文化庁から委託を受け、VIPO(映像産業振興機構)が2006年度から毎年企画・実施している。全国の映画・映像スクールや自主映画コンテスト、制作現場などから推薦された有望な若手映画作家から参加者を選出しワークショップを開催。その中から5名の作家に、35ミリフィルム撮影での短編作品制作の場を与え、業界関係者向けに完成作品の上映会を開催している。



桝井省志氏.jpg選考は大変だったけれど面白かった!

――まずは前任の佐々木史朗さんからどんな引き継ぎがあったのか教えてください。

桝井 まあ、あんまり気にせずに自由にやってくださいということでしたね。私も不勉強でわからないことばかりだし、これまでこのプロジェクトを支えてきた皆さんに失礼のないようにしなきゃいけないなということで、色々ご指導くださいとお願いしました。

――今年は全国30団体から計53名の応募があったということですが、選考は大変だったんじゃないですか?

桝井 最初に、応募者全員の過去作品と製作実地研修で制作予定の作品のシナリオを見せてもらって、ワークショップに参加してもらう14名を選びました。ここでどういう方を選ぶかが我々が発信する最初 のメッセージになりますし、応募者は各団体から推薦されてきた選りすぐりの方々ですので、選ぶのは想像以上に大変でした。でも、かなり新鮮で面白かったんです。特に、完成形じゃないシナリオを読むのが面白くって。私たちは、色んな映画祭などで出来上がった作品を見せてもらうことは多々あっても、これから撮ろうとするシナリオを新人の方から見せもらうことって実を言うとないんです。だから、誰を選ぶかという点ではかなり悩みました。神経を使いましたね。

――応募者のレベルはいかがでしたか?

桝井 シナリオに関しては、やっぱり書きなれていないなって人もいれば、ちゃんと学校で勉強されたなっていう人もいました。過去の作品は、(自主制作映画界で)ほぼなんらかの評価をされてきたものですので、それなりのレベルではありました。ただ、内容はバラバラだったので、それらを同一線上で評価するということは難しかったですね。それに、今回の候補者の年齢層は、下は高校生から上は43歳まで非常に幅もあって。そういう意味でバラエティに富んでいました。


ワークショップで人選がらり変わった!

――そうして選ばれた14名が参加したワークショップはどうでしたか?

桝井 「変身」という課題を与えて、予算5万円、撮影期間1週間、編集期間2日間という条件で5分間の作品をで作ってもらったんです。実のところ私はこれ、どれくらいの判断材料になるんだろうと最初は疑問でした。というのは、過去の作品とシナリオとで大方判断をしてしまっていて、もうそれで決めてもいいんじゃないかと思っていたわけです。でも、5分の作品が完成してみると、事前に考えていた人選とずいぶんと変わったんですよ。

――といいますと?

桝井 全員に同じ条件で作業をしてもらうと、単純に同一線上で能力を比較できるようになったわけです。例えば、過去に素晴らしい作品を撮ってきた方であっても、今回のワークショップで実力が発揮できるわけではない。過去作品は、それぞれいろんな条件で撮られているわけで同一に評価できませんし、シナリオからもなかなか見えない部分があったんです。特に、作品を仕上げる段階―編集作業を見せてもらいながら指導したり作家とディスカッションをすることができて、ずいぶんと判断ができるようになりました。これがとても大きかったです。そのため、初期段階での人選から大きな変化がありました。作品の出来不出来というよりもこちらとのキャッチボールに柔軟に対応できる人の評価が高くなることもありました。5分間の作品を作ってもらうというのは、なかなか良いアイデアでしたね。

ワークショップの様子.jpg









――ワークショップで実際に若い人たちと触れ合った率直な感想は?

桝井 そうですね、もっとカルチャーギャップ、世代のギャップを感じるかなと思ったんですが、あまり距離感を感じなかったですね。逆に言うともっとショッキングな人がいるかなと思っていたんですけれど、それほどとんでもない人はいませんでした。1人か2人くらい変なのがいてもよかったかな(笑)。もうちょっと個性的でもよかったかもしれません。



製作実地研修は伸び伸びやらせたい

――ワークショップを経て最終の製作実地研修に進む5名が決まり、現在は撮影に向け脚本指導中だそうですね。

桝井 脚本指導を9月からやっています。11月上旬に5名を正式発表する予定ですが、選ばれたからには、どうぞ伸び伸びと自由にやってください、まず遠慮しないで自分の表現したいものをやってくれとけしかけているところです。今のところVIPO側からの要請は一切なく静観していただいてます。これからは規制が入るかもしれませんが…(笑)。
 
 今後の見通しに関して言えば、ある程度着地点が見えている方もいれば、まだスタートラインの方もいます。脚本指導は選ぶ作業とはまた違う具体的な作業ですから、指導していると「出来上がりはこんな風になるのかな」と思うことはありますが、実際出来上がってくる作品はそうはならない。そのギャップがおもしろいところなんです。来年1月の完成に向け、早い方は11月に撮影に入ります。遅い方だと来年1月にイン。今は進行状況もバラバラですね。

ワークショップの様子.jpg
――商業映画の開発と似たような感覚ですか?

桝井 いいえ、それは違います。商業作品とは違う次元のものです。ndjcに関しては作家を育成するのがテーマで、製作資金を回収するという心配はだれもしなくていいわけですからね。こんな恵まれた条件はないわけで、まずはこのプロジェクトを若い人に思う存分使っていただきたいと思います。なおかつ、できあがった作品がこれもう商業作品としていけるじゃないのとなってくれるのが理想ですね。

――とはいえ、ここで作った作品がプロへのステップになることも期待されていますよね?

桝井 まあ、現時点でプロとしてどうだということはないと思います。ただ、自分たちのやりたいものを作ってきた人たちの前に、初めてプロデューサーめいた人が出てきてああだこうだと無責任に言われるわけですよね(笑)。そこが最初の体験です。将来的にプロになるとプロデューサーと一緒に映画を作っていかないといけないわけで、現段階で監督としてプロデューサーとキャッチボールするということに意味があります。その上でどういうものが出来上がってくるのか体験できる。一作家として扱われてやりとりする経験は皆さん初めてだと思いますので、その戸惑いも含めてプロにつながる重要な経験かと思います。


※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。


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