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大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.8

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大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.8

2010年11月30日

◎3D映画は、果たして映画人口増加に寄与しているのか

 
今年は、3D映画の年であった。興行実績を見ると、はっきりとそのことがうかがえる。今のところ(11月末)、邦画と洋画を合わせた作品別の興収上位は、「アバター」(155億円)、「アリス イン ワンダーランド」(117億円)、「トイ・ストーリー3」(107億円)、「借りぐらしのアリエッティ」(推定93億円)、「THE LAST MESSAGE 海猿」(81~82億円)となっており、3D映画はこの5作品のうち4作品を占める。洋画だけを見れば、何と上位5作品はすべて3D映画となっている。

 入場料金の高いこのような3D映画の隆盛が、今年の年間興収が2100億円から2200億円前後となるとの見通しの背景にある。昨年は年間興収が2060億円だったから、今年が2200億円とするなら、今のところほぼ7%前後のアップが見込まれるわけだ。では、その効果はいったいどの程度あったのか。

 先に挙げた3D映画4本に、洋画4位の「カールじいさんの空飛ぶ家」(50億円)、5位の「バイオハザードⅣ」(48億円)、さらに「タイタンの戦い」(15億7千万円)、「怪盗グルーの月泥棒 3D」(推定11億円)を加えた計8本の3D映画の総興収は、585億7千万円。たとえば「~海猿」は、3D版の興収シェアが全体の73・8%である。他の3D映画はもっと3D版のシェアが高いから、だいたいその率を80%ほどとすると、3D映画トップ成績8本の3D版の興収は、468億6千万円前後ということになる。

 さて、3D映画の入場料金は、通常より300円ほど高い。先の「~海猿」は、3D版の平均単価が1600円ほど。他の3D映画ではデータが出ていない作品もあるので、これを3D版の全体の平均単価とすると、アップ分の300円は、1600円の18・8%にあたる。つまり、468億6千万円の18・8%、88億1千万円が3D版におけるアップ分の総興収となるのである。

 まことに大雑把ではあるが、この88億1千万円という数字が、3D映画の料金アップ分の“上乗せ“興収であると見ていい。もちろん、先に挙げた8本の3D映画の他にも、何本かの3D映画はあったから、その興収はさらにアップするが、大枠で3D映画の入場料金アップ分の効果は、以上の数字に集約できる。

 つまり、もし今年の年間興収を2150億円程度とすると、そこから88億1千万円を差し引けば、2061億9千万円。2200億円程度とすると、差し引き2111億9千万円ということになり、伸び率は昨年からそれほど大きなものではないということになってしまう。興収が伸びたと言っても、これでは本来増加しなければならない映画人口の面では、昨年とあまり大差ないことになってしまうのである。見かけだけの数字にとらわれてはいけない。3D映画、及びその興行に関しては、さらに緻密な分析が必要たる所以である。
                                                        (大高宏雄)



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