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インタビュー:「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」阿部秀司 エグゼクティブプロデューサー

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インタビュー:「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」阿部秀司 エグゼクティブプロデューサー

2011年11月28日

震災の翌日クランクイン

「RAILWAYS2」場面写真.jpg──富山が舞台で、北アルプスの風景が非常にきれいでした。

阿部 すごいですね。実は富山は天災とか災害がない県なのです。立山によって遮られるため台風がこないし、地震も少ないのです。

──震災直後の3月12日にクランクインしたと聞きました。普通だと撮影に入らないかと思うのですが、それを敢えて撮影に入ったわけですね。

阿部 敢えてといいますか、本当に相当悩みました。3月11日の午前中に富山でお祓いをやっているわけです。それまでの日本と、3月11日の14時46分以降の日本はガラッと変わったくらいで、その直前にお祓いをして成功祈願を行った午後に大変なことになるわけでしょう。三浦(友和)さんも来いて、夜2人で「どうしよう!?」と話し合いましたね。中止するという判断もありますし、このまま予定通り撮入するという判断もあり、どこで線引きしていくのかという、本当に考えました。ただ、ビジネスをやっている立場上、全てセット・アップして準備が整っている中で中止するのはすごい勇気が必要ですし、撮影に入るのもやはり勇気がいることなのです。三浦さんと話し合って、今僕たちは何をすればいいのか、やめて東京に帰って何をするのか、みんなで被災地に行くのか等々……いろいろ出たのですが結果、自分たちで働くこと、仕事をまっとうすることが、(被災した人たちに)役立つことになるんじゃないかという結論で合意したのです。その夜は、本当にすごく悩みました……。

──では予定通り撮入したのですね。

阿部 ほぼ予定通りですね。翌日にはクランクインしましたからね。ただ、富山は幸いなことに何の被害もなかったのですが、単一乾電池がどこに行ってもまったくなかったのには驚きましたが、それ以外の米とか水とか何一つ不自由なことはなく、つまりテレビというモニターさえ見なければ、普段と何も変わらない状況がそこにあることがちょっと唖然としました。唖然とはしましたけども、その中で本当に粛々と進めていけて、よかったと思います。ただ、1週間クランクインが延びていたら、たぶん三浦さんはやらなかったと思っています。

──翌日だったからよかったのでしょう。

阿部秀司氏(3).jpg阿部 そうですね。翌日だったから全部リハーサルも終えて、セット・アップもできている中で、ここでやめるのはどうかという。しかし、すぐ被災地に駆けつけて、俺たちもやるんだと三浦さんが行っていたら、僕には止められないですし、撮影は延期になっていたでしょう。でも、何もしないのであれば、自分たちの仕事をするべきだと自分には言い聞かせました。

──三浦さんは、主演俳優というだけでなく、阿部さんと一緒に企画を進めていたのですか。

阿部 ええ、進めていました。三浦さんありきの企画なのです。三浦さんの次男・貴大くんが前作でデビューしましたが、次はオヤジでいくかという話ではないのです。三浦さんとはもう30年来のつき合いで、もともとコマーシャルで出会い、「ALWAYS 三丁目の夕日」(’05)にも出演していただき、仲がよくて次は何かやりたいねという話は以前からしていたのです。今回は本当にいいテーマだったので、自分の中ではもう三浦友和さんしかいませんでした。「やる?」とオファーしたら、ぜひやりたいということで、初めから脚本作りも一緒にやり、彼のアイデアもずい分取り入れましたね。

──余貴美子さん他のキャスティングも、速い段階で決めていたのですか。

阿部 これは三浦さんを軸に考えていましたので、奥さん役は誰がいいのか、誰が一番ぴったりくるのか三浦さんと相談して互いに余さんがいいねと決めましたし、他のキャストも話し合いながら決めていきました。ただ、三浦さんの先輩運転士の米倉(斉加年)さんだけは、僕的には初めから決めていました。

──岩松了さんも先輩運転士役で出演していますね。

阿部 そうなんです。岩松さんとはもう昔から友達で、直接本人に電話して出てもらったのです。すごくよかったですよね。あと、富山県出身の立川志の輔さんと西村(雅彦)さんにも出演いただきました。前作でも島根県出身の佐野史郎さんに出演してもらいましたが、やはり地元に盛り上がってほしいですからね、街を歩くと元気がないのがわかるわけです。映画館が駅前にないとか、シャッター通りが多いとか、等々……。もう少し地方が盛り上がらないとダメだと思います。「RAILWAYS」を作って全国に発信することで観光が盛んになれば。映画はそういう力があると思うし、今回は富山県はもちろん応援してくれましたが、トラム(路面電車)を導入するなど新しいアイデアで勢いのある、富山市の森(雅志)市長が特に応援してくれ、製作費も出してくれました。地方自治体が製作委員会に参加するという、非常に稀有なことです。

──富山市が出資したのですか。

阿部 そうなんです。出資していただきました。(地方自治体としては)初めてなんです。

──どのくらいの出資額ですか。

阿部 それは言えないです。小さい額ではないです。と言ってものすごく大きい額でもないです。僕は市長に会って製作委員会に入って製作費を出資してくれるよう依頼しました。「わかりました。議会に通します」「それは儲かったら返って来ることがあるんですよね」と言われたので、「もちろんです」「だったら問題はないでしょう」と自治省にかけ合って富山県から資金は出してもらっています。これはなかなか映画としてはなかったことです。

──助成とは違うわけですね。

阿部 そうなんです。助成ではないのです。製作委員会に入っています。


富山で映画を応援する会

──富山では11月19日(土)からTOHOシネマズファボーレ、TOHOシネマズ高岡、富山シアター大都会で2週間先行上映されますが、地元での興行を成功させるために「映画を成功させる会」といった組織は作られていないのですか

阿部 あります。「映画『RAILWAYS〜愛を伝えられない大人たちへ』を応援する会」が発足しています。

──代表は誰なのですか。

阿部 石井富山県知事に名誉顧問をつとめていただいています。私を含めて約1000人以上の会員がいて、私も名刺を作って地道にいろんな所でキャンペーンを独自にやっています。

──「応援する会」では、前売券の販売もやっているんですね。

阿部 やっています。「応援する会」をはじめ富山地方鉄道さんや銀行さんなどいろいろな地元の企業や団体に応援してもらっています。前作では興収の約1割を島根県で稼いでいるんですが、今回は富山で1割といわず2割ぐらいできるだけたくさんの人に見てもらいたいと思います。

──島根は県全体の人口が約70万人でしたが、富山はどのくらいですか。

阿部 富山は約110万人なんです。富山市(約42万人)、高岡市(約18万人)という、大きな2つの都市がありますからね。全国の1割以上は期待しています。富山は普段から映画を見てくださる映画県なんです。

──興収はどの位を目標にしているんですか。

「RAILWAYS2」(4).jpg阿部 ズバリ僕は「武士の家計簿」(興収14億5千万円)と言っています。

──松竹(アスミックエース共同)配給で昨年12月公開と同じですからね。

阿部 そうですね。また、「60歳のラブレター」は10億円近い興収を上げており、このマーケットは絶対にあると思っています。

──試写の評判はどうですか。

阿部 いいと聞いていますし、実際に試写の会場が本当に最初の第1回からしっかりと埋まっていて、みなさん期待をしていただいていることと、前作を見てくださった方が今作も見て、「よかったね」と言って帰っていただけるのが、すごくうれしいなと思っています。主演の三浦さんを含め、キャスティングもいいですし、…特に前作よりよかったという声が聞ければ、我々としては作った甲斐があります。


第3弾は本作の興行結果次第

──今回興行的に成功すればということでしょうが、第3弾の製作も考えているのですか。

阿部 はい、もちろんそのつもりでやっています。

──舞台となる場所(鉄道会社)とは交渉しているんですか。

阿部 いろんな所がやって欲しいと言って来ているという話は聞きますね。

──琴電(高松琴平電気鉄道)からも来ているようですね。

阿部 いろいろ来ているようですが、あくまで第2弾の興行結果次第です。夫婦をベースにした話かどうかもわからないし、その地域を元気づけるという使命もあるし、これまで2本は運転士を主人公にして来ましたが、いろんなパターンがあります。ただ僕が言いたいのは、富山にしても島根にしても一過性のお祭にだけはしてほしくないということです。これを財産に、自分たちの資源を再利用して発展させてもらえれば。せっかく起爆剤として映画を作ったわけですから、地元の努力でこれを有効に使ってもらいたいです。いま富山地方鉄道の社長にも話をしているのですが、観光列車というポジションがあるんじゃないかと。いまは通勤電車でいっぱいなんですが、富山地方鉄道の営業距離は100キロぐらいあるのです。

──富山から宇奈月温泉まで行っていますね。

阿部秀司氏(2).jpg阿部 宇奈月温泉まで行く線と途中で立山に行く線と二つの路線があります。そこを3両ぐらいで、真ん中の食堂車でゆっくり酒を飲んで食事を楽しみながら、黒部立山アルペンルートという日本で最も雄大な景色を見るというイベント列車を走らせたらという提案を社長にはしています。土日でいいから特別な列車を運行するとか、富山には資源がいろいろあり、それらを活かして活性化してほしいです。

──この作品以降、来年の1月にかけて阿部さんがエグゼクティブ・プロデューサーを手掛けられた作品が数本並んでいますね。

阿部 「friends もののけ島のナキ」(監督山崎貴、八木竜一/3DCGアニメ/東宝配給/11年12月17日公開)「ワイルド7」(監督羽住英一郎/瑛太主演/WB配給/11年12月21日公開)「ALWAYS 三丁目の夕日’64」(監督山崎貴/吉岡秀隆主演/12年1月21日公開)を含め4本です。たまたま並んでしまったのです。

──製作している時期は違いますか。

阿部 時期は「ワイルド7」と「RAILWAYS」がほぼ同時期で、「ALWAYS」が今年の1月から入っていたので、3本の撮影現場がほぼ同時に動いていました。

──以前お会いした時(文化通信ジャーナル2010年6月号インタビュー)に、新作としていろいろあるようなお話をされていましたが、決まる直前だったのですね。

阿部 あのころは直前だったと思います。

──昨年3月でROBOTの代表取締役社長を退任し、7月に「(株)阿部秀司事務所」(本社:東京・渋谷/資本金:1千万円)を設立されたわけですが、スタッフはどのくらいですか。

阿部 僕を含めて3人です。個人事業所ですからね。

──業務は映画の企画・開発ですか。

阿部 そうですね。企画・製作になります。プロダクションとは組みますが、ROBOTが多いです。

──ROBOTに企画・提案してROBOTが製作するということですか。

阿部 企画・提案というのか、企画が決まってROBOTにプロダクションをお願いするという。山崎貴作品はその形式で製作しましたし、ほかの企画を今何本か進めていますが、決まったらROBOTにお願いしようと思っています。次回作で2〜3本動いていますが、小さい所帯なので、年2本ぐらいは作っていければいいなと思っています。(了)



阿部秀司氏(4).jpg阿部 秀司(あべ しゅうじ)氏略歴

 株式会社阿部秀司事務所 代表取締役・プロデューサー/株式会社ロボット 創業者・顧問

 1949年、東京都出身。1974年第一企画株式会社入社。CMプロデューサー、クリエーティブディレクターを経て、1986年株式会社ロボット設立。クリエーティブディレクターとして日本たばこ産業「CABIN」等多くのCMを手掛ける。1993年映画部を併設し『Love Letter』、『ジュブナイル』、『Returner』等を製作。『ALWAYS三丁目の夕日』で第25回藤本賞・特別賞受賞。その後も『ALWAYS続・三丁目の夕日』、『K-20怪人二十面相・伝』、『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』、『friends もののけ島のナキ』『ワイルド7』、『ALWAYS三丁目の夕日’64』等でエグゼクティブプロデューサーを務める。2010年3月同社を退社、創業者・顧問就任、7月株式会社阿部秀司事務所設立。

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