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TIFF、椎名保ディレクター・ジェネラルが運営方針語る

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TIFF、椎名保ディレクター・ジェネラルが運営方針語る

2013年05月01日
迫本・島谷・椎名の“3S”体制で映画祭原点回帰!

椎名DG&井原.JPG

 東京国際映画祭(TIFF)のディレクター・ジェネラル(DG)に、角川書店取締役相談役の椎名保氏が、4月1日付で就任した。
 就任早々の4月23日、新しい体制での映画祭運営などについて、業界紙各社を招いて自らの言葉で説明。進行は、事務局次長で映画祭事業部宣伝広報グループ 統括プロデューサーの井原敦哉氏が務めた。
 椎名DGは、TIFFの何を継承し、どこを改革して、どのような国際映画祭を目指しているのか―。果たして、TIFFはアジアはもちろん、世界から真に認められる映画祭となることが出来るのか、椎名DGの言葉に迫る!




TIFFが“映画興行の起爆剤に”

椎名DG.JPG 椎名DGはまず、“ディレクター・ジェネラル”という肩書について、
「東京国際映画祭の実行委員会委員長に東宝の島谷(能成)社長、その上部組織であるユニジャパンの代表理事・理事長に松竹の迫本(淳一)社長が就任(4月1日付)した。そこで迫本、島谷、椎名で“3S”(スリー・エス)と呼び、3人でやっていこうという中で私のポジショニングを考えた。TIFFは既にディレクター制というのを敷いているので、各部門のディレクターたちを統括するという意味で決めた」と説明した。
 因みに、TIFF第1回から第3回まではフェスティバル・ディレクターという肩書が使われていた。昨年25回を終え、新たな25年に向け映画祭として原点回帰する意味もあるという。椎名氏は8代目の映画祭の顔となる。

 前回までは土曜日をオープニングとし、9日目の日曜日をクロージングとしていたが、今年の第26回は10月17日(木)をオープニング、25日(金)をクロージングとした。
 他の主要な国際映画祭が平日開幕ということと、オープニングとクロージングの間にもう一つ“山”を作りたいとの意向から決定したという。
 翌日の金曜日にオープニングの記事が露出し、続く土日に大きなイベントをさらに実施することで、週明けに各媒体に取り上げられることを狙う。

 また、椎名DGは配給会社出身ということもあり、この映画祭を興行につなげたいとする。
「映画興行の起爆剤になればとの思いから、木曜日のオープニング作品が次の金曜か土曜日に全国公開されることになればいい」とし、クロージング作品も同様で、「TIFFを起点とし、新作映画の最終的なイベントとして利用して欲しい」とする。

 さらに、昨年から会場をお台場に移した併設のマーケット、TIFFCOM(10/22~24)開催についても、「今年で10回目を迎えるが、映画祭とマーケットは両輪」と位置付けて取り組むとした。


「作品重視の映画祭」、4つの戦略

 第26回の映画祭のコンセプトは、「作品重視の映画祭」。映画祭本来の魅力である作品のクオリティーをより一層追求し、世界に誇れる良質な作品を、東京で楽しめる“作品重視”の映画祭」としている。

戦略として、
①国内外へ向けた映画の情報発信基地
「アジアでトップの映画祭として、世界中から集まる優れた映画を国内外へ紹介し、日本を中心としたアジアの才能を海外へ発信していく基地としての役目を担う」

②クリエイターに陽を当て、世界へ羽ばたくステージを作る
「次世代を担う人材を積極的に紹介し、各国際映画祭との連携を深めることで、新たな才能が世界へと羽ばたいていくステージを創り出す」

③若い映画ファン層の創出
「若者が支持するコンテンツ、魅力的なイベントを通じて、日本の映画業界にとって大きなテーマである未来の映画ファン創出へ本格的に取り組む」

④誰もが参加できる国際映画祭
「新たな作品部門を創設し、国内外の映画業界人や関係者、映画ファンのみならず、誰もが開催を心待ちにする映画祭を目指す」

と上記4つを掲げた。

 椎名DGは、「今年1月に『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』でアン・リー監督が来日した時にDGに就任すると挨拶したら、彼から『まだ東京国際映画祭は、若い人を応援しているのか?』と聞かれ、ああいうインディペンデントから出て来て、メジャースタジオの作品を手掛けるようになった監督が、若い人たちを応援するということに対して関心があるんだということが印象的だった。ちょうどその時にこれからのTIFFをどうするか考えていた時だったので、そういえばTIFFには『ヤングシネマ部門』というのが過去にあって、若い人に焦点を合わせて、その人を育てていこうというのが映画祭の原点だと思った」とした。

井原氏.JPG 第10回まであった「ヤングシネマ部門」のようなものを復活させ、「日本の映画と若いクリエイターに陽を当てて、TIFFから海外へ出ていくための道筋も作りたい。若い感性で今の日本をきっちりと捉えて、若者のライフスタイルやサブカルチャーというものを海外へ発信していくことが大事だと思っている。もちろん今までもそういったことをやってきたが、それをもっとはっきりとわかる形でやれたら素晴らしい。世界にある映画祭とのネットワークとつながって、自動的にTIFFから海外映画祭へ出ていく道筋というのを作りたい」と熱い思いを明かした。

 そして、「よく言われたのは、10月上旬には釜山国際映画祭あり、中国の北京、上海の国際映画祭も活発になる中で、TIFFはどうしていくのかと。そんな時でも、TIFFは『アジアの風』という部門があって、良い作品をやっていたよと言われ、アジア映画というのは日本映画以上かもしれないが、日本を含むアジア映画というものをしっかりと押し出していきたいと思っている」とした。


必ずチェックしなければならない映画祭に

 そうしていくことでTIFFは、「必ずチェックしなければならない国際映画祭、アジアと言えばTIFFだと言われるような映画祭を目指したい」と抱負を述べ、「そういうことを考えていったら最終的に当たり前の『作品重視』ということで、世界に誇れる映画祭になっていくのではないか」としている。

 また、「今の映画興行においても10代、20代をどう動員するかというのが業界全体の問題だが、映画祭としてもそこは考えていかなければならないと思った。未来の映画ファンを育てるというのは、難しいことではなくて、誰でも参加できるように、敷居が高ければ低くして、気楽に映画祭を楽しんでもらえるような取り組みは考えていきたい」と、これからの映画祭への思い、考えを語った。



【Q&A】

Q 各部門のディレクターは継続させるのか。

椎名DG そのままで、そのディレクター陣を私が統括する形をとっていくということ。

Q グリーンカーペットに続けるのか。

椎名DG 継続する。いろいろな意見はあったようだが、せっかくエコということで5年間やってきたので、今さら変える必要もないと判断した。

Q 今年の映画祭の予算は。

椎名DG 厳しい。昨年対比でいうと、かなり下がる状況。今この時期(4月)であれば『アベノミクス』効果で(景気も)良くなる印象だが、スポンサーも大体2~3年で変わっている。昨年10月の開催時は(景気も)厳しく、今年まで通りか、減額するという話になった。これまでのパートナー企業からの額が減ることになりそう。そこがいま悩みの種。

Q 新たに開拓していくのか。

椎名DG だから3S、迫本さん、島谷さんと私で、いろんな所に挨拶に行って継続や新規開拓をお願いしているところ。とても私一人ではできない。続いてきたTOYOTAさんは、依田(巽)前チェアマンが相当頑張ってやってもらっていた。いま円換算すると、賞金の額も昨年より20%くらいアップしてしまいそうだ。

Q コンペティション部門の日本映画の枠は引き続き2本か。

椎名DG 例年通りで、特に大きく変える(増やす)予定はない。

Q 公的な助成と民間から協賛金の比率は。

椎名DG 民間からの方が多かった。角川(歴彦)さん、依田さんがかなり動いて支援を頂いていたが、昨年、一昨年あたりは厳しい状況だった。
 いま経産省が、日本のコンテンツを応援しようということで「ジャパン・コンテンツ ローカライズ&プロモーション支援 助成金」の募集をやっている。そこに期待しているところもあるが、これは海外への発信の支援というものなので、それよりもまずは映画祭に支援して欲しいという話はしている。

Q 角川氏が映画祭を応援するのか。

椎名DG 私は角川書店の人間なので、角川さんのサポートなくしては出来ない。

Q サクラグランプリ作品が、国内でなかなか劇場で観られない。何らかの形で上映の応援をできないのか。

椎名DG TIFFで賞に絡んだ作品の露出度を増やすということは必要だし、もっとアイデアを出して欲しいと思っている。どうやるのか―、いま本屋大賞などを受賞すると本が売れている。映画においても考えなければいけない。すでに映画館で働いている人たちが選ぶ賞(「日本シアタースタッフ映画祭」)もあるが、もっとやり方、打ち出し方が必要。観客賞を獲ったものをもっと推すとか、それで終わらせたらもったいない。

Q 毎年開催会場については問題になるが。

椎名DG 今年は六本木でやるが、やはりメイン会場がないよねと言われる。といって東京以外のところに移すのか。東京でどこにすればいいのか、課題の一つだ。

Q 東京都と全面タイアップのような形で出来ないのか。

椎名DG 東京都知事が猪瀬(直樹)さんに変わったので期待している。今年1月早々に、映連(一般社団法人 日本映画製作者連盟)4社(松竹、東宝、東映、角川書店)の方たちと挨拶に行って、お願いしてきた。今はオリンピック誘致に取り組んで忙しいが、4年間都知事をやるから映画についても協力すると言って頂いた。
 
 東京国際映画祭の関係者は、東京に国際映画祭を持ってこようと一生懸命やって実現してきた映画祭。自分自身も実行委員会に入って十何年とやってきたが、どこか自分自身冷めていた。映画祭があるということにおいて、誰かやってくれるだろうという気持ちが強かった。私と同じように思っている人たちが映画関係者の中にもいた。
北京映画祭も第3回を迎え、北京が国際映画祭として認めてもらおうと一生懸命国際映連に働きかけている。国際映連が認めたものが世界に14もあるのだから、一年12か月のうち14もあると必ずどこかがぶつかる。
 東京国際映画祭が弱体化し、もし公認から外れたらすぐに北京が入ってくる。冷めていた自分がいましたから、あまり人のこと言える立場ではないが、是非、業界紙の皆さんに協力してもらい、私を祭り上げたて頂き(笑)、盛り上げていって欲しい。

Q 映画業界は今まで一丸となって協力してきたのか。ちょっと無関心な人たちも多かったように思うが、これまでとこれからで変化はあるのか。

椎名DG 少なくても映連の4社、(東映社長の)岡田裕介さんも実行委員の中には残ってもらっていますから、それとMPA、外配協、インディペンデントも実行委員会のメンバーになっている。
 実行委員会というのは限られた時間で、トップしかいないからあまり建設的な意見も実は出てこないので、今度は実務部隊が分科会というのを設けて、さらにいろいろと詰めようということにしている。単なる名前だけの実行委員ではなく、アクションを起こせるような状況、この映画祭を映画業界としてやらなければいけないんだという状況作りをしていきたい。
 後は、テレビ局も全部入って頂く。今はテレビ局抜きにしては映画は考えられないから、それで盛り上げていく体制を作っていく。椎名だけでは頼りないと、みんなでやらないという状況を作りたい。

Q DGが目指すものは。

椎名DG 例えば、TIFFのコンペで賞を獲った作品が、アメリカのアカデミー賞の外国語映画賞に選ばれるようになりたい。これはまだ夢ですが、そうならないといけない。カンヌ国際映画祭は、昨年『愛、アムール』がパルムドール賞(最高賞)を獲って、アカデミー賞でも外国語映画賞を受賞した。どこかでそういうことになってこないと映画祭としてTIFFも注目されない。
 私はラッキーでひとつ弾みが付けばと思っている。各部門のディレクターたちは真面目に多くの作品を観てやってきているから、それがいつか花開く時があると思う。一昨年グランプリを受賞した『最強のふたり』が国内でもヒットしたことで、配給会社もTIFFもチェックしなければいけないようになった。きっかけは「TIFF」というようにならないといけない。


 これまで映画業界全体が一致団結、協力し切れない部分もあったようだが、“3S”体制の下で新しく生まれ変わることが出来るのか、椎名DGの指揮によって始動したTIFFに注目したい。(了)



椎名保(しいな・やすし) 略歴 

1951年東京生まれ。74年3月早稲田大学理工学部卒業。
同年4月住友商事株式会社入社。87年同社映像メディア事業部参事。91年株式会社アスミック(現アスミック・エース株式会社)取締役映像事業本部長。98年アスミック・エース エンタテインメント株式会社 (現アスミック・エース株式会社) 代表取締役専務を経て、2000年同社代表取締役社長就任。
04年 株式会社角川エンタテインメント代表取締役社長就任。09年角川映画株式会社代表取締役社長就任。11年株式会社角川書店代表取締役専務を経て、現在は同社取締役相談役を務める。
公職は外国映画通関連絡協議会会長、一般社団法人日本映画製作者連盟参与、一般社団法人外国映画輸入配給協会 副会長、一般社団法人映画産業団体連合会顧問など多数。



(文・構成:和田隆)



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