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清水 節のメディア・シンクタンク【Vol.6】

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清水 節のメディア・シンクタンク【Vol.6】

2014年04月14日
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制約を味方につけ、時代の先を読んだ“円谷英二の仕事術”~Eテレ「知恵泉」出演記

 海の向こうから咆吼が聞こえてくる。『GODZILLA』の最新予告篇には、第1作『ゴジラ』(1954)誕生の原点を再認識させつつ、現代日本をも照らし出す衝撃映像が含まれていた。ハリウッドで2度もリメイクされるほど、世界に影響を与えた怪獣映画誕生から60年。全国4会場を巡回する企画展「円谷英二 特撮の軌跡展」が開催され、名画座ではゴジラシリーズをはじめとする特撮映画のリバイバル上映が編成されて賑わうなど、わが国が独自に発達させてきたカルチャー「特撮」の魅力に改めて視線が注がれている。

 NHK Eテレは意外な角度から特撮に光を当てる。ビジネスマンを中心にじわじわと人気を拡げている番組「先人たちの底力 ~知恵泉(ちえいず)」をご存知だろうか。組織や社会で直面する課題の解決のヒントを、歴史上の人物の人生から探る、いわば“歴史教養トークバラエティ”だ。舞台は、低音の魅力を効かせた井上二郎NHKアナが“店主”に扮する歴史酒場「知恵泉」。カウンター席にはタレントの“常連客”。そこに訪れる“仕事人”と“専門家”。先人の知恵と行動を酒の肴に、仕事人が自らの半生に重ね合わせ、専門家が補足しながら、熱く語り合うという趣向である。昨年25分枠でスタートしたこの番組は、この春から45分枠に拡大された。

 これまで、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康、宮本武蔵、勝海舟、伊能忠敬、平賀源内…近現代では夏目漱石、松下幸之助らの人生を検証してきた歴史酒場が、【特撮の神様・円谷英二】を取り上げることになり、[仕事人:プラネタリウムクリエイター大平貴之×常連客:特撮マニアのドランクドラゴン塚地武雅×専門家:清水 節]という布陣が組まれた。酒場の主役は仕事人。高校時代から独力で開発を始め、2200万個もの星を映し出す「メガスター」を生み出してイノベーションを起こした大平が、円谷の知恵を読み解く。元・五島プラネタリウム星の会会員でもある筆者としては、思わず星空投影機にも話の花を咲かせてしまったが、まあその辺りは、おそらくカットされることだろう。むしろ僕は、構成やナレーション、VTRの中の映画史や事実関係に協力させて戴いた裏方の一人といえるかもしれない。

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      円谷英二(1901~1970)             NHK Eテレ「先人たちの底力~知恵泉(ちえいず)」
                         『制約を最大効果に変えろ! 円谷英二』に出演中の大平貴之(プラネタリウムクリエイター)、
                            塚地武雅(ドランクドラゴン)、清水節(筆者)、バルタン星人 (C)円谷プロ

 怪獣や巨大ヒーローの生みの親として知られる特技監督・円谷英二(1901~1970)だが、68年の生涯のうち、『ゴジラ』公開時は53歳、『ウルトラマン』放送時は65歳。遅咲きというよりも、時代がようやく円谷に追いついたのだ。以下、番組のサブ・テキストとしてお読み戴こう。円谷の生涯は、科学技術が人間にもたらす「夢」の追求に貫かれていた。福島県須賀川に生まれた円谷は、ライト兄弟の初飛行から間もない少年時代、飛行機乗りに憧れた。上京して飛行学校に入学するが、1機しかない飛行機は墜落して教官が亡くなり、あえなく挫折。メカへの造詣の深さと創意工夫を活かし、玩具などの考案に携わるある日、花見の席でケンカを仲裁した縁で出会ったのが、映画人・枝正義郎だった。欧米事情にも精通した進歩的なキャメラマン枝正に誘われ、1919年、円谷は18歳で映画界入り。明治後期から浸透していった映画は見世物を脱し、より高度なアートやエンターテインメントとして発展する時期に差しかかっていた。

 半世紀に及ぶ円谷の映画人生は波瀾万丈だった。ドイツの表現主義に世界が瞠目し、ロシアやアメリカで発達したモンタージュ理論が映画話法を進化させた時代。円谷はキャメラマンとして一本立ちした後も、新感覚派を名乗る衣笠貞之助監督のアバンギャルド作品『狂った一頁』(1926)に撮影助手として参加し、多重露光や合成を芸術的な表現の域に高めた。野心は仇にもなった。スターは明るく写せばいいという通念に反し、円谷はリアリティを重視して主演俳優にローキーライトを施し、上層部と対立して退社の憂き目に遭う。

 アメリカ映画『キング・コング』(1933)に驚嘆し、プリントを入手して1コマずつ分析したほどの円谷。旧態依然とした日本映画界にあって、技術の追究は孤独の日々が続いた。そんな円谷に声を掛けてきたのが、先進技術に積極的な新興勢力、J.O.(ゼー・オー)スタヂオだった。円谷は腰を落ち着けて鉄製クレーンを完成させ、監督デビューも果たす。そこへ舞い込んで来たのが、日独合作の国家的プロジェクト『新しき土』(1937)である。円谷は念願のスクリーン・プロセスを完成させる。予め撮影した風景などのフィルムをスクリーンに投写して後景とし、手前で俳優が演技する様子をキャメラに収める古典的な合成システムだ。この仕事を機に、円谷は生涯の理解者となるプロデューサー森岩雄に声を掛けられる。P.C.L.映画製作所の重役だった森は、ハリウッドを視察して特撮の重要性と将来性を深く認識していた。映画技術のさらなる発展を願う円谷は、森との出会いによって次なるステージへと向かった。

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 再現された『ウルトラマン』の国立競技場ジオラマ「円谷英二 特撮の軌跡展」    『ウルトラセブン』製作時の円谷英二(C)円谷プロ

 P.C.L.とJ.Oなど4社が合併し、1937年に東宝が誕生。取締役に就任した森は、円谷を砧の撮影所に招く。そこでも当初、円谷は業界の排他的な気風のなか、辛酸をなめるが、森は円谷のために特殊技術課を創設する。蓄積してきた技術を活かす好機がやってくる。わずかな資料から精緻なミニチュアセットを造り込み、真珠湾攻撃を再現した『ハワイ・マレー沖海戦』(1942)が大ヒット。皮肉なことに、戦争の勃発が特撮の醍醐味を世に知らしめた。敗戦後、悲劇が訪れる。戦意高揚映画に携わった円谷は、公職追放となってしまう。自宅の庭に研究所を設け、後進を指導しながら、フリーランスとして各映画会社の特撮などを請け負う歳月は4年に渡った。
 
 公職追放が解け、東宝に復帰した円谷は“特撮が主役”の企画と出会う。それが『ゴジラ』(1954)だった。科学の暴走を体現した水爆大怪獣を、『キング・コング』のストップモーション・アニメとは異なる、ぬいぐるみで表現。映画草創期、歌舞伎に想を得た忍術トリック映画の頃からぬいぐるみの使用例はあったが、リアルな生物としての質感にこだわり、撮影効果によって巨大感を表現する本格的スペクタクル映画での使用は画期的だった。本作の空前の大ヒットによって、日本特撮の歩む方向性は決定づけられたといえるだろう。
 
 1950~60年代、日本映画界では怪獣映画やSF映画の一大ブームが巻き起こる。円谷英二の進撃は終わらなかった。産声を上げたばかりのニューメディア「テレビ」への進出に乗り出したのだ。小さな画面と粗悪な画質ゆえ、映画人がテレビドラマを電気紙芝居と揶揄した時代。進取の気性に富んだ円谷は、時代の先を読んでいた。1963年、円谷特技プロダクション(後の円谷プロダクション)を設立。最新型の光学合成装置オプチカルプリンターも導入し、劇場映画並の特撮を毎週堪能させる『ウルトラQ』(1966)を制作。そして、50年に及ぶシリーズの嚆矢となる『ウルトラマン』(1966)、『ウルトラセブン』(1967)によって特撮ヒーロー番組を切り拓いた。

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   円谷英二愛用の35㎜ミッチェルキャメラ「円谷英二 特撮の軌跡展」   円谷プロの造形工房でペギラ制作中の品田冬樹(造形家)に話を訊く
                                      「知恵泉」店主こと、井上二郎NHKアナウンサー(C)円谷プロ
   
71.jpg 「知恵泉」は、以上のような円谷英二の道のりを紹介するだけではない。異端のクリエイターの人生から“制約を乗り越える”というテーマを引き出し、“意外な効果”“切り札”“人材育成”というキーワードを設けて、その仕事術に学ぶという主旨で前後編の計90分を構成していく。後年、円谷は述懐している。「どんな情景も雰囲気も人工的に作り上げる方法、これが私に特殊技術への関心を呼び覚ましてくれた最初の動因であったが、しかし底流には、(略)技術者の不遇に対するレジスタンスが潜在意識となって作用したことは事実である」。予算、物理的要因、スケジュール、会社の無理解…さまざまな制約がイマジネーションを育み、特撮という文化は成長した。

 番組では、「プロジェクトX」などNHKのライブラリーと新撮映像を併用し、円谷英二にゆかりのある、有川貞昌(特技監督)、中島春雄(俳優)、中代文雄(操演)、佐川和夫(特技監督)、中野稔(視覚効果)、満田かずほ(監督)らのインタビューをふんだんに駆使して仕事術や人と成りを掘り下げる。また、今に伝わる円谷のDNAを探るべく、“店主”こと井上二郎アナが円谷プロの造形工房を訪ね、手作業による怪獣造形や、細部を精密に表現するための3Dプリンター導入の現場を取材。そして、「円谷英二 特撮の軌跡展」に展示中の、円谷英二自身がメガホンを執ったといわれる『ウルトラマン』第19話「悪魔はふたたび」の舞台、国立競技場ミニチュアのセットを再現した美術制作会社マーブリング・ファインアーツも訪ね、ミニチュアによるビル壊し特撮の最前線も紹介する。                                                                      『ウルトラマン』制作時の円谷英二(C)円谷プロ

 歴史上の賢人に学ぶ番組で、円谷英二の生涯が取り上げられるのは感慨深い。円谷と同郷出身である「知恵泉」の高木秀也ディレクターは、被災地を支えるウルトラヒーローの存在意義にも注目していた。番組は、円谷英二の夢の続きにも触れる。ウルトラヒーローたちは今、東北の復興に向けた支援活動に余念がない。円谷が生み出した映像やキャラクターは、ただ単に、刹那の視覚的な興奮や感動を与えるのではない。豊かな特撮映像は、幼少期から思春期にかけて眼にした人々の心の中に入り込み、勇気や正義、創造力の芽生えにさえ貢献している。それは、何よりも尊い“特殊効果”かもしれない。

 それでは、お気に入りのお酒を用意してテレビの前にお座りください。先人たちが我々に、知恵とヒントを与えてくれる歴史酒場「知恵泉」での45分、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中に入っていくのです――。

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81.png■NHK Eテレ「先人たちの底力 ~知恵泉(ちえいず)」
『制約を最大効果に変えろ! 円谷英二』
4月15日(火)23時00分~23時45分 前編
   22日(火) 5時30分~6時15分(再放送)
4月22日(火)23時00分~23時45分 後編
   29日(火) 5時30分~6時15分(再放送)
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■「円谷英二 特撮の軌跡展」
4月  2日(水)~14日(月)新宿髙島屋 ※終了
4月17日(木)~27日(日)京都髙島屋
5月  1日(木)~12日(月)大阪髙島屋
7月30日(水)~8月11日(月)横浜髙島屋                                   筆者書棚の円谷英二関連コーナー
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 本コラムは、業界紙記者とはひと味違う鋭い視点で、映画はもちろん、テレビその他をテーマに定期連載していくが、総合映画情報サイト「映画.com」(http://eiga.com/)とコラボレーションし、画期的な試みとして2つのウェブサイトでフレキシブルに連載していく。この試みがユーザー(読者)、そしてエンタメ業界、メディアに刺激を与え、業界活性化の一助になることを目指す。




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清水 節(編集者/映画評論家)

 1962年東京都生まれ。日藝映画学科、テーマパーク運営会社、CM制作会社、業界誌等を経てフリーランスに。「PREMIERE」「STARLOG」など映画誌を経て「シネマトゥデイ」「映画.com」「FLIX」などで執筆、ノベライズ編著など。「J-WAVE 東京コンシェルジュ」「BS JAPAN シネマアディクト」他に出演。海外TVシリーズ『GALACTICA/ギャラクティカ』クリエイティブD。
ツイッター⇒ https://twitter.com/Tshmz

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