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第67回ロカルノ国際映画祭新鋭監督コンペ部門正式出品作『息を殺して』の五十嵐耕平監督にインタビュー

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第67回ロカルノ国際映画祭新鋭監督コンペ部門正式出品作『息を殺して』の五十嵐耕平監督にインタビュー

2015年06月01日

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 NOVO配給『息を殺して』が6月20日(土)から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開される。既に、川越スカラ座で昨年の11月8日から21日までの間に上映されているが今回、改めて都内劇場ほかで公開が決定した。


 同作は、若手新鋭監督の五十嵐耕平が東京藝術大学大学院映像研究科8期生修了作品として制作したもの。第67回ロカルノ国際映画祭新鋭監督コンペティション部門、第36回カイロ国際映画祭批評家週間に正式出品されている。出演は雑誌、CM等でモデルとして活躍する谷口蘭ら。製作は東京藝術大学大学院映像研究科。


 徴兵制が復活した日本、東京オリンピックを約2年後に控えた171230日という時代設定。舞台は、巨大なゴミ処理工場。登場人物の主は工場の職員ら。そこに1匹の犬が迷いこむことから映画が動き始める。事務のタニちゃん(谷口)は犬を探すが見つからない。夜勤を終えたケンはこの日非番のゴウとTVゲームをして遊んでいる。足立さんは帰ろうとせず、ヤナさんは新年の飾り付けに勤しんでいる。一見、好き勝手に過ごしているかの様に見える彼らだが、皆同じような問題を抱えていた。妊娠、不倫、家族、戦争で死んだ友達。そんな中、足立さんとの不倫関係に思い悩むタニちゃんだったが、いつしか既に死んだはずの元工場長の父親が、この場所にいるのではないかと感じ始める。五十嵐監督が同校在学中に師事を受けた黒沢清監督は、「絶対に何か恐ろしいことが起こりそうで、なかなか起こらない…と思っていたら、それはとっくに起こっていたことがわかり愕然となった。それにしても、こんなに恐ろしいとは!」とコメントを寄せている。


 今回、五十嵐監督に藝大院のこと、製作の動機、タイトルに込められた想い、今後の展開などについてインタビューを行った。

 


 



『息を殺して』まで



――藝大院ではどういったことを学びましたか?

 

五十嵐監督 座学よりも、実際に映画製作をすることを主に行ってきました。常に製作の状況にあり、1年中製作が行われているスタジオの様な環境の中で、予算管理から現場までを、その都度組んだチームで全て行うという経験を繰り返し行ってきました。座学では、映画を観て、その映画がどういう風に語られているか、どういった演出が行われているかということについて話し合う授業がありました。そういったことを考えるのはとても重要なことだと思いますが、実際の現場では予期せぬ問題と直面して対応することに追われてしまいます。藝大院ではそういった現場での対応力や瞬発力といったものを身に付ける訓練を行ってきました。

 


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――在学中、何本撮影しましたか?

 

五十嵐監督 4本です。まず、1年生の春に35ミリフィルムをワンロール分使用した5分程の短編作品。次に、1年生の夏に、監督コース以外の全員が脚本を書いて、その中から選ばれた4~5本の脚本を撮影するというカリキュラムがありました。『メルヒェン』という30分程の短編作品をその時製作しました。『息を殺して』と同様に、犬が出てきます。その後、2年生の夏に、原作権を得たり、企業から資本を提供してもらうところから始まるプロデューサー主体の企画で、漫画家のふみふみこさん原作『恋につきもの』というオムニバスの1本、『豆腐の家』を監督しました。

 




――そして、『息を殺して』を製作された訳ですね?

 

五十嵐監督 そうです。カリキュラム内容としては完全オリジナルの何でもありという企画です。何でもありとは言っても、それなりの制限があって、1日あたりの撮影時間も決まっていますし、大学から支給される予算も決まっています。撮影期間は、12日間の2週間いかない程度でした。

 


「息を殺して」には2つの意味がある



――『息を殺して』製作の動機を教えて下さい。

 

五十嵐監督 「頑張っても駄目かもね」という感覚がどこかに共通して僕ら世代にはあると思う。短絡的に断言も出来ないが、どこかにある。斜に構えたというか、諦めてかかるような意識がどこかにある。その感覚を認め、自覚的に生きていきたいなという想いがあって、地元の友達のことを考えながら制作しました。また、台本的には、いくつかやりたい案がありましたが、全てを合わせると『息を殺して』の形になりました。

 


――タイトルにはどういった想いを込めましたか?

 

五十嵐監督 元々は、『恋人のように息を殺して』というタイトルでしたが、ロマンポルノのタイトルみたいだと周囲から不評でした(笑)。最終的には、「恋人のように」を削ることになりました。英題では、『Hold Your Breath Like a Lover』、とある様に「恋人のように」を残しました。先ほどの話と関係していますが、僕には息を殺して生活しているような部分があります。そういう人たちを撮りたかった。
 
 「息を殺して」には、何かの到来を待ち望んでいるポジティブな意味と、避けながらやり過ごしているネガティブな意味の、2つの意味があります。先を望むことと、今現在をじっとしているという分け方もできます。

 

 

――実際の演技でも登場人物たちは声が小さいですよね。

 

五十嵐監督 声が小さいというのは、重要な要素です。ちゃんと聞かないと聞こえないくらいに息を殺しています。冒頭では、巨大な工場の中で、抑圧される人たちであるということと同時に、工場に溢れかえる様々なノイズ、音と、人の声が同じものであるというふうに捉えたかったからです。等価値であるというふうに。そのくらいこの映画では音が重要な要素を担っています。

 


工場を墓場に、犬をストーリーテーラーに


息殺修正3.jpg――スイス・ロカルノでの反応はいかがでしたか?

 

五十嵐監督 スイス・ロカルノでは、ジャンルを横断することについての質問が多かったです。面白いことに、日本では、恋愛からホラーに横断する方向でよく捉えられますが、ロカルノでは、逆でした。ホラーから始まっていて、恋愛の要素があって、政治的な映画に集結すると捉えられていました。オーソドックスに、「現政権に対して」という質問を受けました。「日本の若者は、こんなこと考えているのか、大丈夫なのか?」と心配されたりも(笑)。

 


――工場が主なロケ地ですね。後は、森に少し出るだけ。大きく2つの場所で撮影された様に見えます。

 

五十嵐監督 実際には4つの工場を、1つの工場に見立てています。ほとんど神奈川県内で、保土ヶ谷、鶴見など。森は埼玉県の深谷です。あまり困難な場面に差し掛かる現場ではありませんでしたが、ロケ選びが最も大変でした。元々の脚本では、ジュースのライン工場という設定だったのですが、撮影NGのところばかりだったため脚本を変えてゴミ処理場にしました。でもその変更がむしろ、この映画で何を撮ろうとしているか教えてくれた気がしています。

 


――不気味なゴミ処理場でしたね(笑)。

 

五十嵐監督 (笑)。あそこは巨大な工場にも見えるし、巨大な墓場にも見える場所なんです。「大きいシステム自体は勝手に動いているのに拘らず、その中でぶらぶらするしか出来ない人たち」といった感覚です。

 

 

息殺修正4.jpg――犬には、どういった役を担わせるために物語内に配置しましたか?

 

五十嵐監督 ストーリーテーラーの役割です。『息を殺して』の中で、きちんと物語があるのは、「みんなで犬を探す」ところくらいにしかないんですよね。この映画を引っ張っている存在とも言えます。勿論、犬なので何も語ってないですけど(笑)。細かい話になると、劇中で、みんなが犬の話をしますよね。「雑種っぽい犬を飼ってた」「彼女の誕生日にあげた」など全員違う犬の話をするんです。でも、僕の中では、全部同じ犬の話なんです(笑)。すごい話なんですけど。全部が同じ犬で、全員が同じ犬を飼った経験があるという話なんです。
 
 要するに、全員が語っていることが全部同じ話であるという。彼らの人生に年表があったとして、書きだしていくとそれぞれが経験してきた人生は、ほかの誰かが経験してきた人生とそっくりそのままになるんです。彼らの話の辻褄を合わせていくと同じ人生になるんです。

 


――とてつもなく壮大な設定ですね(笑)。

 

五十嵐監督 ややこしい設定にしたんですけど、「なんかこの人たち似てるな、同じことしているな」と思ってもらえれば幸いです。登場人物たちの間に、あまり差異がないなという雰囲気だけでも伝わればいいかなと。

 


――実際の演技として、工場の中にいる人たちはお互いを認識していないように交差していきますね。

 

五十嵐監督 それは彼らが暮らしている世界が1つの層で成り立っていないということです。隣にいるはずの人が実は、同じ次元にいないかもしれない。そして、もちろんそこには死者の存在があるかもしれません。でも、画面に映れば関係性が必ず生まれます。その関係性をどのように扱うか、映画の中で現実をどのように捉え直すかということに挑戦しました。この話は、先ほどの犬の話とも関係しています。同じ様な人生だけど、それぞれが、どのようにして向き合うのかという問いかけが僕の中で主題でした。

 


――語る内容が似通うということは、違う次元で同じことをしてしまっているということですか?

 

五十嵐監督 そうですね。歴史の上でも反復になっていて40年に開催されるはずだった東京オリンピックは38年に戦争が原因で開催権を返上しています。それと同じ様に、東京オリンピック2年前に、徴兵制が復活した日本を舞台にしました。反復しているだけで、同じ様なことをしていて、層を重ねた人たちが同時に存在しているという映画です。

 

 

「なぜ見つめているか」ではなく、「見つめていることそのもの」



――あのゴミ処理場に集まったということですね。演出面で、意識されたことは?

 

五十嵐監督 1つのアクションに対して、1つの答えがあるというようなありかたとは異なることを実践しました。通常は、その連続によって物語や展開が生み出される。そういったものではなく、アクションが即物的にあって、選択不可能なくらいその後の展開に方向性が生まれるといったことを成立させようとしました。また、それが果たしてどこまで出来るかを確かめました。

 

 

――即物的とはどういった意味合いですか?

 

五十嵐監督 劇中で、谷口蘭さんが何かを見つめるという行為がよく映っていますね。通常の映画の場合は、なぜ見つめているのかという理由が必要になる。「なぜ見つめているのか」という問いへの答えを観客が理解することで、物語が動く。
 

 だが、今回は、「見つめていることそのもの」が重要だと考えた。もしかすると観客には、谷口蘭さんがなにを見つめているのか、よく分からないかもしれない。しかし、そうすることで、谷口さん自身をはっきりと捉えることが出来ると考えたからです。実際に演出をかける際には、ありがたいことに役者さんたちが一緒になって考えてくれる現場でした。あまり演技について説明をしませんでした。

 

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息殺7.jpg――映画を撮る際に、共通している主題はありますか?

 

五十嵐監督 「ディスコミュニケーション」です。意識せずとも取り組んでいる主題です。繋がり合いたい人たちが頑張るけど、結局繋がり合えないという。でも頑張ろうよみたいな(笑)。悲劇的な話にはならないようにしています。

 


――次回作は決まっていますか?

 

五十嵐監督 直近で撮る予定はないです。ネタを早く考えないといけない。次回作は、楽しい映画を撮りたい。単に観ていて希望が持てるようなもの。また、春から母校・東京造形大学で映画専攻領域の非常勤講師として働き始めます。講師として働きながら、制作も続けていきたいと考えています。(了)

 

息殺修正8.jpg五十嵐耕平

1983年静岡県生まれ。

 東京造形大学造形学部デザイン学科映画専攻卒業。

 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域修士課程修了。

 大学在学中に制作した『夜来風雨の声』は、「シネマ・デジタル・ソウル2008」にて韓国批評家賞受賞。劇場公開オムニバス作品『恋につきもの』の一篇『豆腐の家』を監督。東京藝術大学大学院の修了作品である『息を殺して』は第67回ロカルノ国際映画祭 新鋭監督コンペティション部門などに正式出品される。





『息を殺して』
http://ikikoro.tumblr.com/

6月20日(土)より渋谷・ユーロスペースでレイトショーほか全国順次公開

 

キャスト

谷口蘭・稲葉雄介・嶺豪一・足立智充・原田浩二・稲垣雄基・田中里奈・あらい汎・のぼ(犬)

 

スタッフ

監督/脚本・五十嵐耕平

プロデューサー:大木真琴  加藤圭祐 助監督:廣原暁 撮影/照明 :髙橋航 録音/整音 :稲村健太郎 編集:姜銀花 美術:河股藍 衣装:谷本佳菜子 ヘアメイク:光岡真理奈(Atelier ismⓇ) 音楽:Sleepy Lemon + YSD & The Tinker 制作助手:石田晃人 宮川万由 助監督:山下洋助 久保寺晃一 撮影助手:殿村亮 照明助手:ジュレット・アイレット平野礼 松井宏樹 録音助手:安田拓郎 高島知哉 魚野智生 音響効果:渋谷圭介(Cinema Sound Works) 美術助手:呉思斉 髙島悠 記録:周暁倩 広告デザイン:山本アマネ 翻訳:金毓嘉 ショーン・カレン 宣伝/配給:NOVO

 

◎第67回ロカルノ国際映画祭 新鋭監督コンペティション部門正式出品

◎第36回カイロ国際映画祭 批評家週間 正式出品

◎ニッポン・コネクション 2015



(c)2014 東京藝術大学院映像研究科

(c)ふみふみこ/徳間書店(c)2013「恋につきもの」製作委員会



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