閲覧中のページ:トップ > 文化通信バラエティ > エンタメ・トピックス >

構想から8年、「ガス人間」の製作経緯を東宝・馮年プロデューサーに聞く

エンタメ・トピックス

最新記事

構想から8年、「ガス人間」の製作経緯を東宝・馮年プロデューサーに聞く

2026年07月10日
 ネットフリックスシリーズ「ガス人間」が、7月2日(木)から世界配信開始された。伝説的特撮映画『ガス人間第一号』をリブートする同作は、オリジナルと同様に東宝が製作。東宝が初めて手がける配信シリーズであり、また東宝とネットフリックスの大型タッグが初めて実現した作品としても注目を集めている。映画会社の東宝が、なぜ配信シリーズに挑んだのか。構想から8年におよぶ今回の企画は、東宝にとっても初物づくしのプロジェクト。企画・プロデュースを務めた映画企画部の馮年プロデューサーに製作の経緯を聞いた――。
※この記事は、2026年7月3日付「日刊文化通信速報【映画版】」で掲載したものです。


「ガス人間」企画・プロデュースを担当した東宝の馮年プロデューサー.jpg
「ガス人間」を担当した馮年(ひょう ねん)プロデューサー


 1960年公開の映画『ガス人間第一号』を60年以上の時を経て現代に甦らせた「ガス人間」は、原作の要素を踏襲しつつも、全く新しいオリジナルストーリーとして製作。小栗旬演じる刑事と蒼井優演じる記者が、世を恐怖に陥れるガス人間の謎に迫る物語だ。

 この作品の脚本とエグゼクティブプロデューサーを務めたのが、『新感染 ファイナル・エクスプレス』の監督として知られる韓国のヨン・サンホ。東宝が企画、製作をリードする形で、海外のクリエイターとがっぷり四つになって取り組んだ作品は、これが史上初となる。馮氏は、『新感染 ファイナル・エクスプレス』で一躍脚光を浴びたヨン監督に初めて接触した2018年頃を振り返る。「実は、当時企画部長だった山内章弘さんがヨンさんの連絡先を入手し、別のプロジェクトをオファーしたのですが、それは折り合いませんでした。ただ『それでもぜひヨンさんと一緒に仕事がしたい』と山内さんと二人で韓国に飛びました。様々な企画を10個ほど準備して行きましたが、ヨンさんは変身人間シリーズに関心を持たれて、なかでも『ガス人間第一号』に惹かれたとおっしゃいました」。

 『ガス人間第一号』は、監督を本多猪四郎、特技監督を円谷英二と、当時の特撮の第一人者が手掛けたSF作品。ヨン・サンホは今作の製作発表時に「いま観ても非常に完成度が高く、SF的な表現も巧みな素晴らしい作品でした。現代的な映像作品として新生したら、きっと面白いものになるものになると感じました」とビジョンを語っている。

 かくして『ガス人間第一号』のリブートプロジェクトが始動。当初東宝では映画として製作することを念頭に置いていたという。ただ、巨額が見込まれる製作費との兼ね合いや、2020年に発生した新型コロナの影響により、企画の進行はややスローダウンを余儀なくされる。そんな中、ヨンから提案されたのが「配信シリーズ」での製作だった。当時は、ヨンが韓国で「地獄が呼んでいる」や「寄生獣‐ザ・グレイ‐」をネットフリックスシリーズとして開発していた頃であり、『ガス人間第一号』の配信シリーズ化にも前向きな姿勢だったという。「まだ日本では動画配信が今ほど広く浸透する前だったので、東宝としても配信シリーズとの距離は測りかねていた時期でした。制作プロダクション(TOHOスタジオ)としてテレビドラマは制作していましたが、自社で実写の配信シリーズを手掛けた経験はありません。しかし、配信サービスであるネットフリックスと組むことができれば、大きな製作費の問題もクリアできます。当時国際部だった呉良次さんもプロデューサーとして加わり、社長や上長からも背中を押してもらい、最終的には配信シリーズとしてチャレンジしようという結論に至りました」。

 2時間の映画とは勝手が違う配信シリーズの脚本。ヨンとともに挑むことになった馮氏は、その開発過程を次の通り回想する。「配信シリーズは、面白ければイッキミしてもらえる一方で、退屈なら視聴離脱もすぐ起きてしまう恐れがあります。見せ場を後半に持ってくる映画とはガラッと意識を変え、出し惜しみせずに面白い場面を出していくことを意識しました。また、各エピソードのラストに、すぐ次が観たくなる要素をいかに盛り込むことができるか。ハリウッドではこれを“クリフハンガー”と呼んでいるそうですが、このクリフハンガーも重視しながら、視聴者を飽きさせない脚本作りに努めました」。とにかく面白い要素を途切れることなく畳みかける。一例として、当初終盤に置かれていた大きなターニングポイントを、中盤の第四話に配置転換する大胆な賭けに出ている。こういった配信シリーズならではの特性と向き合った結果、「ガス人間」は、第一話の冒頭からアクセル全開で全8エピソードを突っ走っている。

 韓国人のヨン・サンホの脚本で描く日本のドラマ。ともすればミスマッチも起きかねないこの企画で、日韓双方の意向を汲み取りながらきっちりと完成に導いたのが片山慎三監督だ。映画『岬の兄妹』で才能に惚れ込み、WOWOWのドラマ「さまよう刃」を観て確信し片山に監督オファーしたという馮氏は、その手腕に舌を巻く。「片山さんはポン・ジュノ監督の助監督も経験され、韓国の映画作りも目の当たりにしているので、ヨンさんとの連携もうまくいくと思っていました。片山さんの素晴らしいところは、人間をフラットかつ多面的に見ていることです。彼はよく『人間って、悲しい時に悲しい顔をしないじゃないですか』と話します。悲しいけれど、ちょっと笑っていたり、奇妙な行動をとったり。その考えがリアリティに繋がっていて、片山さんの作品はダークな物語なのにちょっと笑えてしまうようなユーモアがあります。これは韓国映画にも通ずるものがあり、実際、ヨンさんの脚本が片山さんの演出でより映えたと思います」と絶賛する。


小栗旬、蒼井優、広瀬すず、林遣都ら豪華キャスト

 そんな片山監督の指揮に応えるべく集った俳優陣は、小栗旬、蒼井優、広瀬すず、林遣都など、いずれも単独で主役を張れるような豪華な面々だ。小栗旬にオファーしたのは、馮氏の並々ならぬ思いと覚悟があったという。「東宝の長い歴史の中で、初めて尽くしのこの作品がもし失敗すれば、東宝の配信シリーズに対する姿勢が後ろ向きになってしまうかもしれないと思うと、そのプレッシャーはとても大きいです。そこで、ネットフリックスで配信するからにはグローバルランキング1位を獲るという高い目標をあえて口にし続けています。そして、その頭を担う役者さんは絶大な信頼を置けて、名実ともにトップの方にお願いしたいと思っていました。私は『君の膵臓をたべたい』でご一緒したこともあり、小栗さんしかいないと思ってオファーしました」と熱弁する。

 一方、ヒロイン役の蒼井優はヨン・サンホ側からのラブコール。韓国では岩井俊二監督の作品の人気が高く、多くの岩井作品に出演する蒼井優への支持も厚い。「ヨンさんも昔から蒼井さんの出演作をご覧になっていたそうで、出演を熱望されました。調べてみると、小栗さんと蒼井さんは実写では23年前に共演されていますが、一緒のシーンはなく、がっつりとした共演は今回が初だそうです。これだけ長くトップで活躍されているお二人がまだ共演していないなんて、この組み合わせを考えただけで興奮しました」。

 兄妹役の広瀬すず、林遣都も、特に後半の展開を左右する重要な役どころを演じる。小栗、蒼井とは別軸から展開するストーリーを担っており、こちらも主役クラスのキャスティングが必要不可欠。「絶対に素晴らしい役者さんにお願いしないとダメな役で、乾坤一擲、広瀬さんにファーストオファーで頼み込みに行きました。また、兄役として林さんなら説得力がありますし、実は片山監督からも太鼓判がありました。監督は現場で色々なことを思いつくアイデアマンで、その場で柔軟かつ前向きに対応できる俳優さんが必須です。監督は林さんとご縁があり、非常に信頼を置かれていました」とキャスティングの妙を語る。


VFX、音楽とも世界基準、クオリティを徹底追求

 同作のグローバルでの大ヒットを狙う上で、世界に通用するクオリティを間違いなく求められるのが“ガス”の映像表現だ。オリジナルの『ガス人間第一号』の特撮は、ヨン・サンホが絶賛するように高い完成度を誇る。当時の特撮の最高峰の技術が駆使された同作のリブートに臨むにあたり、今作ではVFXでガスの表現を徹底追求した。監督のビジョンを具現化するべく、『ゴジラ‐1.0』の白組とともに、撮影に入る一年半も前から開発に取り掛かったという。すでに日韓のクリエイターによる国際的なプロジェクトだった同作だが、VFXの工程ではネットフリックス傘下のVFX制作会社であるスキャンライン(現在はeyeline studios)が、コンセプトアートの領域で参画。ハリウッド式のプロジェクトマネジメントを取り入れ、VFXチームが一目見れば分かるフォトリアルなコンセプトアートを二百枚ほど作成しながら作業を進めた。馮氏は「これはすごく良い経験になりましたし、今後日本の業界にも還元していきたい知見になりました」と、今回のプロジェクトに留まらず、今後製作する作品のためにも重要な挑戦だったことを述懐する。この渾身の映像は予告編でも存分に披露され、本編配信開始前からSNSで絶賛の嵐になっている。

 国境を越えてクオリティを追求する姿勢は、「イクサガミ」「機動戦士ガンダム 水星の魔女」などで知られる大間々昂が手掛けた音楽にもおよぶ。オーケストラ収録を行ったのは、なんとハンガリーのブダペスト。さらに、収録した曲のミキシングを、ハンス・ジマーの右腕として活躍し、クリストファー・ノーラン作品などを手掛けるアラン・メイヤーソンが担当した。このこだわり抜いた楽曲の数々が、「ガス人間」をさらにグレードアップさせる。大間々は同作に対し約70曲もの劇伴を制作。なかでも特筆すべきはメインテーマ。「近年の劇伴は、作品に寄り添ったタイプのものが多いと感じますが、本作に関してはメロディーが主張する、引っ張っていくような音楽をオーダーしました。誰もが『ゴジラ』のテーマ曲を口ずさめるように、『ガス人間』でも象徴となるメインテーマを作って頂きました」と馮氏も音楽に自信を覗かせる。


プレビューで高評価、米国でも予告編再生が好調

 あらゆる面で最高水準の作品を志向した同作は、ネットフリックス側からも高く評価を受けている模様だ。ネットフリックスでは、完成前の作品を視聴する招待制のプログラム「ネットフリックス プレビュークラブ」が設けられている。ここでの反響をもとに、さらに作品の質の向上を図るシステムだが、「ガス人間」はネットフリックスの日本発作品で非常に高いスコアを叩き出したという。「これは嬉しかったですね」と馮氏も笑顔を見せる。ネットフリックスでは、米国版のXアカウントでも「ガス人間」の予告編を配信し、日本をはるかに上回る再生回数を記録している。早速、ヨン・サンホや片山慎三監督には海外の媒体からも取材が殺到しており、早くも今作がワールドワイドで期待され始めている様子がうかがえる。史上初めて東京駅前を封鎖して撮影を行うなど、何から何まで規格外の同作。作品の内容はもとより、世界からの反響にも要注目だ。

(取材 平池由典)

過去のタイトル一覧

2026年

2月│ 3月│ 4月│ 6月│ 7月

2025年

3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月

2024年

3月│ 4月│ 6月│ 7月

2023年

2月│ 3月│ 10月

2022年

3月│ 5月│ 7月│ 8月│ 12月

2021年

2月│ 3月│ 10月

2020年

10月│ 11月│ 12月

2019年

2月│ 4月│ 5月│ 7月│ 8月│ 10月│ 11月

2018年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2017年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2016年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2015年

3月│ 4月│ 6月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2014年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月

2013年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2012年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2011年

2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2010年

1月│ 2月│ 4月│ 6月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2009年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月

2008年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2007年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月

2006年

1月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月