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トップインタビュー:角川春樹(株)角川春樹事務所特別顧問

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トップインタビュー:角川春樹(株)角川春樹事務所特別顧問

2007年03月27日
■眠りから完全に覚醒した

―― 映画を久々に演出された感想は。

角川 やっぱり気持ちいいよ。普通の人はあの場のパワーに負けてしまって撮れないからね。27万人欲しいと思いながらも、2万7千人を前にして、それを嬉々として撮った。そこに森村誠一さんがいてね、たった一人の角川春樹という人間の“位力”(森村氏の造語)が2万7千人の全体のエネルギーを上回ったと言った。私も目覚めましたよ、監督としてやろうと。眠っていたものが完全に覚醒した。まさにあの瞬間、私はチンギス・ハーンと一体になった。だから、「文化を持って世界制覇を目指す現代のチンギス・ハーンの戦い」とスポーツ紙にコメントを寄せたが、日本人が作ったアジア発信の第一弾として世界に向かっていくということ。日本だけでなく、アジアのマーケットを獲るんだという意識ね、これから自分が作る映画はまず全てアジアに向けて作っていく事になる。

―― モンゴルでの撮影はかなり大変だったと聞いていますが。

角川 一つは天候の問題で、冬が長すぎて、雨が降らず、草が生えなかったから、モンゴル政府から雨を降らして欲しいという要請があったので、私が雨、風、雪、あられ、全部降らしてやった。モンゴルは今、太陽フレアの問題で、今後44年間は砂漠化していくいっぽうだという。それをもう一回緑化するという力を出した。だから、角川春樹というとモンゴルでは、映画監督、詩人、そして最後にシャーマンだと言っている。ハーンもシャーマンだったから余計に、人生に対する考え方をかなり想像できるところがあって、結局ハーンの教えはなんだったのかというと、“人を大切に”ということだと思う。彼の人間力があの史上最大の世界を作り上げた。軍人、経済、政治家として、いろんな天才性が開花するには彼の人間力があって、人がついてきてこそ、それが発揮できたんだよね。ジャムカ(ハーンの親友であり、宿敵)は一旦ハーンを破るんだけども、負けたハーン軍が撤退しながらどんどん増えていった。兵隊がジャムカ軍から次々とハーン軍の方に行ってしまって、最後にはジャムカが敗れてしまう。なぜかというと、ハーンの苦労が人を惹きつけた、人間力なんだよな。これはどういうことかというと、あれほどの裏切り、妻を奪われてしまうほどの過酷な悲劇、それから生まれてくる子供が自分の子ではないかもしれないという苦悩、そういう苦しみ、悲しみに耐えて、それをビタミン剤に変えて、肥やしにして、ハーンは大きくなっていった。普通人間というのは、苦労した人間ほど器が小さくなるでしょう。猜疑心が強くなって。でも、ハーンは凄まじく器を磨かれたんだよね。やはり戦場というのは男を磨く大きな場所。そこに命という問題も背負って大きくなっていった。だからこのハーンの大きさには対抗できない。時代を動かす力というのは一人の天才なんだよ。しかも人間的な魅力がある天才であることが必要。

■自分にとっての原点

―― そういうハーンを演じる反町さんは大変だったのではないですか。春樹さんの期待に応えてくれたのでしょうか。

角川 反町はよくやったと思う。青年期からだんだん成長していってシーンごとに顔つき、身体から発散されるエネルギーも変わっていった。彼は撮影が進むごとにハーンをわかっていった。で、実際に2万7千人のエキストラを前にして演じた即位式の演説。そこで彼はハーンを完全につかんだ。その間の迷いは逆に成長のプロセスに良く出ている。あの即位式の中のハーンは決して、喜びに満ち溢れてはいないんですよね。それまでの自分が生きてきた過程、いろんなものが錯綜して、一種の悲しみに満ちている。ボルテ(ハーンの正妻)、ホエルン(ハーンの母)を演じた菊川、若村にもここに至るまでの歴史を回想せよと言った。喜べないだろうと、そしてまだ続いていくかもしれないんだぞと。モンゴルは統一されたけど、統一されたモンゴルのエネルギーはどっかに発散しない限り内戦が始まってしまう。どの国でも内戦、革命があって、勝利する、そのエネルギーが内にこもった時にまた再び内戦が始まる。だから常に外に向かっていかないと、エネルギーが内に向かってしまう。モンゴルを統一したハーンは外に向かって行かざるを得なかった。

―― そういった意味では、春樹さんもこれまでいろんな苦労を人生の中で経験してきたからこそ、このタイミングでこの作品が撮れたのでしょうか。

角川 そういうことだよね。例えば、ジュチ(ハーンの息子)とハーンとの関係、あれは歴史の事実とは違うんですが、これは自分にとっての原点の関係なんだよ。いま「魂の一行詩」という運動をやっているんだけど、その中で角川家の戦後を書いていて、それを読んでくれると、なんでジュチとの関係をああいう風に描いたのか、父と子の関係、家族というものをテーマにしているというのが分かると思う。「大和」もしかりで、わりと俺は家族というテーマにこだわり続けている。家族がばらばらになっているので。余計に家族というものをテーマにしたがるのかもしれない。で、最終的には“愛”というものが重要なテーマとなる。それが一番泣かせるしね。

―― この作品を作って、春樹さんの中で何か新たに生まれたものはあるのでしょうか。

角川 今まで自分の娘に、子供を作りたいと言われても、「待て!」と先延ばしにしろと言っていたんだけども、この映画を作ったことで、今度は「作れ!」と言った。なぜ、作るなと言っていたかというと、生涯不良宣言した人間に、孫が出来るのはまっぴらだというのがあった。ここで孫を可愛がったりしたら、俺はただの人間、ただのおじいちゃんになってしまうと。それで抵抗していた。でも、この映画を通じて自分のなかで決心できた。ようするに自分の血を残そうと。それまでは自分の血なんか残さなくてもいいと思っていたが、遂に娘に初めて子供を作ることを許可できたんだ。非常に大きいよ。器が大きくなったかは別にして、自分にそういう要素があることに驚いている。この作品を作りながら気が付いた。まあ、あんまり人間臭くなると困るんだけどね…。

(全文は月刊誌「文化通信ジャーナル」3月号に掲載)

角川春樹 (かどかわ・はるき)
昭和17年1月8日、富山県生まれ。俳人・国文学者である父・角川源義氏が、終戦後創業した角川書店に、國學院大学文学部卒業後入社。昭和50年、源義氏没後、最年少で出版社社長に就任。「読んでから見るか、見てから読むか」というキャッチフレーズを流行させ、映像と活字のメディアミックス戦略を考案。文庫の大量販売を実現し、社を大きく発展させた。同時に、今日の俳句界に多くのものをもたらす。平成5年、向精神薬取締法と関税法違反の容疑で逮捕、角川書店の経営一切から離れる。平成7年、角川春樹事務所を創業。実刑判決による服役を終え、平成16年4月8日仮釈放となる。平成18年、「男たちの大和/YAMATO」が興収51億円の大ヒットとなり、映画界に復活。

「蒼き狼~地果て海尽きるまで~」
製 作:角川春樹・千葉龍平
主 演:反町隆史/監督:澤井信一郎
アクション監督:原田徹/脚本:中島丈博・丸山昇一
原 作:森村誠一「地果て海尽きるまで 小説チンギス汗(上下)」(ハルキ文庫刊)
出 演:菊川怜、若村麻由美、袴田吉彦、Ara、野村祐人、松山ケンイチ、平山祐介、津川雅彦、松方弘樹
製 作:「蒼き狼」製作委員会角川春樹事務所、エイベックス・エンタテインメント、松竹、フィールズ、TOKYO FM、JFN、読売新聞、Yahoo!JAPAN、MOVIDA ENTERTAINMENT、創芸、ティー・アンド・エム、エイチ・アイ・エス、日本航空、スマート・エックス、幻戯書房
松竹配給により3月3日(土)全国超拡大ロードショー

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