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トップ・インタビュー:岡崎市朗パラマウントピクチャーズジャパン日本代表

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トップ・インタビュー:岡崎市朗パラマウントピクチャーズジャパン日本代表

2008年05月13日
シネコンの衝撃

岡崎 実は、私が入った93年というのは、当時、確か劇場数が1730いくつかと戦後最低になった年ですが、この年、日本で初めて本格的なシネコンが登場した年でもあります。

本誌 今と比べると、驚きますね。

岡崎 その年に、神奈川県海老名にシネコンができた。この前閉まった東岸和田も、この年がオープンでしたね。この年あたりからですよね、劇場のオープンというと、シネコンになったのは。で、みんな言っていたじゃないですか、こんな田舎に劇場造っても、すぐにつぶれると。

本誌 それは、私も覚えていますよ。

岡崎 大御所の方が、「これはもう駄目だ」と口を揃えていた。「外資系だから、すぐに引き上げるよ」という言い方もあった。ただ僕は、今までの劇場の印象がガラッと変わったし、アメリカにいたこともあり、「こういった劇場が、日本にどんどんできたらいいな」と思っていた人間なので。そうこうしているうちに、シネコンがどんどんできていった。当時シネコンは、地方であってもいろいろ確執があって、やれ出すな、どうのという、大きな声では言えないけれども。ワーナーマイカルさんのマイカル自体が、ショッピングモールを拡張し、シネコンも一番すごかった時ですね。で、そのあたりで、ディズニーの成績が上向きになっていく。

本誌 どういう作品のときでしたか。

岡崎 「エアフォース・ワン」という作品があって、これは東宝東和さんにローカルセールスを委託した最後の作品です。既にディズニーの営業は立ち上がっていたので、最初の作品に向け着々と準備していました。全国自社配給の第一弾が、「フェイス/オフ」。ジョン・ウー監督、ジョン・トラボルタ、ニコラス・ケイジ主演でしたね。これが、うまくいった。その翌年が「アルマゲドン」になるわけです。とにかく毎年、良くなっていった印象があります。


佐野さん、鈴木さん

本誌 その当時の日本代表は、現ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント映画部門日本代表の佐野哲章さんですね。現日本代表の鈴木英夫さんは、その時点では宣伝部に在籍していた記憶がありますね。

岡崎 鈴木さんは、佐野さんより少し遅れて入社しました。96年だと思います。鈴木さんは「アルマゲドン」の宣伝をきっかけとして社内外での信頼、人望を築きあげたと思います。そのころから、宣伝と営業が一緒になってうまく機能し始めた。

本誌 それは、どういうことですか。

岡崎 それまでは、営業部と宣伝部がどちらかというと、背中向け合って仕事しているようなところがありました。当たったら、宣伝のお蔭みたいな。

本誌 反対に営業から見て、悪かったら宣伝が悪いとか。

岡崎 そう、「うちの宣伝は悪い」とか「うちの営業は悪い」といったような。

本誌 公開日が悪い。

岡崎 ブッキングが悪い。でも、「一緒にやろう」という機運が、そのころ出てきたんですね。そういうのって、今の僕のポジションとしては、非常に役に立っているんですね。

本誌 具体的には、どういうところですか。

岡崎 営業面においても昔はブッキング(劇場をとること)が、最も重要だったのですが、シネコンが出てくるとロードショウさえ決まっていればブッキング自体はそれほど難しいことではなくなってきました。優れた営業マンは興行者に対して無理が効き、数多くブッキングが出来る。

本誌 ブッキングに力のある人が、優れた営業マンであったわけですね。

岡崎 でも今は、ブッキング自体は昔ほど難しくない。つまり、営業の形態が変わったわけです。

本誌 誰でもできる。これは、逆に言うと怖いですよ。

岡崎 昔は、1劇場、1スクリーンの専門館だったけれど、シネコンが大勢を占める現在は、劇場は、棚を持っている百貨店のように多数の作品を同時に上映し、一つの作品に固執しなくなっています。

本誌 その端境期が、98年あたりですか。

岡崎 そうです。その当時はまだ、10%ぐらいしかシネコン比率がなかったと思います。でも稼働率からいったら、その数字以上のものがあった。全国の劇場のトップ10とか50を見ると、シネコンが軒並上位に入っていった。それまで、何々座とか言われていた劇場が、全然上位ランクに入らないということになった。

本誌 事実、そうだったよね。

岡崎 そうすると、営業のスタイルが全然変わってしまう。営業は、とにかくブッキングして、お金を取ってくること。この2つが重要な業務だったのに、今では全く変わってしまったわけです。例えば、8スクリーンがあったとして、そこでの上映作品数は10数本あるわけでしょ。その中で、例えばコンビニでもそうですが、商品って、どこで動くんですか。商品の棚には列があって、商品は一番奥の下のところからは動かないんですよ。そうすると、ルート・セールスにするにはどうするのか。自分の所の商品は、レジ周りに置いてほしい。棚のトップに置いてほしい。店内でどういうディスプレイしてほしい。こういうことをやっておかないと、自分たちの商品が、そこのお店の中で存在感を表せなくなっている。それは、昔と比べたら、流通化してきたんですよ。

本誌 確かに、営業の腕の見せ所は、長く、どこに押し込めるかになってきた。ブッキングではないわけです。

岡崎 ブッキングだけのセールスは、今は通用しなくなりました。

本誌 お店の中で、どこにいってしまうか、わからないような営業では駄目なわけだ。


営業と宣伝の連係

岡崎 劇場の中で、どうやって自分たちの商品のバリューを上げるのかというと、今度は宣伝とくっつかないと、上げられないんですよ。うちは、こういったツールがあります。こういうキャンペーンをやります。電波でも、こういうものがあります。だから、劇場でもこういうディスプレイをしてください。他社の作品で、こんなヒット作がありますから、その横に置いてくださいとか。そういった劇場の、例えば専門館だったときは、前の映画がどうのこうのは、関係ないじゃないですか。でも今は、常にマーケットがどういう動きをして、その動きに合わせて自分たちの商品をどうやって出していくのか。昔だと、劇場に一つしかかからないわけだから、ここはブッキングが決まれば、予告編はかかりましたよ。今は、みんなそこの劇場でやるわけですから、予告編の量もバンバン来るわけですよ。そういう状況下で自分たちの予告編をかけてもらう、宣伝材料をディスプレイしてもらう。そういうことだけをとっても、全然状況が違うわけですよ。いつポスターができるんですか、いつこういうディスプレイができるんですか、いつどの作品に合わせてやらなくてはいけないんですか、全部、営業の頭に入っていなかったら、それらはできないわけです。一時代前のことを悪く言うわけではないですが、昔のこと(営業)を知っていることが、強かった時代がありました。「昔は、あそこの所であれやって、ああやって、こうやって、こういうのがいいんだよね」。下手すると、10年、20年前のことで、そういう知識が価値があったんですけど、今は10年前、20前の知識は通用しないよっていう話になっている。

本誌 そうしたことを含めて、ディズニー時代から、いろいろ考えてきたわけですね。

岡崎 そうですね。鈴木代表はそうしたあたり、凄く着目しているし、そういうことが比較的スムーズにできた会社だったと思います。僕はどちらかといったら、今回、新しい組織になったときに、僕の経験から培ったものを分かち合って、理解してもらって、今言ったようなことをみんなに直に感じてもらいたいと思っているんですね。

(全文は月刊「文化通信ジャーナル」08年4月号に掲載)



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