久しぶりに、ワクワクする初日の光景であった。8月12日夜、私は新宿バルト9に赴いた。午後7時30分開映の「ツリー・オブ・ライフ」を観るためである。ワクワクの意味は、中身への期待感がまず大きかった。それと、当然ながら興行のあり方であった。こちらは、通常の映画とかなり異なっているだろうとの予感があったからである。
ビル13階の比較的座席数の多いスクリーンで上映されていた。だいたい7割ほどの入りと言っていいか。まずまずではないか。若い男女が、意外に多い。ただ、新宿バルト9である。ここの集客力は全国でも屈指であり、ここの入りが全国の興行に単純にあてはまることはない。
宇宙的な何か、自然界の何か(何か、なのだ)のような描写の連鎖が、途中から始まった。おお、来たか。と、これが意外に長いのだ。ただ、全く退屈なことはなく、これらの描写は、それまで断片的に描かれてきたテキサスに暮らすある家族のシーンへの渇望の度合いを、逆に増す役目さえ果たしたのである。
ただ、宇宙的な何かが、長い。ひょっとして、テレンス・マリック監督は、このまま突っ走ってしまうのか。それなら、凄いぞ。確実に映画史に残る。といったように、私の期待感は妙な方向にうつろい始めたのだが、まっとうなマリック氏、家族の描写に“無事“帰還してくれたのであった。
宇宙的な何かの描写が終わったあたりで、途中退場者が5、6人ほど出た。私は後ろの席だったので、それがはっきりわかるのだ。退場者で言えば、それからでも2、3人が出て行った。意外に、少ないと言うべきか。皆さん、我慢強いというより、家族の物語が進行するにつれて画面に浮上し始める映画の妙な迫力が、彼らを座席に押しとどめたように見えた。
映画が終了した。エンディングロールが出始めて席を立つ人が相次いだが、しかしそれは通常の映画より極端に多いということではない。最後まで、しっかり座席に座っていた人たちもまたかなりいたのである。
さて、「ツリー・オブ・ライフ」。12~14日までの3日間で、全国動員11万5775人・興収1億4161万5300円を記録した(224スクリーン)。大都市46%に対し、ローカルが54%の興収比率は、完全な都会型であることを示す。さあ、これから、どうなるか。中身のある程度の伝播により、観客は引いていくか。あるいは、違う展開が待っているのか。それはまた次回、お伝えすることにしよう。
(大高宏雄)