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(MPAセミナー)名プロデューサーのデヴィッド・パットナム氏がデジタル時代を語る

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(MPAセミナー)名プロデューサーのデヴィッド・パットナム氏がデジタル時代を語る

2014年11月21日

デヴィッド・パットナム氏.jpg


 『小さな恋のメロディ』や『炎のランナー』などで知られる名プロデューサー、デヴィッド・パットナム氏による講演が10月27日、六本木アカデミーヒルズで開催された。MPAが主催する同講演は、東京国際映画祭の共催企画として実施されたもの。「映画と資金‐終わらないドラマ」と題し、主にデジタル時代における映画業界の変化についてパットナム氏が自身の考えを述べた。(写真左がパットナム氏、右はMPAのマイケル・C・エリス氏)©TIFF



映像配信の拡大を歓迎

 はじめにパットナム氏は「ここ数年で映画を視聴する方法は変化した。デジタルサービスの数が増え、(視聴する側の)選択の幅と質が変わった。これは映画界にとって良い影響を期待できる」と映像配信事業が拡大する現代を歓迎した。自身も30年間、常にフィルム5~6巻を持ち運びして「背中が痛くなった(笑)」とフィルム上映への愛着を示しながらも、映画を観られる環境が広がることを前向きに捉え、「フィルムがなくなっても惜しいとは思わない」と語った。

 ソーシャルネットワークの発達もプラスに働くとし、「かつての口コミが果たしていた役割だが、今はリコメンド(推奨)されることが成功の要だということを映画会社は認識している。ただし、まだほんの一部分に触れただけで、ここからさらに(ソーシャルネットワークの力を)深掘りすることができるだろう。私が大好きなNYタイムズの記者トム・フリードマンは、この10年間で、世界がコネクテッドから“ハイパーコネクテッド(超接続)”に移行したと話していた。初めての産業革命から200年経ち、第2のマシーンの時代を迎えようとしている」などとネット環境が映画界にもたらす好影響への期待の大きさを語った。

 具体的な配信ビジネスの進捗状況として、パットナム氏は米国の配信サービス「ネットフリックス」の成功を挙げる。「ネットフリックスには加入者が3800万人もいる。ドラマの『ハウス・オブ・カード』はここで配信された。今、ネットフリックスの会員は平均で毎日93.2分も視聴しており、四半期ごとの総視聴時間は、11年の第4四半期が10億時間だったのに対し、14年第2四半期には70億時間まで達した。そのネットフリックスの人気コンテンツの1つが『マダガスカル』だ。そのことを考えると、もはや映画は配信と別個のビジネスと見なすことはできなくなっている。(配信期間を含めた)長い時間軸をビジネスの対象にしなければならない」と持論を展開した。


デジタルの進化は興行会社にもプラス

講演後のQ&Aセッションの様子(右がパットナム氏)
パットナム氏と遠山氏.jpg
 一方で、デジタルの進化は興行会社にとっても良い影響があるという。それが、「ODS」として認知が高まってきた非映画コンテンツの存在だ。「バレエ、オペラ、ライブシアター。英国では、それらが年間興収の2%を占めるようになった。その大半が高齢者だ」とシニア層をターゲットにしたコンテンツ開発が成功の鍵を握っているとし、今後の見通しとして「この分野は、2015年には世界興収の5%を占め、2020年には10%までシェアを伸ばすと考えられる」と予想した。

 映画業界人であれば、映画館の客層が配信利用に移行してしまう不安がつきまとうところだが、パットナム氏はさほど心配していないように見える。映画館に足を運ぶ層と、配信を積極的に利用する層は、必ずしも重なっていないという考えのようだ。「米国では、2013年に過去最高の年間興収109億ドルを記録した。映画製作者は、依然としてまずは映画館で公開しようと考えていることに疑いはない。しかし、柔軟性は持つべきだ。映画館で上映されても、配信ユーザーはその作品に気づきもしないかもしれない。また、話題の作品が配信でリリースされなければ、彼らがその作品を観ないか、海賊版に走るだけだ。(正規配信は)それだけ美味しいビジネスの匂いがする」と、配信の拡大は新規の映画ファンを獲得するチャンスであることを強調した。

 また、パットナム氏はこの配信ビジネスの流れを必ず成功に導かなければならないと力説する。音楽と配信サービス「ナップスター」の連携が失敗に終わったことを例に挙げ、「レコード業界は、当時力を持っていた数人がナップスターの利用について合意しなかったために失敗に終わった。映画業界、MPAは、音楽業界の失敗を踏まえて、どういう方向に持っていくのかを議論しなければいけない」とした。さらに、「映画業界はいまや、デジタル、フィルム、テレビ放送の違いが曖昧になっている。もしくはなくなっていると言えるかもしれない。そういった変化に対応できるプロダクト、サービスが反映していくだろう」と先見性や対応力の重要性を説いた。

 講演の後には、遠山友寛弁護士をモデレータにQ&Aセッションも行われ、『小さな恋のメロディ』製作時の思い出話などが語られた。また、日本映画が世界に進出する際に重要な点を問われると「台詞に依存することを避けること。私が『東京物語』を観た時は字幕があったが、言葉のない世界に入り込んだ。台詞は覚えていない。しかし、その雰囲気や家族のことは非常に印象的だ」と、映像で語りかける作品が受け入れられやすいとの考えを示した。 了

登壇者.jpg

©TIFF


 なお、パットナム氏の講演前には、次の関係者・来賓が挨拶した(登壇順)
マイケル・C・エリス モーション・ピクチャー・アソシエーションアジア太平洋地域プレジデントアンドマネージング・ディレクター
椎名保 東京国際映画祭ディレクター・ジェネラル
甘利明 内閣府特命担当大臣(公務により欠席、メッセージを紹介)
横尾英博 内閣官房 知的財産戦略推進事業局 事務局長
キャロライン・ケネディ 駐日米国大使
クリストファー・J・ドッド 米国映画協会会長 兼 最高経営責任者
(写真は、左より横尾、パットナム、ケネディ、ドッド、椎名、遠山の各氏)


取材・文/構成: 平池 由典

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