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CDVJ主催シンポジウム「VRコンテンツのレンタル市場での可能性を探る」レポート

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CDVJ主催シンポジウム「VRコンテンツのレンタル市場での可能性を探る」レポート

2017年06月29日
 日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合(CDVJ)は19日、既報の通り、第33回通常総代会を東京・グランドアーク半蔵門で開催した。当日は、「VRコンテンツのレンタル市場での可能性を探る」と題した記念シンポジウムも同所で行い、VR(バーチャル・リアリティ)ビジネスの現状と今後について有識者が語った。


ツタヤ、ゲオで始まったVRレンタル

 ビデオレンタル店では、すでにVR体験・機器レンタルの試みが始まっている。シンポジウムでははじめに、レンタル市場におけるVRの取り組みについて、クリーク・アンド・リバー社 VRディビジョンの田崎直人氏が説明した。

 田崎氏は、2016年を「VR元年」と位置づけ、プレステVRをはじめ、オキュラスリフト、HTCバイブなど様々なVR機器が発売されているとし、コンテンツ開発会社も増えていると語った。一方、「VRに興味はあるが、機器が高い、難しいというイメージを持っている人も多く、もっと手軽に体験したいと思っている人もいると思う。制作会社にとっても、コンテンツ作りは進んでいるが、マネタイズのハードルが高く、どこに出していいのかわからないというのが現状」と指摘。この背景から、「VRレンタルは可能性を秘めている」とビジネスチャンスが広がっていることを示唆した。また、ビデオレンタル店での取り組みとして、TSUTAYAでは馬事公苑店と中目黒店で試験導入を開始。VR機器のレンタルや、店舗内で体験ブースを設けているという。ゲオでも5月から、ホラーやアダルト作品などで試験導入を始めており、「少しずつ体験者が増加している」とした。

 続いて、CDVJの姫野靖事務局長が、8月より三洋堂書店、ビデオ合衆国USVなど全国20のビデオレンタル店でVRレンタルを開始することも明らかにした。この実験では、中国製のVR機器「DeePoon」に数作品をインストールしておき、2泊で1800円という料金設定で貸し出す予定。レンタル店のコア層でもあり、デジタル難民とも言える中高年層をメインターゲットにするという。


VR事業に企業続々参入、国内普及には課題も

 その後はパネルディスカッションに移り、今春立ちあがった日本VR振興普及協会の桐畑敏春理事、VR動画のプラットフォーム運営やVR映像を制作・配信している株式会社360Channelの中島健登経営企画/プロデューサー、同じくVR映像を制作・配信している株式会社ejeの待場勝利VR推進部執行役員が登壇。司会を、VR専門メディア「Mogura」の久保田瞬代表取締役社長が務めた。

 VRの最新事情について、久保田氏の説明によると、VR機器にはプレステVRのようなハイエンドなものから、スマートフォンをダンボール製のゴーグルに装着して視聴する安価なものまで様々な機種があり、「群雄割拠」の状況。世界での出荷数が公表されているものでは、プレステVRが発売(16年10月~)から半年で100万個、ギアVRは発売(15年12月~)から約1年半で500万個に上っているという。また、これまでにVR事業開始を表明している企業は世界に2000以上も存在しており、マイクロソフト、インテル、LG電子なども続々と参入を表明している。ゴールドマンサックスはVR市場の今後のシナリオをいくつか提示し、最も加速したと仮定するシナリオでは、ハードウェアでTV市場を抜く可能性もあると予測しているという。


VRシンポジウム(1).jpg
司会を務めた久保田氏


 一方、国内でのVR機器の普及は、16年時点で11万台に留まっていると言われ、久保田氏は「価格、取り回しの煩雑さ、在庫、コンテンツ不足など複数の要因が影響している」と指摘。田崎氏と同様に「関心はあるが体験できない層が厚い」と課題を挙げた。なお、VR専用メディア「Mogura」の読者は、25~44歳の男性が圧倒的に多く、アクセス地域も関東が56%、そのうち東京が35%と、現在は都心の男性の関心が高いことを明らかにした。


ジャンルは手探り状態、過去と現在繋ぐ映像も

 次に、日本VR振興普及協会の理事に就任後は、積極的にVRコンテンツを視聴し、すでに100作品は体験したという桐畑氏が、VR映像について「3D映画と比べ没入感、質感が全く違う。私は高所恐怖症なので、高層ビルから飛び降りる映像はパニックになりかけた(笑)。165kmの速球をミットで受ける映像も死ぬかと思った。ジャンルの広がりがあり、ビジネスチャンスが広がっている」と魅力を解説。その反面、「どんどん刺激を求めてエスカレートすると、脳や視力への影響が不安なので、規制はしないといけない」と、今後のルール作りの必要性にも言及した。

VRシンポジウム(2).jpg
左より桐畑、待場、中島の各氏


 VRコンテンツには様々な切り口があり、どのようなジャンルがユーザーに受け入れられるのか、各社とも手探りの状態。待場氏も何が正解かはまだわからないとしながら、「1つ見えたと思った」という作品として、同氏が所属するejeが制作した、15年まで宮城県にあったマリンピア松島水族館の館内のVR映像を挙げた。「この水族館は老朽化と東日本大震災の影響で閉館してしまったが、その前に館内を360度映像で撮影していた。この映像をVRで体験してもらうイベントを、16年1月に宮城で行ったところ、水族館のファンだった人に大変喜んでもらった。過去と現在をVRが繋いだということ。例えば、今の東京を撮影しておいて、10年後に観て楽しむという使い方はあるんじゃないか」と、VRによる今までにない映像の楽しみ方の可能性について語った。

 また、映画業界でVRを利用する例として、中島氏は「映画の記者会見を360度で撮影し、配信するケースが増えている。最初は(撮影するのを)嫌がられたが、今では『どうですか?』とお声掛け頂くようになり、市況が変わってきたことを感じる」と話した。さらに、VRを使い、まるで自分が映画館の座席に座って映画を観ているような感覚も味わえるとし、「例えば、隣の席にタレントが座っている映像を使えば、そのタレントと一緒に映画やTVを観る体験もできる」と、ユニークな利用方法も提示した。


まずは体験が重要、制作の際は配信先も念頭に

 今後、VRが普及していくために必要なこととして、桐畑氏は「ビデオレンタル店で展開するなら、まずは体験させないと話にならない。体験コーナーを設置し、興味を示してもらってから次のステップに行けば良いと思う。デバイスどうこうよりも、まずは体験」とし、中島氏も「タッチポイントを増やすことが重要。レンタル店に行った人が問題なく借りられるようにしたい」とコメント。司会の久保田氏は「ネットカフェなど、大きく(全国で)展開されているチェーンでVRに取り組んでくれている」と例を挙げ、ビデオレンタル店に限らず、既存の店舗に来場する客にVRを体験してもらうことが、普及していく鍵を握っていることを示唆した。

 また、待場氏は制作サイドに対し、「VR映像を制作するだけでは駄目。アウトプット先を考えた上で制作しないと無駄になるので、まずは(中島氏の)360Channelや(自分が所属する)ejeのように、VRのことを話せる企業として付き合って進めてほしい」と呼びかけた。


(取材・文 平池 由典)







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