東映東京撮影所、バーチャルプロダクションスタジオのお披露目会開催
2025年06月06日
東映は5月22日、東京撮影所でバーチャルプロダクションスタジオのお披露目会を開催した。国内最大級のLEDウォールを誇る同スタジオは2023年12月から稼働していたが、公式的なお披露目は今回が初。この日以外にも会を数回設け、多くの制作関係者が足を運んだ。
バーチャルプロダクションとは、LEDディスプレイに映像を投影し、その前で俳優が演技する制作手法。東京撮影所ではすでに映画『【推しの子】The Final Act』や「相棒」、「爆上戦隊ブンブンジャー」、「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」といった作品の撮影での使用実績がある。お披露目会のはじめに挨拶した塚田英明上席執行役員(ドラマ事業部門長、ドラマ企画制作部長、バーチャルプロダクション担当)によると「撮影して頂いた監督たちには『また撮影したい』、『この次の作品ならこういう使い方ができるんじゃないか』といった色々な話をして頂き、実際にまた撮影に来て頂いている」と評判は上々のようだ。
塚田英明氏
同社は2022年10月に東京撮影所にバーチャルプロダクション部を設立。翌2023年には11ステージ内に設備を作り、システムを構築、テストを繰り返し、2023年12月より、『【推しの子】』の撮影を皮切りにバーチャルプロダクションスタジオの運用を始めた。
同スタジオは2つのLEDディスプレイで構成。正面のメインウォールは270度の円形になっており、高さは5m、全周が30m。もう1つは天井のLEDディスプレイで、サイズは12m×11m(分割可)、昇降機能も備える。演者を囲うように配置されているのが特徴で、バーチャルプロダクション部の樋口純一プロデューサ―によると、「ライティングの効果が得られやすく、馴染みの良い映像を撮ることができる」という。
また、撮影所内にあるスタジオのため、大道具、装飾、美術、仕上げなどの各セクションのスタッフがすぐに駆け付けられるのも強みの一つ。樋口氏は「ある作品で、建物の屋上のシーンをこのスタジオで撮影した。実際に屋上のセットを建てて、背景はCG。その色合わせが不可欠だったが、CG側の調整を行い、美術部ではセットに汚しを足したり色を変えたりといったことがその場ででき、非常に効率的だった」と振り返る。
また、外部ソリューションに頼らず、東映所属のスタッフによる運営体制を構築しているため、イチから勉強する必要があった当初こそ苦労したものの、今では相当なナレッジ(知識、知見)が蓄積されたという。国内外のスタッフを有しており、海外案件にも対応できるチームになっている。
スタジオの使用料は1日につき400万円。ここにはリハーサル(1日)、検証、準備に関わるステージ使用料、オペレーション人件費も含まれている。樋口氏は「単にこのステージを1日使うという費用感では割高に感じられるかもしれないが、(撮影)全体の流れで見た時に『スケジュールの圧縮によってコストが圧縮される』という考え方をして頂ければ」とアピールする。例えば1日しかスケジュールを確保できない俳優が、午前中は東京撮影所内の他のステージでセット撮影を行い、午後にバーチャルプロダクション撮影、夕方にアフレコを行うといったスケジュールを組むことが可能となる。ある作品の撮影では、メキシコ郊外の夜の車窓の撮影を、午前中に3時間で撮り終えたこともあるという。
お披露目会ではデモンストレーションも実施。空港の写真や飛行機の模型をもとに制作したという迫力のある羽田空港の映像を背景に、赤色灯を持った航空機誘導員をスタッフが演じ、臨場感のあるシーンを再現した(画像参照)。また、東映所属の俳優・笠兼三と柴田瑠歌も登場し、京都撮影所の映像などをバックに演技を披露。笠は「真夏に冬のシーンを撮影したり、その逆もよくあるが、このスタジオ内だと冷房完備で演技もしやすい」、柴田は「まだ京都の撮影所に行ったことがないが、(今日の映像で)すごく想像できた」と俳優の目線で感じたメリットをそれぞれ語った。なお、バーチャルプロダクション部はスタッフ総出でリニューアル工事開始前に京都太秦映画村に赴いてデータの収集を行い、映画村の旧オープンセット全体の再現にも取り組んでいく考えだという。
空港の映像でのデモンストレーション
展望デッキの映像でのデモンストレーション
庭園の映像でのデモンストーレション
京都太秦映画村の映像でのデモンストレーション
ドラマ「相棒」でバーチャルプロダクションによる車内の撮影を経験した水谷豊もお披露目会に向けてコメントを寄せ、「以前なら牽引車で引っ張って実際に道路を走って撮影していたのだと思うと、目の前のまさに新しい時代の訪れに、心の中で拍手を送る思いでした。特に相棒は長台詞が多いので、これまで俳優にとって車の走りはかなりのプレッシャーでした。その余計なプレッシャーから解放されて自由に芝居が出来ること、そしてこれは車の走りに限らず様々な場面、特に危険を伴う撮影など、俳優そして撮影チームにとっては願ってもない環境です」と絶賛する。
木次谷良助氏
イベントの最後には木次谷良助上席執行役員(東京撮影所長、バーチャルプロダクション部長)が挨拶。「うち(バーチャルプロダクション部)のクルーは18人だが、その中にはILMから来て頂いた方もいる。需要のある背景素材をいっぱい作ろうと今取り組んでいる」と話し、「(撮影の)期間と予算圧縮、それと企画の幅が広がると思う。今日いらっしゃった方はプロダクションの方が多いと思うが、クリエイターや監督も連れて、また改めて来て検討して頂ければと思う」と呼びかけた。
取材 平池由典