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トップインタビュー:角川春樹(株)角川春樹事務所特別顧問

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トップインタビュー:角川春樹(株)角川春樹事務所特別顧問

2007年03月27日


“血”を残そうと決心した
 文化を持って世界制覇を目指すと宣言
 新しい角川春樹映画の時代到来か!?

 昨年、「男たちの大和/YAMATO」(東映配給)が興収51億円の大ヒットを記録し、復活を果たした角川春樹氏。その春樹氏の復帰第2作「蒼き狼 地果て海尽きるまで」(松竹配給)が、いよいよ3月3日(土)より全国で超拡大公開。
 作品は、構想27年、総製作費30億円、モンゴル政府全面協力の下、4ヶ月にわたるオール・モンゴルロケを敢行した、日本映画史上空前のエンタテインメント超大作。モンゴル軍兵士5千名がエキストラで参加した騎馬隊による激しい戦闘シーンや、エキストラ2万7千人を動員して撮影した即位式など、近年の日本映画にはない空前絶後のリアルなスペクタクル映像は圧巻。
 ハーンを「男たちの大和」でも熱演を見せた反町隆史が演じ、新たな映像製作に意欲を見せるエイベックス・エンタテインメントの千葉龍平氏が、春樹氏とタッグを組んで製作を務めた。「なぜ、チンギス・ハーンだけが“史上最大の帝国”を創る事が出来たのか?」。その謎の答えは、春樹氏が“映画の志”を込めたこの作品の中にある。春樹氏=ハーンが描きたかったものとは何か、真実がいま明らかになる―。

■映画には熱き“志”が大事

―― 迫力のスペクタクル映像と共に、ドラマ的にも胸を熱くさせる作品に仕上がっていました。でも同時に、この作品はまさしく春樹さん自身の映画だと感じました。かなりの手応えを得られているのではないですか。

角川 映画の編集権というのは監督にあるものだけど、角川春樹製作の映画だけは編集権は私にある。映画というのは最終的には興行という面も大事なわけで、だから出来上がって「手応えは?」というのはあり得ないんだよ、作っているのは自分だから。実際、即位式だけでなくかなりの部分を私が監督してしまっているんでね。私は映画の脚本から演出、編集、さらにTVスポットから予告編、ポスターの一枚、スタンディング、新聞広告のコピーに至るまで全てをチェックしている。
 自分は67本映画を撮っている。最高傑作はその時代によって選べるが、興行的には「男たちの大和」(以下、『大和』)がある。自分の映画はエンタテインメントだから、決して純粋な映画、純文学に対して“純映画”という言い方しているが、純映画に関心はない。自分は影響を与えることが出来る作品を作らなければいけない。何よりもプロデューサーの資質として大事なものは、“志”が熱いということだからね。
 
―― 春樹さんの言う“映画の志”とはどういうものですか。

角川 売れている原作、コミックの映画化、人気のある男女のベストテンの中から主役を選んだ映画、CDを出せばトップ3に入る、売れているアーティストを使う映画、それらは企画とは言えない。また、テレビ局の出資と無料スポットを利用する、これも企画とは言えない。テレビの時と全く違った質感があれば別だけど、最近はテレビでヒットした番組をスクリーンでやる、視聴率が高いから映画化しましたというのがほとんど。そんなものはDVDで十分。そんな映画に“底力”なんかなくて、俺は映画を舐めていると思っている。もちろん、それはマーケットという考え方のごく普通の常識論なんだけど、それと正反対にこの「蒼き狼」はある。テレビ局は使わない、スポットは自前、「大和」に至っては1億5百万円自分で払っているからね。それはこの映画を作るという志を持っていたからだ。この前、渡辺謙が「硫黄島からの手紙」(WB配給)でキャンペーンに行った所へ、ビデオメッセージを送ったんですよ。で、私の映像が出た瞬間に彼は立ち上がって、直立不動でその映像を見て、終わってから深々と頭を下げて、「角川さんは映画の底力を信じています」と言った。
 先ほど言ったマーケット理論も含めて、表現方法のツールとして確かに映画ではあるが、テレビドラマを映画化した映画には、底力はないではないか。映画の底力を持つ映画を作るということは、プロデューサーとしてまず最大の任務だと、プロとして思っている。これをきちんとやれる人間が日本に何人いるのか?シネカノン代表の李(鳳宇)もやっていますよ。それは感じる。彼はゲリラ戦だけど、隙間をすり抜けながら勝つということをやっている。彼は映画界のゲリラ隊の隊長みたいなもの。俺は将軍として全軍を率いて打ち破るというタイプ。じゃあ俺や李以外にそういうプロデューサーがいるかといったら、いないんだよ。

■松竹・迫本社長の約束

―― 昨年のインタビュー(本誌06年5月号参照)で、東宝と松竹に企画を持ち込みながら、迫本(淳一)社長の意気込みを買って、松竹に決めたと言っていましたが、実際、公開へ向けた松竹の取り組みはどうでしたか。

角川 今回は宣伝・営業・興行が三位一体になって燃えている。松竹がここまで燃えたのは初めてじゃないかな。迫本さんは約束したことを守った。「踊る大捜査線 THE MOVIE2」(東宝配給/04年)が408スクリーンだったから、本作の425スクリーンというのは今までの日本映画の最高で、今回は11週間の契約になっている。最初の契約は350スクリーン以上だったんだけど、洋画系で配給するから、日本映画の興行としては最大規模になった。宣伝費は8億円で、追い広告を当然するので、10億円くらいにはなる。これも日本映画としては最大だろう。これは作品が駄目だったら成り立たないんですよ。例えば、中身がつまらなくて宣伝費をかけて、スクリーン数をとった映画というのはあるが、昨年、洋画の「キングコング」(UIP配給/興収23・5億円)は「大和」とぶつかって、結局、その劇場を俺に取られていくわけだよね。だから、動員できる力となると、それだけ中身が問題になってくる。
 今回の戦い、425スクリーン、宣伝費10億円、そうなった時に、他が大作を持ってきたって、コテンパンに「蒼き狼」に食われてしまう。逆に3月の興行で、成功させる方法はゲリラ戦しかない。宣伝費も1億円以内で、それでいて面白い映画で、ゲリラ戦で劇場取りをする、ゲリラ戦で勝っていくという。もちろん興収では及ばないが、それは勝ったと言える。で、結局、3月中に大作は全部外れてしまった。だから、425スクリーンからだけど、もっと出る可能性もあるんだよね。これはもうとにかく、一方的に3月、4月、GW明けまで突っ走って、本当に草も生えないというくらいに他をなぎ倒さなければいけないと思っている。

■自分の後に来る製作者

―― 不良精神で相通じるものがあって、本作からタッグを組んだエイベックスの千葉さんは、春樹さんにとって真の“ハサル”(ハーンの実弟の名)となり得たのでしょうか。

角川 ハサルにならんと彼はしているし、ハサルとしてついて行こうとしているのも事実。ただ、エイベックスとしてもかなりやっている方だろうが、発狂するまでにはみんなまだなっていないんですよ。発狂するというのは、価値観がもうそれしかないという状態にならないといけない。会社全体がこれを当てることが全てなんだという状態にならなければいけない。つまり、出資しましたということだけでは成り立たない。チケットだってうちは10万枚完売しようとしている。エイベックスは2万5千枚は売ることが出来たというが、それでは駄目で、きちっと内部に前売券の販売の責任者を決めて、そしてその人間から各部署に5万枚を割り当ててやっていかなければいけない。それでもうちの半分だよ。それじゃあエイベックスとうちが戦ったら負けますよ。そこがスタートライン。
 映画を作るという上での問題点を彼には教えた。規模的にはうちよりも遥かに大きい一部上場の会社だけども、映画を作るということに関しては、正直言って素人だった。ただ、映画というのは、映画界に入っていると見えないものがあり、素人だからゆえに見えるものがある。ましてや彼らは映像事業を積極的にやろうとしている。それでこれまで約30本に投資しているが、そうするともう素人であることは許されない。この世界で利益を上げなければいけない。であればもっとプロとしての意識を与えたいから、こういう風にして欲しいということは言った。で、それは何故かと言えば、自分の後に来る製作者を育てようという意識もあったからだ。

―― エイベックスは、アジアを代表するジョン・ウー監督の中国映画「赤壁 Battle of Red Cliff」(仮題)に製作出資することを昨年末発表しました。

角川 アジアに向けて相当積極的に動いているのは、彼でないとなしえないもの。こういう動きはまさにハサルの役割を果たしている。彼は、俺よりも20歳以上若い。どういうことを受け取ってくれているかというと、映画というのはビジネス・スキームだけではない、“志”なんだということをわかってくれた。彼はこの映画を通して相当学びましたよ。アジア戦略に関して俺より先に目をつけ、志としてアジアのマーケットを獲って、世界で通用するものを作るんだという考え方は正しい。まだまだ私の求めるものはあるが、ハサルの役割を彼なりに果たしているし、日本国内に俺の教えを受け継げるのは彼しかいないな。



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