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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.63】
「ヒミズ」、映画業界の異様な関心に思うこと

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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.63】
「ヒミズ」、映画業界の異様な関心に思うこと

2012年01月17日
 昨日の1月16日、映画の宣伝スタッフとマスコミ関係者による新年の会が催された。毎年、この時期に恒例の“行事“なのだが、ここでいつもキネマ旬報のベスト・テンが発表される手はずになっている。発表といっても、同誌の編集者がマスコミ関係者らに、決定したベスト・テンや個人賞を記載したペーパーを配るだけなのだが、それを見ながらああでもない、こうでもないと、会場で皆が話をすることが、こちらも年明けの”行事”になっているわけである。

 昨日も同様のことがあったのだが、それはともかくとして、私が何人もの方と話をして一番話題になったのが、実は公開されたばかりの園子温監督の「ヒミズ」に関することであった。私がそのように仕向けたこともあるが、びっくりしたのは私が話したなかで、試写で見た新聞記者を除いて、配給関係者の3人ほどの人がこの土曜日か日曜日に、その作品を見ていたことだった。

 私は、見て当然の職業的な記者や映画評論家のことを言っているのではない。見なくても一向に構わない映画業界の方々が早々に見ていたことの重要性であり、この関心のあり方のなかに、「ヒミズ」という作品の今の位置づけがある気がしてならない。それは何かと言えば、これまでの邦画にはない何か。それは、いったい何なのか。園監督作品とのつながりのなかで、それを早く見ておきたいということではなかったかと思うのである。

 「ヒミズ」は、79館でこの1月14日から公開され、2日間で動員2万5922人・興収3524万0400円を記録した。参考になるのは、同じ監督の「恋の罪」の興行であろう。「恋の罪」は、昨年の11月12日から公開され、2日間で8383人・1269万3750円を記録した(19館)、単純に言って、約4・2倍の公開館数で約2・8倍の興収を記録したことになる。これだけ見れば、少し物足りないとの見方ができる。

 劇場別では、「恋の罪」のテアトル新宿が1727人・294万3700円(2日間)。「ヒミズ」の新宿バルト9が3044人・503万8800円(2日間)。後者のほうがキャパシティが大きいこともあるが、これは健闘と言っていい。この2つのデータから読み取れるのは、本作が明らかに都会型の興行であるということだろう。

 話を戻す。映画業界で話題になることと、実際の興行の成果が上がることとは別ものである。当然のことであるが、ただ、その業界内的な話題性の広がりは、興行にとってはとても大切な意味をもつ。それは映画への関心が、監督の存在や、映画そのものから広がっている場合が多いからだ。だが、一般的にはそれが今はまだできていない。「ヒミズ」の興行は、そうしたことを私に想起させたのだった。

(大高宏雄)

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