長年、声優として活躍してきた水島裕が、9月27日放送のFM NACK5「青春もぎたて朝一番!」(前6・30〜)、翌28日放送のニッポン放送「青春の勲章はくじけない心」(後18・20〜)にゲスト出演する。今回、水島の出演は「青春の勲章はくじけない心」で森田健作のアシスタントを務める西村知美の希望だったというが、番組で水島は70歳を迎えてなお挑戦を続ける現在、さらに次世代の声優を育てることへの思いを語っていた。
人の人生を変えるのは、大げさな言葉とは限らない。
「楽しいより、面白い」
声優の水島裕が70歳の古希LIVEで口にしたこの言葉が、西村知美の心を動かした。
2人の付き合いは約40年になる。その始まりをたどると、やはり「声」だった。
1986年、西村のデビュー映画「ドン松五郎の生活」のドキュメントビデオでナレーションを担当したのが水島。その後、西村が20代のころ、シンガーソングライター、さだまさしが毎年8月6日に出身地の長崎・稲佐山で開催してきた無料の野外コンサート「長崎から…夏」で再会し、交流が深まった。いつしか仕事だけではなく家族ぐるみの付き合いとなり、西村の娘も水島にかわいがってもらっているという。
40年近く前、西村の芸能生活のスタートを水島の「声」が彩った。そして40年後、今度は水島の「言葉」が西村の背中を押した。
今年3月、西村はデビュー40周年ライブに挑戦した。本人いわく、歌は決して得意ではない。それだけに不安もあった。そんな時に思い出したのが「楽しいより、面白い」だった。
楽なことを選ぶより、難しいことに挑戦する。できなかったことができるようになる。その過程まで含めて人生を「面白い」と考える。西村はジグソーパズルに例えた。難しいからこそ、完成した時の喜びが大きい。だったら苦手な歌から逃げるのではなく、向き合ってみよう――。
長い付き合いだからこそ、言葉の重さが違ったのかもしれない。
興味深いのは、70歳を迎えた水島が今、同じようなことを子どもたちにも伝えていることだ。所属する「81プロデュース」で、小学生のための声優養成クラス「81キッズ」の代表講師を務めているのである。水島が子どもたちに求めているのは、意外にも「上手くなること」だけではない。
子どもの声には「無敵さ」や「不思議な魅力」があるという。
水島自身、13歳で「くまのプーさん」のクリストファー・ロビン少年を演じた経験を持つ。長い声優人生を送ってきたからこそ、大人の声優のほうが技術的には優れていることも知っている。一方で、技術だけでは生み出せないものがあることも知っている。
子どもにしか出せない声。計算していない感情。上手いか下手かという物差しでは測れない、その人だけの何か。だから水島は子どもたちに「上手くなってください」とは言わないという。
好きな歌手を思い浮かべてみれば分かりやすい。必ずしも「一番歌が上手い人」を好きになるわけではない。その人の声、その歌に込められた思い、その人にしかない雰囲気に心をつかまれる。
声優だって同じだ。
技術を身につけることは大切だが、それ以上に「自分にしかないもの」を見つける。これは声優教育というより、人生の授業に近いのかもしれない。水島が子どもたちに「使わないほうがいい」と話している言葉がある。
「別に」
何を食べたい? 「別に」
どう思った? 「別に」
便利な言葉だ。しかし水島は、それを「自分の心を探さなくする言葉」と捉えている。自分は楽しいのか、悲しいのか、悔しいのか。それを探そうとしなくなれば、心は動かなくなる。「一番怖いのは何も感じないこと」という。なるほど、これは声優だけの話ではない。心が動かなければ、表現も生まれない。そして心が動くから、人生にも色がつく。
考えてみれば、「楽しいより、面白い」と「『別に』と言わない」は、まったく別の話に見えて、根っこではつながっている。
難しいことから逃げず、心を動かす。うれしいことだけでなく、悔しいことや悲しいことも感じる。だから人生は豊かになる。
70歳になった水島裕が子どもたちに伝えようとしているのは、声優になる方法だけではないのだろう。
約40年前、水島の「声」はデビューしたばかりの西村知美と出会った。その西村は40年後、水島の「言葉」に背中を押され、苦手だった歌に挑戦した。そして今、水島は未来の声優を目指す子どもたちに問いかける。
「あなたにしかないものは何ですか?」
答えはすぐには見つからないかもしれない。だからこそ面白い。水島裕が70歳になっても選び続けているのは、きっと、そんな人生なのだ。
(渡邉裕二)