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インタビュー:ティ・ジョイ 紀伊宗之氏/モンブラン・ピクチャーズ 平田武志氏

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インタビュー:ティ・ジョイ 紀伊宗之氏/モンブラン・ピクチャーズ 平田武志氏

2012年09月25日
――具体的にはどういうことでしょう。

「放課後ミッドナイターズ」ポスター.jpg紀伊 今までは宣伝費を消費するだけであった「メディア」ですが、これもビジネスにしていこうという考えです。宣伝材料をコンテンツにしてしまって、そこからお金を生み出そうと。『放課後ミッドナイターズ』はもともと短編向きのコンテンツなので、劇場用長編の制作と並行して短編も制作し、「メディア」に乗せてしまおうと思ったのです。予告編ではなく、あくまで新作の短編、コンテンツとして、ティ・ジョイの劇場で映画の上映前に放映するのです。これなら、劇場版『放課後ミッドナイターズ』の宣伝になるけれど、いずれDVDや放映権などを販売してビジネスにすることもできる。合わせてグッズの販売をしてもいいでしょう。ただ宣伝費を消費するだけでなく、ビジネスもしながら公開を迎えようと考えたのです。

――テレビ局がドラマを制作し、DVDやグッズ販売を行い、最後に映画化に結びつける、というビジネスを連想させますね。

紀伊 それを映画館でやってしまえるんじゃないか、ということです。でも映画館ではドラマのように1時間の枠は使えないので、短編を使ってできるのじゃないかと。

――では、実際に短編は長編公開のかなり前から上映したのですか。

紀伊 「半分できた」という感じですかね。約2ヵ月前から短編の上映を始めたのですが、本当は半年や1年ぐらい前からやり出すのが理想でした。このアイデアはもう3年ぐらい前から話し合っていたのですが、色々スケジュールに狂いがあり、ちょっと遅れが出てしまいました。でも、短編6本を収録したDVDを公開当日から劇場で1000円で販売したところ、あっという間に1000枚ぐらい売れました。この映像は劇場でも放映していたし、ニコニコチャンネルでも無料で配信していました。それにも関わらず購入してくれる方がいる。劇場でもDVDが売れることを痛感しました。ここに新しいビジネスの息吹を感じましたね。


CGアニメ&モーション・キャプチャーだからできた試み

――短編は全部で12本制作したと聞きましたが、全て劇場で放映したのですか。

紀伊 やりました。1本1週間ずつ。計12週間です。このビジネスを進める際、CGアニメとモーション・キャプチャーはすごくフィットしました。

「放課後ミッドナイターズ」4.jpg平田 これがセルアニメだとできないのです。新作をもう一度描かないといけないので。『放課後ミッドナイターズ』はCGアニメなので、背景やキャラクターなどのデータが全部存在し、それを流用すればいいのです。もちろん、モーション・キャプチャーで新しく役者さんに演じてもらうのですが、その動きをデータに当てはめるだけで作ることができます。だから、短編は週に1本のペースで完成させていきました。作り始めたのは放映が始まる1ヶ月くらい前からで、そこから毎週ピストンピストンで作っていきました。

紀伊 その12本をティ・ジョイでは全部の映画の上映前にやりました。大好評ですよ。特に、ソーシャルメディア上で盛り上がって、映画のヒットを後押ししました。でも、みんなその短編を「映画の予告編」だとは思わず、一つのコンテンツとして楽しんで、ファンになってくれました。「予告編」は宣伝物なので、お客さんは「宣伝」と見破ります。今のオーディエンスはなかなか宣伝には反応しません。「何これ?」と興味をそそるものでないと。

――それは、他社がそういったコンテンツを作ってもティ・ジョイで受けますか。

紀伊 映画と全く関係ないものだったらやりませんよ。でも、そこにつじつまと理屈があれば、もちろんしっかりやらせてもらいます。すでに実写では例があります。昨年11月に公開した『電人ザボーガー』(キングレコード+日活)で、井口昇監督とキングレコードの大月(俊倫)さんにお願いして、全13話のショートコンテンツを作り、公開前に劇場で放映しました。それによって、『電人ザボーガー』への仕切りを下げようと考えたのです。その短編はのちにDVDの特典映像に収録されていました。いつも色々な会社さんに提案するのですが、もっと柔軟にこういった取り組みを実施するべきだと思います。せっかく良い俳優さんが出演しているのですから。

――先程、ニコニコチャンネルで無料で短編を配信したとおしゃっていましたが、DVDの販売前からそれを行うのは珍しいですね。

紀伊 お客さんにとって「価値があるものになる」までと、「すでに価値のあるもの」には大きな違いがあります。『放課後ミッドナイターズ』のキャラクターは、価値が上がる前でのプロセスだからやれたわけで、ジブリ作品のようにすでに価値のあるものでは同様のビジネスはできません。完全オリジナルの新作は、失敗するリスクも大きいのですが、そうやってみんなに勝手に観てもらって、楽しんでもらうことで、リスクを減らしていけると思っています。逆に、みんなに知られる前から肖像をコントロールしても仕方ないでしょう。無料配信したのはニコニコチャンネルだけですが、後にユーチューブでも勝手にアップされていました。でも、まずは知ってもらうことが大切なので黙認しています(笑)。

「放課後ミッドナイターズ」3.jpg平田 劇場で売り出したDVDも、コピープロテクトをかけてないのです。自由にコピーしてくださいと(笑)。制作側としては、コンテンツをあまり過保護にすると儲からないと考えています。でも、もちろんこの短編もお金に換わる貴重な商材なので、バランスの取り方が非常に重要だなと思います。なので、無料配信の場はあまり広げず、DVDを発売する時点では無料配信の本数は減らしたり、微妙なさじ加減でやっています。
 あと、キャラクターを劇場で自由に使えるようにもしました。パネルを使って勝手に吹き出しを作ったり。T・ジョイ博多のスタッフからは、劇中に出てくる「ハエ」のデータが欲しいと言われ、何に使うのか聞いてみたところ、「男の子の小便器の的にさせてください」と。普通の制作会社のプロデューサーなら怒るでしょうが、自分は面白いなと思ってデータを送りました(笑)。

――ちなみに『放課後ミッドナイターズ』はいつまで上映予定ですか。

紀伊 新宿バルト9では1年間ロングラン上映します。いつでも見られる、という作品があってもいいんじゃないかと思いまして。

――今後のスケジュールはいかがですか。

紀伊 続編の製作はすでに決定しており、短編も今後どんどん作っていこうと考えています。でも、スケジュールは未定です。

――この映画は、日本と同じ公開日に、韓国、香港、台湾、シンガポールでも公開するなど、海外展開も視野に入れていますね。

紀伊 日本の人口が減り、市場が縮小しているのですから、映画会社がアジアに進出することは当然だと思います。しかし、小売屋として世界に出ていくのは非常にハードルが高い。なぜなら、小売屋というのは、世界中どこに行っても現地の人がやるのが1番いいからです。映画館運営だって、資金と機材さえあれば現地の人ができることです。だから、日本の興行会社がアジアで映画館を作るのは、一つの選択肢であり間違ってはいないと思いますが、費用と手間がかかり、労力に見合わないと考えています。
 しかし、コンテンツは別です。ティ・ジョイは「コンテンツのサプライヤー」として、アジアへの進出を積極的に進めています。例えば、韓国は年間の興収が1600億円ぐらいあります。そこでビジネスをしようと考えるのは当たり前のこと。しかし、日本の映画会社の多くはなかなか腰を上げない。例えば、九州の人口が倍になったら、みんなそこに一生懸命行くでしょう。それと同じです。今後は、他の国が何を望んでいるのかしっかり掴みながらコンテンツを制作することが重要になってくると思います。 了



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