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奥山和由氏が語る“沖縄”と“吉本”の無限の可能性

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奥山和由氏が語る“沖縄”と“吉本”の無限の可能性

2013年04月16日

奥山和由氏.jpg

 第5回沖縄国際映画祭が終わった。吉本興業が主導する国際映画祭は“ラフ&ピース”の合言葉のもと、多彩な映画だけでなく、映像、お笑いなどありとあらゆるエンタテインメントが混在、どこから取材してよいか戸惑うほど雑多だ。


 しかしそれが魅力だ。東京から遠く離れた南国に集った俳優、タレント、スタッフ、そして42万の観客はみんな笑顔。自然と自分も笑っている。こんなに笑顔あふれる映画祭は、世界でも稀有ではないか。沖縄国際映画祭には無限の可能性がある。

 ただ“国際映画祭”である以上、なんでもありというわけにもいかない。魅力はそのままに、映画祭として上手く整理する必要がある。その役割を担うのが、奥山和由氏(チームオクヤマ)。今年からエグゼクティブプロデューサー(EP)として加わった。

 映画と映画業界の表も裏も知り尽くす男が意気込む。「沖縄国際映画祭を、アジア、世界に通ずる新人クリエイター発掘の場にするんだ」。ありったけの思いを語ってくれた。


<内側から見た沖縄国際映画祭>

▼昨年まで沖縄国際映画祭を遠巻きに眺め、奥山氏は思っていたという。「隙間だらけだけれど、今の他の映画祭に足りない柔軟性、活力がある。ここなら理想の新人発掘ができるんじゃないか」。実行委員長を務める大崎洋・吉本興業社長と思いが合致し、昨年11月EPとして招かれた。

 すでに第5回目の開催方針がある程度固まっていた時期でもあり、過去4年の実績も尊重し、メインコンペなど映画祭の本丸に大きくメスはいれなかった。全体に助言しながら、8日間の会期をじっくり内側から見守った。


沖縄国際映画祭イメージ.JPG


―初めて内側から見た沖縄国際映画祭。どのように見ましたか?

奥山 やっぱり大きなチャンスもつ映画祭だなと再確認しました。沖縄の温暖な気候にも包まれて、圧倒的なエネルギーの塊ですよ。

 だけど、こういうと語弊はあるけれども、やはりディレクション面でもっと改善すべきところがあるなと。もっとディレクションがうまくなると、アジア全体まで目を広げてみても非常に稀有な、実現度の高い才能開発ができる映画祭になると実感しました。

―メインコンペ(Laugh部門/Peace部門)も、もちろんすべてご覧になったと思います。

奥山 テレビ局と作る映画(沖縄国際映画祭はテレビ各局と吉本興業がタッグを組んで製作した映画がコンペに出品されるのが慣例)はすごく難しいですね。テレビ局が難しいってことではありません。制作期間だとか、出資のことだとか、監督の人選だとか、そもそもの姿勢だとか、僕が知っている映画の呼吸の仕方とは違うなと。

 ひとつの発想として、どんな人でも映画が作れるんだという視点は正しいし、新人開発としても良いチャンスなんだけれど、一歩間違えるとどんなものでも映画になってしまう危うさがありますよね。全否定しているのでなく、これからどう調整していくかですね。

 メインコンペには、リストからこぼれていた中から、僕の強い希望で入れてもらった作品もあります。逆にテレビ局と作った映画でも、落としてもらったものもあるし、企画段階で中止してもらったものもあります。映画祭全体に言えることだけれど、来年からはもっとボーダーを高くして、ふるいの目を細かくしてやっていかないといけないと思っています。


<新人開発「クリエイターズ・ファクトリー」設立>

▼奥山氏が大崎氏と一致したのは、新人開発という視点。これに関しては、奥山氏はEP就任後即、動いた。新たなコンペ「クリエイターズ・ファクトリー」の設立。映像カテゴリー・ジャンル、プロ・アマ、上映時間、プレミアなど一切問わない、沖縄国際映画祭の包容力があってこその試み。自ら審査員を務めた。

―クリエイターズ・ファクトリー設立の経緯は?

奥山 メインコンペに出品するテレビ局の方々にも再三お話したんですが、沖縄で上映することがゴールであってはいけない、沖縄をスタートにして興行ベースでヒットを目論む映画でないといけない。世界に通ずる新人、要は“第二の北野武”を沖縄から生まなきゃいけないんだと。それを強調するなかで出てきたのが「クリエイターズ・ファクトリー」です。一切の縛りをとっぱらって、沖縄国際映画祭発で新人を発信するジャンルをひとつ作りましょうとなったんです。

 映画祭って才能を見つけ出してそこからヒット作が生まれたり、それまでまったく人の目に触れなかった作品が賞をとって一躍陽の目を浴びたり、そこですよ。それが今までの4回の沖縄国際映画祭では踏み込み切れていなかったところで、クリエイターズ・ファクトリーで踏み込んでいくんです。


クリエイターズ・ファクトリー表彰式.JPG


―第1回目の感触はどうでしたか?

奥山 138本の応募があって、正直言って中には高校生の文化祭でやってくれよというレベルのものもありましたよ。でも一方で、これはすげえなという作品、こいつと一緒に仕事したいという人材を何人も見つけることができたんです。

 そのすげなと思わせられる作品の作り手たちは、いわゆるメジャーの方面とは真逆に存在しているんです。そして、映画のキーワードとして“自由表現”という言葉を信じているんですね。

▼自由表現―これは沖縄国際映画祭を語る上でも重要なキーワードだ。奥山氏は「大崎さんは映画を語るタイプではないけれど、映画に何をイメージするかという話をしたとき“自由表現”という言葉が出てきた。私の考えと完全に一致した」と言う。

 沖縄国際映画祭は自由な表現の場。クリエイターにとっては理想郷で、可能性は無限大。しかしだからこそ、エグゼクティブプロデューサー・奥山氏のハンドリングが重要になってくる。

―大崎さんは、沖縄国際映画祭を映画だけに限定するのでなく、あらゆるコンテンツを網羅するイメージで考えているようです。奥山さんは映画の人。そこでズレは生じたりしませんか?

奥山 私も、映画という表現に閉じこもりたいんではないんです。根本は大崎さんと一緒で、発信していく人間そのものに興味があるんです。

 本来、どんな発信、人間であっても社会に受け入れられるべきで、そういう人たちがより表現しやすい場として、映画というものがあったはずなんだけれど、いつからか既得権益によって、それがしにくくなった。であるなれば、映画だけでなく、他のメディアも全活用して、魅力的な発信ができる人たちを生かしたい、生き生きさせていきたいんです。だから、クリエイターズ・ファクトリーも映画に限定していません。

―映画にこだわらないことで、結果的に才能あるクリエイター、ひいては良い映画が生まれる土壌となるわけですね。
 
奥山 才能ある作り手であれば、吉本興業の体力を活用して創作していくことができるという道を明確に打ち出したいんです。そのためには、しっかりふるいにかけることが必要。つまりしっかりしたディレクションですね。

 今の沖縄国際映画祭は、吉本興業の懐の深さが人の良さになってしまって少し混乱してしまっているところがある。それを少しだけ交通整理してやると、「日本にもカンヌ映画祭のような映画祭を作って、そこから才能を生み出す」という大崎さんのそもそもの考えに、必ず近づいていくはずです。


<魅力を損なわず課題をクリアする>

▼しかしながら、ラインナップはこのままで良いのか、審査員はどうするのか、部門は多すぎないか、静観する東京との距離感…など、カンヌを沖縄で体現するための課題はたくさんある。

 第5回は、奥山氏がワーナー・ブラザース映画(WB)との橋渡し役を務め、オープニングを話題作『ジャックと天空の巨人』が飾ったほか、歴代WBのヒット作の上映も実現。メインコンペ審査委員長も、ジョエル・シュマッカー監督を招いた。

―WBだけでなく、邦画3社(松竹、東宝、東映)含め他の大手映画会社にアプローチする考えは?

奥山 文化通信社さんだから、業界視点でものを考えられるのは当然なんでしょうけれど、そういう映画祭は東京国際映画祭で十分なわけで、それが沖縄に移動しましたでは意味がないでしょう。
 
 既得権益のない“自由表現”のなかで、メジャーでは不可能な才能開発をやる場が沖縄国際映画祭なんです。もっと言えば、東京の大手会社が出品したいと思えるような映画祭にしてやろうという考えです。
 
 今回のWBに関しては、(ウィリアム・)アイアトン社長にそういう考えを伝えた上で「一回遊びに来ませんか?」とオファーしたら是非にと言ってくれました。WBはローカルプロダクションの作品を見ていても、柔軟でスピード感があって、沖縄にはフィットするんじゃないかとお誘いしたんです。

 沖縄国際映画祭のアイデンティティが壊れない限り、特別にマイナーにこだわるわけじゃないし、メジャーに背をむけるわけでもない。言ってみりゃ「そんなの、どうでもいい」のです。この姿勢は大崎さんとも一致しています。

奥山和由氏2.JPG


―大手会社に限らず、東京のエンタメ業界は沖縄国際映画祭を静観しているように感じます。この距離感、ギャップについては?

奥山
 この状況が良いか悪いか、それはまだまだ結論が出せないですね。私もEPとして1回見ただけ。冷静に考えて、将来的に修正していく方法論があるかどうか、そもそも修正する必要があるのかということもあります。

 ただ、なぜ東京の目が沖縄に向いていないかといえば、それは過去の映画祭からヒット作が生まれていないから、その1点に尽きるでしょう。そこを突破できれば、沖縄を無視できませんよ。そのために、ディレクションをしっかりやって、優れた新人をどんどん沖縄から輩出します。

―メインコンペが2部門あり、回を増すごとにコンペも増え、そこでも新人がメガホンをとっていたりします。全体の部門の整理も必要では?

奥山 とっ散らかっていると言いたいんでしょう?(笑) やはり一般論としては、整理すべきだと思いますよ。ただ、それがどうして立ち上がったのか、さかのぼってみるとともに、それぞれの思いをきかないと、単にとっ散らかっているから整理しようとは言えません。

 各所に柔軟に耳を傾けて、真剣に各部門・作品を見て、それでようやくどうしようかということです。映画祭は生き物です。過去4回とはいえ、DNAがある。昨年11月に参加した私も、スタッフとともに喜び、痛みをわかちあえるようになり、計算違いも冷静に見られるようになって、5月か6月くらいに来年はこうしましょうよと初めて大崎さんに言えると思うんです。


<新機軸「katsu-do」レーベル開始>

▼奥山氏の肝いりで設立した新部門「クリエイターズ・ファクトリー」は、長編映画『おだやかな日常』をプロデュース・主演した杉野希妃が、 最優秀ニュークリエイター賞と女優賞をダブル受賞して第1回目が終了した。

 奥山氏が「映画の原点をすごくよくわかっている」と手放しで絶賛する、杉野の次回作は、吉本興業がバックアップすることが決まった。

―クリエイターズ・ファクトリーで発掘した優れたクリエイターの次回作は吉本興業が資金援助していくのですね?

奥山 そうです。映画って総合芸術だから、プロデューサーや監督が牽引する映画もあれば、俳優やカメラマンが引っ張る映画もある。クリエイターズ・ファクトリーって、要はそんな才能、一緒に仕事をしたい人を探す場です。そのお金は、大崎さん自ら「よろこんでバックアップしたい」とおっしゃっていただいた。

 クリエイターズ・ファクトリー発の映画には、ブランディングの上で「katsu-do」とアバンタイトルをつけます。映画をかつて“活動大写真”といった。そこからとったもので、今の映画界が失いかけている、映画本来の自由闊達な空気を表現するレーベルにしたいんです。

  このタイトルを、芸人の鉄拳がパラパラ漫画で作ってくれたんですよ。吉本興業のマークにするというのもあったんですが、どうしても喜劇、お笑いのイメージが先行してしまうところがありますから、別にしました。

―まさしく、沖縄国際映画祭がゴールでなく、スタートになるわけですね。

奥山 「katsu-do」は間違いないね、沖縄国際映画祭は間違いないねと、映画ファンにそういう信用を抱いてもらいます。クリエイターズ・ファクトリー受賞者が吉本興業のバックアップをうけて作る映画はもちろん、優れた応募作でまだ劇場公開されていないものであれば、「katsu-do」レーベルとして公開することもあるかもしれません。

 配給会社としてのアバンタイトルではなく、沖縄国際映画祭のクリエイターズ・ファクトリーから生まれたマインド的なアバンタイトルです。例えば、その作品がWB配給に決まったとしても「katsu-do」をつけます。

▼「katsu-do」レーベルが本格始動し、沖縄国際映画祭発の優れた映画が評価を受けるようになると、日本中、いや世界の映画ファンが、沖縄に注目するかもしれない。奥山氏は「あそこで拾ってもらえれば、世界に出られる。そういうポジションに沖縄国際映画祭を導きたい」と力を込める。


吉本興業大崎社長&ロゴマーク.jpg


<映画祭に限らず―大崎社長とどっぷり>

▼奥山氏は沖縄国際映画祭のEPだけでなく、吉本興業の映画に関するEPにも就いた。「映画祭だけでなく、松本(人志)さんの映画だろうが、品川(ヒロシ)さんの映画だろうが、ありとあらゆることに協力していく」という。

―沖縄国際映画祭ではなく、吉本興業のEPとしてはどのような動きになるのでしょう?

奥山 動きどうのというよりも、どっぷりと大崎さんとやっていく感覚です。映画に関しては信頼していただいているし、その信頼に応えようと頑張っていきます。すべては大崎さんに尽きるんです。ものづくりの感覚、人間性、こんなに心地が良い人はいません。人を信頼することをすごくよくわかっている方。クリエイターってああいうリーダーがいて、生まれてくるんです。

 大崎さんほど、優秀なクリエイターを生み育てられる人はいません。ただ、吉本興業の映画というジャンルにおいては、幸運にも隙間があって、そこに私に椅子を提供していただいたまでで、本当に期待に応えたいんです。

―奥山さんが吉本興業の映画をどう変えるかということに注目が集まります。

奥山 変えるとかじゃないですね。今までの吉本興業の映画を否定も肯定もしないし、吉本興業についてどうこういう立場でもありません。

 吉本興業って、自由で活力あるエンタテイメントをどんどん生むことができる組織だと思うし、これまでもその方向性だったと思うんです。映画の分野でそれをより具体的にする力になれたらと思います。私からすると、大崎さんが「よかったね、ありがとう」と言ってくれればそれで十分なんです。
 
―すでに「R-18文学賞」シリーズが動いています。1月には第1弾「自縄自縛の私」(竹中直人監督)が公開されました。いきなり過激です。

奥山 大崎さんは「奥山さんと一緒に仕事するほど危険なことはないですから(笑)」とおっしゃってくれていて、あんなの序の口ですよ。


金子修介監督「ジェリー・フィッシュ」完成

▼第5回沖縄国際映画祭では、シリーズ第2弾「ジェリー・フィッシュ」がプレミア上映された。金子修介監督による女子高生の官能ストーリー。劇場公開を控える。

ジェリー・フィッシュ.jpg

―最後に存分にアピールしてください。

奥山
 良い作品になっています。金子監督って自由にやっていいよと投げるとしっかり保証書のような作品に仕上げてくれるんです。映画職人としてきちんと作ってくれた。下品にならず、品のよい傑作になっていると思います。観ていただければわかると思いますが、長い目でいけば必ずいけます。

 かつて、1時間に3回セックスシーンがあればあとは監督の自由に撮れた日活ロマンポルノから才能がどんどん生まれましたよね。種類は違うけれど、その自由さみたいなものが「R‐18文学賞」シリーズにはあるんです。それもまた大崎さんの懐の広さゆえ。自由だけども、そこに胡坐をかかず、しっかり質の高い映画になっています。

▼奥山氏が吉本興業と組んだ。来年以降、沖縄国際映画祭はどう変わるのか。吉本興業の映画はどう変わるのか。予想すらつかないが、油断ならない組み合わせは、必ず日本のエンタテインメント業界に、面白くも痛烈なパンチを見舞ってくれそうだ。

(インタビュー・文・写真:高崎正樹)

(C)2013 沖縄国際映画祭/よしもとラフ&ピース
 (C)2013「ジェリー・フィッシュ」製作委員会



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