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トップインタビュー:依田巽 ギャガ(株)代表取締役会長兼社長CEO

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トップインタビュー:依田巽 ギャガ(株)代表取締役会長兼社長CEO

2010年07月20日

ビジネス・チャンスをどう最大化するか

 ―この4月から決算期を変更されましたが、そうされた理由は。

依田 これは親会社(ティー ワイ リミテッド)の決算期ということもありますし、それから昨年の8月31日のUSEN時代の決算は、まだいろいろなしがらみのある決算になっていますから、それを7ヵ月できちんと整理して、健全な財務状況にリセットしたかったということもありますね。


 ―木下工務店の木下社長とは今後もパートナーシップを維持されていくのですね。

依田 そうですね、彼と初めて会ったのは仲間の勉強会のような場でした。当時はエム・シー・コーポレーションという会社の社長で出ていたのですが、4年ぐらい前から木下工務店に変わったので、「あ、なんだ、じゃあ自分の家業を継いだんだ」と思っていたんです。でも、よく聞いてみたらそうではなくて、木下社長個人が木下工務店という会社を買収したと。たまたま同じ「木下」だったということがわかったのですけれど。非常に素晴らしい経営者ですよ。

 私がチェアマンを務めているということで、「それじゃあ」と、東京国際映画祭にも協賛してもらっています。彼は大変な映画好きで、文化、スポーツなどへの協賛をいろいろやっていますからね。東京国際映画祭のほうにも力添えをいただき、ありがたいです。

 木下さんも私がどういう経営者かというのを知っていて、お互いに信頼関係がありますから、私がやるのだったらということでギャガにも出資してくれまして、代表取締役で社長も任せてもらっています。彼は私から見ればまだ若く、これからの経営者ですから、私としてもハッピーですし心強いですね。


 ―会社の株主であると同時に、個々の作品の出資会社にもなるということですか。

依田 ええ、それもあります。ですから、「依田会長個人がティー ワイ リミテッドとして出資する時は、私もやりますから」と。「赤字になるとわかっていても?」と聞いたら、私と同じで「どうしてもやりたいものはやる」と言っていましたから(笑)。


 ―それは心強いですね。

依田 中には最初からこれはいくら損をするというケースもあるわけです。それでもその作品を世に送り出すことに意義があると判断すれば、損をする金額によってはですが、ギャガではなく、私個人でやるということはありますね。


 ― 一昨年木下さんにインタビューをした時に、木下工務店の宣伝予算が年間10億円ぐらいあって、それを映画製作費に投資するというお話をされていました。ギャガには大体どのぐらい出されるのですか。

依田 ギャガに関わっていただき約1年になりますが、毎月財務処理を見てもらい、彼にも今のところ納得してもらっています。これから仕入れる予定の作品等については、折に触れて連絡を入れていますから、お互いにストレスを溜めてまで出資しなくてもいいようにしようと思っています。ギャガ自身は無借金経営ですが、早く完全に自立してファイナンスができるようにしたいと思って経営しています。


 ―株主として新たなパートナーを加えるという考えはありますか。

依田 今のところ考えていません。


 ―当面は木下さんと、ということですね。
依田 ええ、もちろんそうです。


 ―人材的にはどうですか。特別顧問として元ワーナーの荒井(善清)さんを迎えられましたが。

依田 荒井さんはすごく楽しい、いい方ですから、少しお願いしようかなと思ったのですが、彼自身もいろいろお忙しく、「依田さん、月水金とか言われても来られない」とおっしゃるので、おもに在宅でいろいろお願いしております。特別顧問という名称で、少ない顧問料ですが、「まあ、楽しくやりましょうよ」ということでお願いしています。


 ―今後、新たにどなたか入れられるというお考えは。

依田 ありますよ。ありますけれども、現在在籍している人材のモチベーションをいかに上げて、皆に全員野球でやってもらうことが第一です。新たに人材を入れたからといって、それで効率が上がるとは限りませんし。ただ、圧倒的に人手不足の部門がありますから、そこは考えています。


 ―社内の人材育成の部分では、星野取締役にも更にやってもらわなくてはいけない、期待されていることがあると思います。

依田 そうです。社員から生え抜きの取締役は1人ですから。取締役としての自覚と、誇りと、夢を持って走ってもらいたいなと思っています。


 ―依田さんは会長兼社長という形で当面いらっしゃるのでしょうか。

依田 グッド・クエスチョンですね。私もかなり記憶力が鈍ってきましたから(笑)、やはり70歳なんだなと思いますけれど、よく休むと元気になりますので、まだ大丈夫かなと。老害をまき散らすようになったらいけませんので、そうならないようにと思ってやっています。そのことも私の大きな課題ですね。


 ―映画業界を見ると、パッケージ・ビジネスを含めて厳しい状況が続いています。そういった映画ビジネスの中で、先ほどの「プロジェクト21」を含め多角的にやっていき、どうギャガを生き返らせるかですね。

依田 映画ビジネスとしてのスケール感というか、規模はある程度は決まっていますよね。これを伸ばさなければいけないというミッションはありながらも、その中で私どもが今まで25年このビジネスをやってきた経緯からいくと、やはりきちんと企業として生き残っていくということがまず大事です。映画ビジネスの中に私どもができる新しいビジネスを取り込んで、常にギャガらしいセンスのある、新しい、活力のあるビジネス・モデルを作るべきだろうと思っています。

 私も約20年前にエイベックスを今日に持って来るためにいろいろなことをやりましたけれども、ティー ワイ・グループとして、今まったく同じことをやろうとしているのですよ、エンターテインメント・ビジネスというのは、時代とともにハウ・トゥは変わっても人間が社会で生きていく上では不可欠で、そこにはその時代、時代に要求されているものを創り上げていくクリエイティビティというのが常に要求されるわけです。ですから、ただ作品を買って来て、それをいくらで売るかということではなく、その付加価値を自分たちで創造できる、言ってみれば価格を自分たちでセットできる、そして権利を持つビジネスに昇華していくことが可能なわけです。

 エイベックスでは、自社でブランド力を持ち、権利を取得して、そしてクリエイティビティを社内に取り込みました。そして映像/音楽/海外/ITという四本柱を私が作ったのです。それを言い出したのは約20年前です。1993年にラスベガスのCOMDEX(ラスベガス最大のコンベンション。ハイテク業界の祭典)で、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が「あと5年も経つとパームトップ・コンピューティングができますよ」と言うのを聞いたのです。それで先ほども申し上げましたが、1995年にエイベックスで会長室直轄の「ニューメディア準備室」を作りました。とにかくインターネットが大きな変革をもたらすだろうということで、音楽業界ではソニーミュージックさんとエイベックスがほぼ同時にスタートしたのですね。

 そういう経験もしていますし、やはり創造力というのが絶対に大事なのです。創造性があるかどうか。「メーカーだから創造性」というのではなくて、ディストリビューターにも創造力のあるディストリビューションが必要です。ですから私は会社の企業理念として、「特異性のある創造」ということを掲げているのです。ギャガが創造力を常に培うことができる会社で、自分たちの作品にきちんとした権利を付加して、自分たちで価格を設定できる――そういうビジネス・モデルを作る必要があります。でもそれは、突然にはできないのですよ。

 ですから、まずは今までの本業を大事にしながら、何とか大きく赤字を出さないように、――実際は大変だと思いますけれども、それをここ1~2年で保っていければ、その先の新しいビジネス・モデル作りにも一歩ずつステップアップできると思います。それは今の映画業界の皆様方との直接的な競合ではなくて、スピンオフした、何か新しいものができるのではないかと思っています。そういう意味では新規参入のようなものですね。

 映画業界のみなさんには「まあ、映画もやってるんだったら、協力してあげようよ」というような形で、いろいろ一緒に仕事をさせていただけたらと思っています。現実は簡単ではないと思いますが、そういう夢がないと、社員だって何を信じていいかわからないではないですか。夢や目標を持ち、それに向かって突き進むことによって、まわりのステイクホルダー、金融機関も含めて、安心してくださるのだろうなと思っています。


 ―「世界トップクラスの映画配給会社を志す」と掲げていますが、なんとかそこまでもっていきたいということですね。

依田 やる以上はね。やはり信頼される配給会社でありたいと思いますよ。


 ―新しい作品で、3Dの作品がありますが。

依田 ありますよ。もう発表しましたけれど「三銃士」(仮題)―これは満を持して、ギャガらしいマーケティングをします。


 ―いま盛り上がりを見せている3D市場をどのように捉えていますか。

依田 私は「3Dの時代だ!」ともう2年も3年も前から言っていまして、約5年前にギャガの会議で「センター・オブ・ジ・アース」をどうするかといった時に、「絶対に3Dの時代が来るから、赤青メガネがどうのこうのなんて言っているんじゃない。これからは日進月歩だ」と言ったのを今でも覚えています。それで2年前の「センター・オブ・ジ・アース」の興行は非常によくて、その後も2本やりましたか。この「三銃士」(仮題)は3Dで、「バイオハザード」のポール・W・S・アンダーソン監督が作っていますから。来年の夏にできます。

 こういう作品をはずさないようにするのは、今のギャガだったらできると思います。興行成績の予測に応じた経費をかけて、確実に収益を上げていくと。こういう作品は絶対にはずせないですよね。(了)



依田 巽 (よだ たつみ)
ギャガ株式会社 代表取締役会長兼社長CEO


 1940年5月27日 長野生まれ。1963年3月 明治大学経営学部卒業。同年4月現・長田電機工業(株)入社。1969年山水電気(株)入社。1988年3月(株)トーマス・ヨダ・リミテッド(現・ティー ワイ リミテッド)設立。同年8月 現・エイベックス・グループ・ホールディングス(株) 顧問、1993年同社代表取締役会長を経て1995年同社代表取締役会長兼社長就任(2004年8月退任)。1999年12月(株)ギャガ・コミュニケーションズ(現・ギャガ株式会社)取締役、2004年12月 同社代表取締役会長就任。2004年12月、2005年4月(株)ティー ワイ リミテッド代表取締役会長、2005年8月 (株)ドリーミュージック代表取締役会長、2008年08月(株)ティー ワイ エンタテインメント代表取締役就任。2009年7月(株)ギャガ・コミュニケーションズ(現・ギャガ株式会社)代表取締役会長兼社長CEO就任。その他、(株)ティ・ジョイ取締役、楽天(株)。

 公職は現在、日本経済団体連合会 理事(2004年2月~)、同 産業問題委員会 エンターテインメント・コンテンツ産業部会 部会長(2003年7月~)、映像産業振興機構(VIPO)幹事理事(2005年7月~)、Japan国際コンテンツフェスティバル実行委員会 副委員長(2007年2月~)、東京国際映画祭(TIFF & TIFFCOM) チェアマン(2008年3月~)他、政府の委員職多数。

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