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東宝(株)映像本部映画調整部 市川南部長に聞く!

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東宝(株)映像本部映画調整部 市川南部長に聞く!

2011年01月29日

TV局映画、アニメ、自社製作を3本柱に
 チャレンジングなものも織り交ぜていく!


 東宝は、2010年1月~12月の年間興収成績で748億6912万2938円を記録。7年連続で興収500億円を突破すると共に、08年に記録した739億円を超え、歴代最高の成績を収めた。
 08年は、スタジオジブリの宮崎駿監督作品「崖の上のポニョ」(興155億円)など史上最強と言われたラインナップでの記録だったが、10年は、ジブリの新鋭・米林宏昌監督作品「借りぐらしのアリエッティ」(興収92・5億円)を筆頭に、終わってみれば08年の記録を10億円近く超えてみせた(08年興収対比101・3%)。
 昨年12月15日に行った東宝の2011年ラインナップ発表の席で、千田諭専務は改めて作品を提供してくれた製作関係者と、配給・宣伝スタッフの尽力に感謝を述べ、島谷能成専務は“編成上の名作”と評しつつ、自社企画の作品でも結果を出せたことで、新しい芽が出てきたことを感じていると述べた。
 そして11年は、邦画系・洋画系合わせて11年1月~12月で数えると29番組(1月中旬現在)を公開する。ラインナップ発表会の場で、記者から“隙のない番組編成”と評されたように、今年も非常にポテンシャルの高い作品が揃い、更なる記録更新の期待もかかる。昨年を振り返りつつ、今年の番組編成について、映像本部の市川南・映画調整部長に聞いた―。



 ―歴代最高の年間興収記録達成おめでとうございます。昨年12月のラインナップ発表会の時は記録達成について慎重な姿勢を崩しませんでしたが、結果的にはプラス10億円という成績でした。まず、2010年を振り返ってもらえますか。

市川さん②.jpg 市川 1年を通して、各作品の制作者の皆様が、クオリティの高い作品を作って下さって、またそれを東宝の宣伝・営業部隊と一生懸命売って下さった結果だと思います。例年と同じような傾向なんですけど、それが昨年はより一層作品がつぶ揃いで、最高に上手くいったということだと思います。

 一つ目は、TV各局さんの映画づくり。特に昨年はフジテレビさんの作品が中心でしたね。749億円の内の約300億円がフジテレビさんの作品。「THE LAST MESSAGE 海猿3」、「踊る大捜査線THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」、「のだめカンタービレ最終楽章(前編)」、「のだめカンタービレ最終楽章(後編)」、「SP THE MOTION PICTURE 野望篇」、「LIAR GAME ザ・ファイナルステージ」と東宝の2010年年間作品別興収の上位にフジテレビさんの作品が並んでいます。それから、TBSさんも「SPACE BATTLESHIP ヤマト」、「ハナミズキ-君と好きな人が百年続きますように-」、日本テレビさんとはジブリ作品「借りぐらしのアリエッティ」や「名探偵コナン 天空の難破船」がそうですね。テレビ朝日さんも「劇場版トリック3」、「十三人の刺客」とお馴染みの「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」。TV各局さんの映画がひと際上手くいきました。

 もう一つは、アニメーションですよね。先ほどあげたジブリさんの「借りぐらしのアリエッティ」の92億5千万円から、毎年お世話になっている「ポケモン」「コナン」「ドラえもん」「しんちゃん」「ナルト」という5大シリーズすべて好調だった年。

 3つ目は自社製作。これがカギを握っているかと思いましたけど、「告白」の38億5千万円、「悪人」の19億8千万円、テレ朝さんとの共同幹事作品「劇場版トリック3」が18億6千万円と16億円の「十三人の刺客」。それから「ゴールデンスランバー」が11億5千万円という風に、自社作品も上手くいった年でしたね。中でも「告白」「悪人」は興収のみならず、各映画賞でも評価して頂いたのでありがたい限りです。


 ―その東宝幹事作品についてお聞きしたいのですが、「告白」「悪人」などは興行的には難しいテーマを扱っていたと思います。この結果は観客の嗜好の変化による予想外のものなのでしょうか、それともある程度想定内の数字が残せたのですか?

 市川 目標はまず興行だけでペイできるということなので、そういう意味では特に「告白」「悪人」は期待を大幅に上回ってくれました。お客さんの嗜好が極端に変わったとは思いませんけど、お客さんがいつも同じ味のものばかり食べていると、どんなに美味しい食事でも飽きるんでしょうね。そういう中で「告白」「悪人」というちょっと違うテイストの料理が混じったということなのではないでしょうか。

 ただ、それは意図して狙ったところももちろんあるんですけど、同時に両方ともベストセラー小説の映画化なんです。味が刺激的でもやはり今旬になっている素材を料理したという意味では、そんなに斬新というか、保守的な中での斬新という感じ。でも、どんなに旬の作品でも料理人の腕が下手だと不味い料理になってしまうわけで、中島哲也監督、李相日監督と出会ったこと、あるいは我々プロデューサーサイドが上手く出会わせたということ。「告白」だって下手に撮ればただの2時間ドラマですよね。

 映画会社の映画作りというのは、TV各局さんの映画作りがある中で、やはりあまり同じことをしても、それは大きな仕掛けではTV局さんに敵わないわけです。映画会社としては、ある成功例なんでしょうね。


 ―TV局映画との番組編成上でのバランスに気を使われたりしたのですか。

 市川 それはあんまりないんです(笑)。たまたま「悪人」は、妻夫木(聡)さんの大河ドラマが終わるのを待っていたりして製作が遅れたので今年になってしまっただけなんで、そんなに深い意図はなかったんです。ただ、結果として「告白」「悪人」と2本重なったことで、東宝の映画作り、映画会社の映画作りということに世間の耳目が向いてくれたので、その効果はあったと思いますね。 
 かつてはTV局さんも映画会社の企画に後乗りで、一部出資をして放送権を得るという発想だったのが、今は自分たちが中心になって作って、宣伝していくというやり方がメインなので、上手く住み分けられているのではないでしょうか。


はっきりとした“感動”を提供する

 ―昨年、中には期待を下回った作品もあったと思うのですが、その要因をどのように分析されていますか。

 市川 「食堂かたつむり」なんかは東宝自社製作の作品でしたけど、原作は売れていたんですよね。柴咲コウさんの主演ですし、そんなに間違いはないかと思ったんです。食に関する映画って案外難しいことはありますけど、それだけじゃないですよね。やはり、小説が売れてはいるけども、わかりやすい強い感動を持った作品ではなかったんですよ。食に関心のある人たちが、読んだ雰囲気に浸って女性たちが楽しんだ小説なんでしょう。

市川さん③.jpg 我々が公開するのは200スクリーン以上なので、それに向いていない作品だったということかもしれません。作り方も、母と娘のドラマがあるんですけど、そこを強調しようと脚本を作ってきました。ただ、小説はもうちょっとさらっといってるんですね。そこら辺を読者は、母と娘の話より、料理の話を好んでいたのではないか―。題材がそもそも大型のエンタテインメント映画に向いていなかったのを、映画ではちょっと力技でそういう風に変えようと作ってしまった。それをお客さんも見抜くんだなという気がしましたね。
 それは一例ですけど、やはり企画自体が時代とマッチしていない時に、大きく予想を下回る作品が出ているような気がします。


 ―観客の嗜好に合わせ、時代にマッチさせていくのは容易ではないですよね。

 市川 そんなに大きな変化はしていないと思いますが、2年くらいかけて作るので、そこはぴたりと合わせることは出来ないと思うんですよ。今みたいな不況の時代だからこそ「告白」「悪人」のように毒のある作品が当たったとも言えるし、コメディが爆発的に当たれば、不況を吹き飛ばすために当たったんだと、時代の説明は後付けになってしまう。

 そうすると我々は娯楽映画的なはっきりとした“感動”を用意しておく。そうするとたまたま時代にマッチすれば「告白」「悪人」のように大ヒットするし、そうでなくても「ゴールデンスランバー」のようにある感動をもった作品にしていくと10億円を超えるようにはなると思っています。時代性が欠けていても、わかりやすい、長編娯楽映画として負けないようなある感動さえ持っていればという気はしています。

 ただ、感動といっても幅広くて、笑うことも感動だし、怖がるとか、泣くことも、心を震わせることも感動です。08年は「崖の上のポニョ」がありました。「ポニョ」なくても追いつけるのかという中で、昨年は予想以上に各作品が高稼働したんだと思います。



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