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映像&エンタメフォーラム取材レポート

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2010年11月18日

ユニジャパン主催
「第7回文化庁映画週間シンポジウム‐MOVIE CAMPUS‐」/
(6)第三部「映画文化維新!時代を変える新しい興行文化のつくり方」

ゲスト 梅津文(GEM Partners(株)代表取締役)
    吉村知己((株)ヨアケ代表取締役)
    下地久美子((株)クランク 桜坂劇場 番組編成)
    武田和(一般社団法人映画演劇文化協会 午前十時の映画祭主催)


 第三部では、都市と地域における映画市場の構造分析を交えながら、映画ファンと映画館をつなぐ映画文化を宣伝や興行の視点から検証した。


シンポジウム第三部の様子.jpg

(左より関口氏、梅津氏、吉村氏、下地氏、武田氏)


梅津氏.jpg 冒頭、GEM Partnersの梅津代表が、豊富なデータをもとに「現在の映画興行は、シニア層とヘビーユーザーに支えられた市場」との基調分析を披露。それを起点に三者三様の“成功事例”が語られた。


●桜坂劇場の取り組み(下地氏 発言の要旨)


「沖縄・那覇の市街地にある桜坂劇場は、2005年7月1日にオープンした。映画監督の中江裕司が代表を務めている。全3スクリーンで、2階に最大キャパの300席のシアターがあって、1階に他の2スクリーンがある。役員、社員、アルバイトを含めて25~30名のスタッフで運営。年間で300本弱の映画を上映している。沖縄の当日一般料金は1600円だが、当館の会員システムは年会費2千円で、いつでも1000円で鑑賞できる。会員数は1万人を超えており、ミニシアターの会員システムでは多い方ではないだろうか」


下地氏.jpg「月刊の無料情報誌『Sakurazaka FunC』は、近くの店舗などでも設置して、合計3万部を発行している。最新の11月号は、10月の初めに出した。この中には11月の上映作品だけでなく、上映時間まで詳しく載せている。つまり、それだけ、早めに上映スケジュールを確定しているということ。今は、来年2月の番組編成を考えている。当館では、編成にあたり、楽日まで決めてしまい、上映期間、時間を1ヶ月前にはお客様に提供できるようにしている」


「当館では、映画上映以外に様々な取り組みを行っている。その中心的なものが音楽ライブ。配給会社の理解を得て、映画を休映にして、ライブを行うこともある。当館はシネコンと違って、もともとの認知度が低い。音楽目当てで来てもらって、結果的には、映画館の存在を知ってもらえる。ライブは認知度アップに一役買っている」


「映画以外の取り組みの一つは、体験型ワークショップ『桜坂市民大学』。当館は、映画館『桜坂シネコン琉映』の撤退した跡にオープンしたが、シネコン琉映時代からあった広い会議室を一般に開放して、ワークショップを開始した。映画の制作、脚本を中心に10講座から始め、今では映画に全く関係のないものも含め、全部で100以上の講座が開かれている。1クール3ヶ月に延べ700名、4クール年間で3千名近くが、市民大学のために来場している。今年の夏には、子ども向けに1週間、50講座を設け、800名の子どもが参加した」


「映画鑑賞の前後で食事やお茶を楽しんでもらおうと、自社でカフェ『Cha‐gwa』を経営している。カフェには、観光客向けのショップ『ふくら舎』を併設。中古レコード店を改装してオープンした。自社で買い付けた書籍や雑誌(古書含む)、沖縄の手工芸品や焼き物、沖縄の若手アーティストが制作した作品などをセレクトし並べている。いずれは、卸業務も始めたい」


「映画の観客だけでなく、音楽目的の人(ライブ)、ランチ目的の人(カフェ)、雑貨目的の人(ふくら舎)など、目的は様々でも、劇場スペースに多くの人がいることが理想的。映画がヒットしなくても、経営を食い止められるように頑張っている」


「配給会社からは、“よく上がっているね”とは言われる。でも、かつては『フラガール』や『かもめ食堂』が一興行で興収2千万円弱を上げたが、最近は、そこまでの力のある作品がない。今年は『キャタピラー』『プレシャス』の興収600万円がトップ。東京の公開時に宣伝が効いて成功した映画でも、それほど上がらなくなった。当館での成功の基準は明確ではないが、興収目標については会議で決定している」


「『キャタピラー』『プレシャス』では独自の宣伝を行った。『キャタピラー』は、若松孝二監督から、戦争でひどい目に遭った沖縄で最初に公開したいという話があった。寺島しのぶさん、大西信満さんの初日舞台挨拶が決まり、その告知を行うために、マスコミ試写を3、4回実施。監督もコメントを沢山出してくれて、ニュース番組でも取り上げられて、全県で“見なきゃいけない映画”になった。『プレシャス』は東京公開から3ヶ月経ち、作品の知名度はあった。上映することを知ってもらえれば、必ず来てもらえる感触はあった。地元局とバーターでTVスポットを流したが、東京公開の際はTVスポットがなかったので、素材を提供してもらって自前で作った。当館では、ヒットする映画にはおばあちゃんが大挙して来るものだが、『プレシャス』ではミニスカ、ハイヒールの若い女性が数多く来場したのが、とても印象的だった」


●午前十時の映画祭 現状報告(武田氏 発言の要旨)



武田氏.jpg「午前十時の映画祭を始める際、最初は、映画業界は協力的ではなかった。配給会社としては映画祭のためにプリントを焼かなければならない、興行会社は旧作を1週間ずつ上映するのはリスクがあり手間もかかる。しかし、ラインナップが出て、錚々たる作品群が並ぶと、配給、興行サイドの姿勢が変わった。名作をBSやCSで見ることはできるが、やはりスクリーンで見るのには意味があるという共通の理解ができあがった」


「作品のセレクトは、ネットを通じた一般投票と、選考委員の先生方の意見をもとに決めた。その際、カギとなったのは、ニュープリントが入手できるかどうか。『サウンド・オブ・ミュージック』『風と共に去りぬ』などは、契約の関係上、問題があって初年度は断念せざるを得なかった。マスターをジャンクしてしまっている作品もあり、この映画祭が大金のかかる企画と言われる所以。費用が高い作品だと、プリント1本につき200万円以上かかるものもある。全ての作品でプリントを2本作るので、場合によっては1作品に500万円近くかかった作品もあった。業界のある方から“ウチも同じような企画をやりたいんだが…”と相談された時、私が“1億円はかかるよ”と答えると、相手は無口になってしまった(笑)」


「もともとは、映画祭の企画プロデューサー、中川敬(東宝専務、TOHOシネマズ社長)の発案から始まった。背景にあったのは、若者の洋画離れ、字幕離れ。昔は毎日テレビで『洋画劇場』が放映され、淀川(長治)さんらが優しく解説してくれた。旧作を鑑賞できた名画座もなくなった。洋画の入門の場がない中で、午前十時の映画祭をそのきっかけにする狙いがあった。全国25劇場でやっているが、近くの映画館で上映していなければ、目当ての作品をDVDでレンタルして見るのでもいい。映画の良し悪しの判断基準を、若者に教えることができれば、将来の映画ファン育成にはいいことだと」


「若い人に向けて企画したが、実際には、圧倒的に年配者の来場が多い。一般1000円、学生500円で、シニアだけの料金設定がないため明確なデータはないが、感覚的には動員の半分以上は年配者。学生は7%強で、当初見込みを下回る。大学生ならば平日でも来られそうだが、動員には結びついていない」


「新作映画は公開から時間に経つにつれて上映頻度が減っていくが、午前十時の映画祭は毎日、決まった時間にやっている。1週間上映したら、次の1週間のうちに、次の劇場へプリントを移動させる。よく知っているお客さんは、プリントの流れを把握している。見逃してしまった映画を、次の劇場に追いかけていって見るというお客さんもいる」


「午前十時の映画祭は、ネット上で大きな話題となっている。映画を見た個人が感想をブログなどにアップし、我々もそれを見ることで、生の声が分かるようになった。こうした声は、2年目の開催に生かす。若者の動員が少ないのは確かだが、ネット上の反応を見てみると、若者の間でも少しずつ浸透してきているようだ。1年目の作品の中で、今の若者が見ても楽しめる映画もあれば、テンポ自体が遅くなかなか楽しめない作品もある。2年目については11月に記者発表(※11月17日開催)をするが、もっと若者が見やすくなるように、娯楽色の強い作品をセレクトする方針。午前十時の映画祭は“芸術映画”をやるつもりはないので」


●「チェ」2部作の宣伝(吉村氏 発言の要旨)



吉村氏.jpg「『チェ』2部作は日活が買付け、ギャガは日活から配給を委託され、私が宣伝を担当することになった。『チェ』が興行的に成功したかどうかと聞かれれば、見方によって違ってくるだろう。パート1は8億円、パート2は4億円弱の興収を上げた。ビデオはそれほど回っていない。一つ成功と言えるのは、パート1が突出して良く、全米ではまともに公開されなかったことなどもあるが、日本が世界一当たった。南米にゆかりのある作品なのに、なぜ日本で当たったのか、海外で話題となった」


「どう売っていくのか大いに迷った。なぜ今、チェ・ゲバラの映画をやるのか…。『チェ』は三十苦の映画。地味で、派手なアクションなど全くない。主役がともすればテロリストである。2部作で4時間半という長尺。“どう興行するか”から組み立てることにした。日活には2部作を一遍に公開することを提案したが、やはりリスクが大きいということで実現には至らず。いずれにしろ興行をイベント化して、ムーブメントを起こさなければならない。それなら、2部作で間を空けずに公開(2009年1月10日、1月31日)しようと決めた」


「宣伝がブレないように、心棒となるものを作るため、GEMの梅津さんに、我々の仮説を検証してもらった。仮説は、“アイコンになっているゲバラの写真は親しみがあり、多くの人が知っている。ゲバラがこういう人物だということを伝えれば、映画を見てくれるはずだ”というもの。検証によると、ゲバラの顔を知っているのは60%、どういう人物かを知っているのは32%、映画を見たい人は9%。ここで、ゲバラの生涯など宣伝サイドのメッセージを伝えると、映画を見たいと答えた人は4倍以上の38%に増えた。梅津さんから“いけます!”という返事をもらった」


「宣伝は、ゲバラにまつわる細かな点は省いて、“知っておくべき人物”“体験しておくべき映画”に行きついた。2部作を個別に打ち出す必要がある。2部作を“生のゲバラ”“死のゲバラ”と差別化。邦題には“革命”“別れ”の単語、年齢をそれぞれに入れ、パート1が『チェ 28歳の革命』、パート2が『チェ 39歳 別れの手紙』となった。素材がなかったので、ポスターや予告編も日本サイドで先行して立ち上げた」


「実は、1回目の会議で、宣伝チームに厳しい目標を課した。それは、朝日新聞『天声人語』、NHK『おはよう日本』、テレビ朝日『報道ステーション』の3媒体で露出を取ること。この3つを決めなければ、パブをいくつ決めようが認めないと話した。結果は、チームが本当によく動いてくれて、見事に3つとも獲得できた。また、“3つの言葉たち”として、天声人語の他、スタジオジブリ鈴木敏夫プロデューサーのコメント、作家の村上龍さんのコメントを活用した。2009年1月1日の元日に朝日新聞で全15段の広告を打ち、交通広告も大きく展開。モニター試写で観客の反応には自信を持っていたが、年末にベニチオ・デル・トロが来日したことが、興行を大きくプッシュした」


「当たる作品にはよくあることだが、宣伝が浸透していくにつれ、作品が自分の手を離れて、勝手に走っていく感じがした。映画の神様はいたんだなと思える幸福な作品だった」


●第三部のまとめ(関口氏 発言の要旨)



関口氏.jpg「各ジャンルの成功事例を挙げてもらったが、実際はどう成功し失敗したのか、データをもとに検証することはあまりない。今回のシンポジウムを通じて、次にどんなアクションをすべきか明確になったのではないか。“変えていく”のは色々と難しいが、発想の転換や、意識の持ち方を変えるのは自分でできる。まずはできることから始め、良い映画文化を今後も作っていきたい」



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